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アフターコロナの都市をデフレーミングから考える

リモートワークが多くの職場で普及した現在、都市に住み、働くことの意義を問い直す動きが出ている。アフターコロナの世界において、都市はどのような役割を果たすのだろうか。ここでは『デフレーミング』の概念を用いて考えてみたい。

盛り上がるオフィス不要論・地方移住論

リモートワークが普及する中、オフィスを解約する企業も出てきている。特に新興企業においてこうした動きが出ているようだが、その背景には大企業と比べて最先端のツールの導入が早いこと、セキュリティ対策が比較的フレキシブルであること、そしてオフィス賃料の負担がコストに占める割合が高いからといった要因があるだろう。こうした企業は、郊外や地方に移転したり、普段はリモートワークを基本として、必要な時だけシェアオフィスやコワーキングスペース等を使うといった働き方を想定しているようだ。

こうした動きの中、混雑した都市部に住むのではなく、地方に移住しても良いのではないかと考える人も増えているようだ。確かに、ほとんど出社せず、特に大きな支障もなく業務を行えているのであれば、むしろ自然が豊かで食材も美味しく、生活コストも安い地方に住みながら仕事をしたいというのは自然な発想だろう。

脱・大都市、脱オフィスのライフスタイルは確かに魅力的な一面もあるが、それでは今後の都市はどのようになるのだろうか。もう都心に集積するメリットはなくなるのだろうか。今回は、こうした問題を考えるための視点を提示してみたい。

一貫して進んできた東京一極集中

日本における都市間の人口動態については『復興の空間経済学』(藤田昌久ほか著、2018)に詳しいが、実は高度経済成長以来、都市部への人口集中は一貫して進んできた。

同書も参照しつつ概略を示すと、1960~70年代の高度経済成長期には農業の労働生産性の上昇や、農業から製造業へのシフトにより、東京圏、大阪圏、名古屋圏など大都市圏への人口移動が進んだ。また、1970年代後半~1990年代前半にかけては、製造業ホワイトカラーの大都市集中、工場の海外移転などもあり、三大都市圏の中でも東京への集中が始まっている。さらに1990年代後半以降は東京への一極集中がさらに進んできた。1990年代以降の東京一極集中は、知識経済化と、都心の再開発が相まって地理的な制約が解消されてきたことも関係があるだろう。つまり、産業構造の転換のたびに、居住地の制約条件が大きく変わり、そのたびに都市への集積圧力が高まり続けてきた歴史がある。簡単に整理すると以下のようになる。

産業形態  居住地の制約
農業    農地の立地に依存
製造業   工場の立地に依存
知識産業  知識の集積場所に依存

農業中心の時代には土地という制約があり、国全体に分散して住む必要があった。製造業時代になると、工場の近くにある程度集まって住む必要があるが、工場を東京駅や大阪駅の目の前に建てるわけにはいかないため、それなりに分散した立地が可能になる。ところが1990年代以降、知識が重要な資源になり、土地への制約から解放されることとなった。今や重要な資源は知識やアイデアである。こうした資源へのアクセスが良いところに住む必要があるが、それがまさに大都市であった。

こうした中、コロナによって急激にリモートワークが普及したわけだが、知識やアイデアへのアクセスという点で、どこまでテクノロジーが対面を代替できるかというのがポイントになる。そして、コロナで進んだリモートワークが、これまでの集積のメリットを逆転させるほどの力と持続性を持ちうるかどうかが、議論の焦点になるだろう。

都市の生活をデフレーミングで分解し、組み替える

将来の都市がどのようになるかは、対面を置き換えるテクノロジーの進化、コロナ問題に起因するソーシャルディスタンスの期間、人々のリスク回避の度合いなど様々な変数に依存するため、すぐに答えを出すことは難しいが、ここではデフレーミングの概念から少し考えてみたい。

特に、デフレーミングの第一の概念である「分解と組み換え」に基づき、都市生活における多様な要素を一度分解してみることで、どのような要素が技術によって組み換えられるかを検討することができる。実はこの組み換えは、新規事業の発想法にもなっているため、そちらの観点からも参考にしていただきたい。

ここでは、ビジネスパーソンがオフィスに出勤し、帰ってくるまでの生活を想定して簡易的に分解してみると、以下のようになる。(ここでは通勤要素は結果の変数なので除外する)

・オフィスの設備、資源を利用する(デスク、PC、プリンター、書類等)
・同僚と会う、相談する(気軽な相談・立ち話、会議、雑談等)
・取引先と会う、相談する(商談、相談、議論等)
・外食する(美味しい食事、雰囲気)
・買い物をする(実物を見て選ぶ、スタッフと相談、気分転換)
・エンターテイメントを楽しむ(音楽、演劇、映画、景色等)

このように、働きに行って帰ってくるまでの間にも、純粋に作業をするだけでなく、雑談や買い物、エンターテイメントなど様々な要素が含まれていることがわかる。これをリモート化するサービスの観点で組み替えると、以下のようにサービス化することができそうだ。

①自宅設備の拡充(デスク、PC、プリンター等)
②コンテンツのデジタル化(書類、音楽、演劇等)
③コミュニケーションのデジタル化(会議、商談、相談)
④「行く」から「来る」への変革(書籍、買い物、食事等のデリバリー)

①は遠隔で仕事をするためのデスク、PC、プリンター/スキャナー等の設備、書斎等のスペース、ネット環境などである。個人宅向けのデスクや複合機、トナーや印刷用紙、事務用品の供給の個人向け供給、住宅設計におけるオフィススペースの考慮などが必要になる。

②はコンテンツのデジタル化だが、仕事に必要な書類・書籍から、映画まで、コンテンツをデジタル化するという点では同じものである。仕事に必要な文書のデジタル化と電子書籍のサービスは本質的に近い。教育のデジタル化であれば、教育系YouTuberとの競合も意識する必要がある。

③はコミュニケーションのデジタル化で、遠隔会議システムなどがこれに該当する。社内会議や商談など、ZoomやTeamsなどのツールで行っている人も多いだろう。但し、決まった時間に決まったアジェンダで話し合う会議には使えるが、ふとした気づきを話したり、雑談をするには向いていない側面もある。

④は物流に関するもので、今までお店に買い物に行ったり、食事に行くなど消費者が「行く」という行動を取っていたものについて、商品の方から「来る」ように変革するものだ。電車で移動するというサービスが、運送会社が運んでくるというサービスで置き換えられるということはその一例だ。ちなみに、最近タクシーが飲食店のテイクアウトを配送するサービスを手掛けているところが増えているが、これも「行く」から「来る」に転換したサービスである。但し、買い物に行ったときに、お店の人と商品について相談したりすることはできない。

それでもITで置き換えられないもの

このように、都市生活の要素には、デフレーミングされたサービスで置き換えることが出来そうなものもある。その一方で、以下のようなものはすぐには技術的に実現することは難しそうだ。

・気軽な相談、立ち話、雑談
・雰囲気を楽しむ(景色、お店、周りの客の様子、周囲の目線等)
・買い物時の相談、対話
・実演芸術における現場の魅力

これらの多くは、仕事と直接関係ない、生活の余白のようなものである。しかし、実はこれらこそが、今後都市に住み続けるための大きな理由になるのかもしれない。

また、人が創造性を発揮するためには、仕事環境における他者との関係が重要な役割と果たす(Amabile 1996等)。互いにサポートしたり、勇気づけるような職場環境は人の創造性に寄与する重要な要素となるが、こうしたことをリモートでどこまで実現できるかも課題だ。

逆に言えば、こうした生活の余白のようなものを提供できないような都市では、わざわざ高いコストを払って住み続ける人は減少するかもしれない。また、人の創造性を刺激し、互いに伸ばしていくような職場環境を用意できなければ、誰もオフィスには来ないかもしれない。

コロナによるリモート化は、都市やオフィスの本質的な価値を再考する契機となるのではないだろうか。



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東京大学大学院情報学環准教授。既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などを研究しています。詳細はhttps://soichirotakagi.wordpress.com/をご覧ください。

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