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過疎地に眠る廃校物件を活用したローカルビジネスへの着眼

 東京に人口が集中するのは「仕事がそこにしかない」が大きな理由になっている。しかし、自然環境が良い地方への憧れが無いわけでなく、沖縄には年間で約3万人の移住者がいる。その多くは、システムエンジニアやWebデザイナーなど、リモートでも働くことに支障のない人達である。すべての移住者が成功しているわけではないが、転入者の数が転出者を上回ることで、沖縄県の人口は増加の基調が続いている。

仮に、全国どこに住んでも同じ収入が稼げるのであれば、物価水準が安い地方都市のほうが、経済的な豊かさは高くなる。近年では、全国チェーン店舗やネット通販の普及より、地域の物価格差は縮小してきているが、生活費の大きなウエイトを占める不動産コスト(住居費)には大きな偏りがある。

地方の不動産には、価値が大きく下落している物件が多数あるため、そうした格安物件をビジネスに活用する視点も有意義だ。具体例として、全国では毎年500校を超す公立学校(小中高校)が廃校になっており、その活用方法が模索されている。過去10年の統計では6811件もの学校が廃校になったが、その3割は再活用されないまま遊休施設として眠っている。

こうした状況を受けて、文部科学省では「未来につなごう~みんなの廃校プロジェクト」を立ち上げて、廃校となった施設を民間の企業やNPOに対して、破格の安さで譲渡や貸与している。地域にも役立つ事業プランを提案すれば、家賃を無償~月額10万円程度でも、学校を丸ごと借りることも可能。さらに、自治体からの補助金も支給される。

東京の好立地にオフィスや店舗を借りれば、1坪あたり2~3万円の家賃+保証金(家賃の6ヶ月~12ヶ月分)が必要だが、スペースの狭さから、実行できるビジネスにも制約がある。しかし、地方に目を向けると、安価で広大な遊休施設が豊富に見つけられる。

【廃校を活用したローカルビジネス】

文部科学省では、各地方自治体で廃校になった旧小中高校の物件を、ローカルビジネスを立ち上げたい事業者に仲介する「みんなの廃校プロジェクト」を2013年から立ち上げている。

もともと、公立学校は国の補助金(国庫金)を使って整備されているため、学校以外の用途に転換するためには、自治体が国庫金を返納しなくてはいけない規則になっている。しかし文科省では、年間500件ペースで増えている廃校の再利用を促進するため、一定の要件を満たせば、自治体は国庫返納をせずに、簡略化された手続きで、廃校を民間事業向けの施設として貸借・売却できるようにしている。

既に同制度を利用して、全国では廃校を活用した事業プロジェクトが多数立ち上がっている。地域住民の生活に役立つ、老人福祉施設、放課後クラブ、文化施設などは定番だが、それ以外でも、他県からの就労者や人材育成を目的に若者を呼び込めるような事業は採用率が高い。

たとえば、宮城県仙台市の住宅メーカー、スモリ工業が 2016年6月にオープンした「おうちづくりの学校」は、宮城県大郷町で2012年に廃校になった旧味明小学校を再利用した、大工職人の訓練施設で、3階建ての校舎内には。外壁、内装、床張り、基礎工事などの各工程が学べる教室があり、校庭には同社のモデルハウスも建設される。

この施設では、プロの大工職人を養成する目的の他にも、日曜大工やDIYに関心がある個人を対象とした「大工塾」や、家作りの体験ができる子ども向けのイベントも開催されている。住宅メーカーにとって、住宅展示場を兼ねた訓練施設を持つことは、職人の人材採用~育成と営業セールスの両面でメリットがある。

スモリ工業では、この旧小学校(土地11,398平米、建物2,338平米)を大郷町から6,839万円で購入しており、約4,000万円で訓練施設へと改装している。

【過疎地でのドローン開発とスクール事業】

 ロボットやハイテク機器の開発拠点としても、過疎地の廃校は注目されている。 開発実験には広い敷地があったほうが良く、騒音や、万が一の事故に備えて人口が密集していない立地のほうが好都合なためである。その中でも、ドローンの開発は飛行区域の制限が少ない過疎地が適している。

業務用ドローンの開発製造を行っているサイトテック株式会社では、山梨県身延町にある旧中富中学校を、本社と技術開発の拠点としている。ドローンの飛行実験には、屋内と屋外の両方で広いスペースが必要だが、学校には体育館とグラウンドがあり、その条件を満たしている。また同施設では、これからドローンビジネスに参入したい企業担当者や個人を対象に、ドローンの操縦、組立、メンテナンスに関する実技講習も行っている。

その他にも、茨城県河内町では、ドローン管制システムを開発するアイ・ロボティクス社に対して、2017年3月に閉校した旧金江津中学校を5年間無償で貸与する契約を締結している。これにより国内で最大級のドローン複合施設「ドローンフィールドKAWCHI」が2017年11月にオープンした。

この施設は、都心から80分の立地で、旧教室を活用したドローン開発ラボと、屋内飛行ができる体育館に加えて、屋外でも利根川上空を往復10kmにわたりテスト飛行させることができる。さらに、町内の公民館を改装した、170人まで収容可能な会議場、宿泊施設まで用意されている。

茨城県河内町の人口は、平成7年には11,000人だったのが、平成28年には 9,400人、さらに将来推計では、25年後に 5,800人にまで減少することが予測されている。古くから稲作農業が基幹産業の町であり、若者が働ける仕事が少ないことが人口減少の要因にもなっている。そこで、東京から約50キロの立地を活かし、都心では規制が厳しいドローン飛行に適した場所を提供することで、関連の企業を誘致して、ドローンを新たな地場産業に育てたいと考えている。

【ローカルビジネス拠点の潜在市場】

 ドローンに限らず、広いスペースを必要とする製造業や開発系のスタートアップ企業にとっても、地方をビジネスの拠点にすることは、不動産コストが安く、自治体の支援も受けやすい等の利点がある。拠点とする立地についても、東京から距離が近いエリアや、高速道路や空港から近いエリアなどで、意外な穴場を探すことはできる。

《廃校を活用したローカルビジネスの利点》
●都心の商業不動産よりも物件コストが大幅に安い(無償の場合も)
●広大な土地、建物を利用できる(イベント会場、宿泊施設も可能)
●自然環境の良い場所で業務を行える(社員のストレス軽減)
●地方自治体の支援を受けられる(補助金制度もあり)
●地方の優秀な人材を採用しやすくなる
●廃校の活用事例としてメディアで取り上げられる機会が増える

人口の偏り生じている裏側で、地方には価値が暴落した不動産物件が数多く眠っており、それを上手に活用したビジネスを開拓することも起業家の役割といえる。 過疎地で一つの事業が成功すれば、他の起業者や企業も、同じ土地に注目するようになり、地域全体の経済が栄えていくことになる。現代では「仕事がある場所」に人が集まるのが人口移動の法則であり、そこに自治体と連携したローカルビジネス立ち上げのヒントが隠れている。

■この記事はJNEWSが2017年11月に会員向けレポート(JNEWS LETTER)に配信した内容の一部です。そのため記事中にある数字は2017年時点のデータとなります。他の最新記事については、JNEWS 公式サイトをご覧ください。


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