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上司に在宅勤務の良さを定量的に伝える方法 ~『ピア効果』の測定と課題~

 在宅勤務でなく出社を良しとする雰囲気が根強い背景には、何があるのでしょうか?

 私は、一部の経営者がリモートワークでは『ピア効果≒同僚囲まれ効果』が失われ、生産性が落ちることの懸念が背景にあると考えています。『ピア効果』とは、優秀な同僚の仕事への姿勢から、刺激を受けて自分の生産性が上がったり、質の高い同僚が多くて自分も頑張らねばとプレッシャーを感じて、自分だけでなく職場全体の生産性が改善されるような現象です。こうしたピア効果による生産性へのプラス効果を期待している経営者が多いからこそ、出社を第一とする企業が少なくないと考えられます。では、在宅勤務を勤め先に促したいビジネスパーソや、組織長はどうすべきでしょうか?

 働き方の多様性を確保するためにも、在宅勤務は生産性にマイナスばかりでない、出社形式だからこそ生産性が改善されるわけではないというのを定量的且つ客観的に、上司や経営者に示す必要があるでしょう。ここでいう、定量的且つ客観的とは、統計分析の一丁目一番地の回帰分析などでエビデンスを作ることです。三木雄信氏の著書「世界のトップを10秒で納得させる資料の法則」には、ソフトバンクG孫正義氏が「これから回帰分析をしないやつの話は一切聞かない」と言いだして、社員はみな、徹底的に回帰分析をやらざるを得なくなったことを言及しています。

 経営には、回帰分析や定量的エビデンスは当然になりつつあります。今回は、出社した際の『ピア効果』と『生産性』にプラスの効果が本当に存在するのか・無いのかのエビデンスを作りの方法を考えます。そのエビデンスにおいて、実は効果がないとなれば、在宅勤務への説得はしやすいかもしれませんし、効果があるとなれば、『ピア効果』をリモートワークでも発揮するための方法を構築するたに、経験則に頼らない議論の契機にできると思います。


*『ピア効果』と『生産性』の因果関係をどう推定する?

 では、『生産性』に対して『ピア効果』の影響はどの程度あり、因果関係があるかを計測するにはどうしたらよいのか?様々な検証方法が考えられますが、Waldinger (2012)を参考に考えます。

 例えば、「仮説:職場のピア効果(同僚の生産性の平均値)とピアの数(同僚の数)は、各従業員の生産性にプラスの影響はない」という仮説が成立するかを検証しようとします。その際、ピア効果は年齢、性別、学歴などの個人の特性によって影響が違うかもしれませんし、純粋なピア効果と生産性の関係を推定するには、工夫が必要です。そこで、下記のような、かなり簡略化したイメージ数式を描きます。この関係に沿って、Excelの回帰分析ツールを使うことで、(同僚の生産性の平均値)と(職場の平均年齢)と「各従業員の生産性」に、統計的に正しくプラスの関係か、マイナスの関係か、関係無しかのExcelの結果を用いることで、簡単なエビデンス作りの一歩に近づけるのではと思います。

「各従業員の生産性」=係数 + (同僚の生産性の平均値) + (同僚の数) + (職場の平均年齢) + (計測時の年や月のダミー変数) + (各従従業員の性別・年齢・学歴などの特性)+ 誤差項


*ただし、この回帰分析には課題もある!

 しかし、上記の回帰分析には課題もあります。それは、優秀な人材は、優秀な人材が多くいる企業を選択しているだけだったり、企業が生産性の高い人物ばかりを集めているだけで、セレクションバイアスが存在し、正しく因果関係を推定できない可能性があることです。Waldinger (2012)では、このバイアスをエレガントに解決しているのですが、この方法は計量経済学の中級者向けの方法なので、少しハードルが上がります。なので、下記に参考図書を紹介しておきます。まずは、ビジネスの現場でエビデンス作りを当たり前にするような、経験則だけで議論を進めず、従業員みんなの納得度を高めるスタートとして、上記のような検証をしてみるのはいかがでしょうか。私も、アドバイス先で奮闘しながらこうした検証を行っています!

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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崔真淑(さいますみ)

*注意:冒頭のイラストは崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房)より抜粋。無断転載はお控えくださいね♪

*参考文献

Fabian Waldinger, (2012), "Peer Effects in Science: Evidence from the Dismissal of Scientists in Nazi Germany", The Review of Economic Studies, Volume 79, Issue 2, April 2012, Pages 838–861,

伊藤公一郎著『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(光文社)

 


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