23日に福井県にある関西電力株式会社の美浜原子力発電所の3号機が運転を開始しました。全国で初めて、運転開始から40年を超えた原子力発電所が稼働するということで、かなりニュースになりましたのでこの件を気にしておられる方も多いかもしれません。ちょっとググれば、美浜3号機の営業運転開始は1976年12月。「40歳ではなく、45歳ではないか?!年齢差章ではないか?!」と思った方もおられるかもしれませんが、運転期間延長申請自体は2015年に既に行われていたもので、今になって申請したわけではありません、念のため。
美浜発電所3号機の運転期間延長認可申請および工事計画認可申請について|2015|プレスリリース|企業情報|関西電力 (kepco.co.jp)

いずれにしても古い設備を無理やり使うのではないかという不安や憤りを持った方も多いかもしれません。
そもそも40年で運転を終えるというのがルールだったのでしょうか?
それは科学的に劣化具合を評価してできたルールだったのでしょうか?

実は、40年に運転制限をすることを定めた原子炉等規制法の改正は、福島原子力事故後に議員立法で行われ、炉の寿命を科学的に評価して設定したものではなく、「高経年化の評価を行うタイミング」として定めたものでした。

当時の衆議院原子力問題特別委員会などで、原子力規制委員会の更田委員長(当時)は「40年は高経年化の評価を行うタイミング(つまり寿命ではない)、40年を変えるのは国会で議論いただくもの」と発言されています。

いわば人間ドックのように、徹底的なインスペクションをするタイミングというイメージでしょうか。本当は規制委員会の活動が軌道に乗ったのちに、科学的知見に基づいて運転期間に関する議論も見直しを行うとされていたのですが、なぜかそのままになりました。

世界でも原子炉の運転期間を決めるという規制を持つ国は基本的になくて、米国は40年運転のあと20年単位で延長申請ができてその回数に制限はないのでいま80年運転の認可がすでに6基ほどに与えられています。その他の国では10年ごとの特別点検、などです。

そんなに古いものを使い続けて大丈夫なのか、といった不安を皆さんが持つのは当然ですし、私も実は、技術継承の観点や安全性の更なる向上から考えれば、古いものを使い続けるより新設・リプレースがあった方が良い(伊勢神宮の式年遷宮と同じく建て替えによる技術継承は重要)とは思うのですが、一方で、コストのほとんどが固定費の原子力発電は一旦建てたら使い続けるほど国民に安い電気を供給できるということになります。
これが世界的に原子力発電所の長寿命化が考えられている理由です。

また、多くの部品が入れ替えられていて、40年前のもの部材・設備がそのままというのはそれほど多くなく、上記に紹介した記事のように「高齢化した発電所」というような雑な表現はすべきでないという指摘もされています。
原発政策に空白続く 美浜3号機、40年超で初の再稼働: 日本経済新聞 (nikkei.com)

設備トラブルの発生状況などを世界的に分析したデータを見ても、40年超えてトラブルが多くなるといったような傾向はみられない(むしろ、今まで世界的に発生した原子力発電所の大きな事故はほぼ、運転開始から1-2年以内のものがほとんどで、運転開始後35~40年だった福島第一原子力の1~3号機は例外的)と仰る専門家もおられるので、「40年を超えたら危ない!」と反射的に考えるべきではないのだろうと考えています。このニュースを捉える必要があります。

私はそれよりも、この美浜3号機が10年稼働していなかったということの方が気になっています。工場も発電所も、日々運転して、小さな異変などを感じ取ってトラブルを未然に防ぐことで現場力は向上していきます。多少のトラブルが発生してもすぐに対処する能力が現場では非常に重要です。

福島原子力事故後の約10年、日本全国の原子力発電所はすべての運転を止めて安全対策工事をやり続けていました。運転員の方たちは日々シミュレーションや訓練を行ってはいたわけですが、生の設備に触れていたわけではありません。
40年超というよりも、そのことの影響が気になるところです。
安全運転を徹底していただくのが大前提ですが、当初は小さなトラブルが出る可能性は否定しきれません。情報開示のスピードと正確性なども問われると思います。
全国から注目が集まり、非常に緊張を強いられる状況でしょうが、現場の皆さんには頑張っていただきたいと思います。


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