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ROESGの3つの問題点

今朝の1面ではROESGスコアにて欧米企業が上位を占めており、同スコアが低い日本企業は投資マネーを引き寄せられないと警鐘を鳴らしています。

ROESGはROEにESGスコアを乗じた値だそうです。同指標には少なくとも3つの問題点があるとみています。

第1にROE(計算方法は以下に詳述)についてです。同指標で使われているROEは3期平均だそうです。ESG要因が特に影響を及ぼすのは長期のROE水準ですが、3年が長期と言えるのかには疑問が残ります。セルサイドアナリストにとっては3年は十分長期と言えると思います。しかし年金基金の投資期間は優に3年を超えるため、3年を長期とは言わない可能性があります。

またROEが実績値か予想値かによっても有用性は大きく変わります。実績値であればその情報は既に市場に織り込まれているため、投資家には有益ではありません。また予想値であったとしても、今後景気後退が予想されるのであれば、スコアで上位となっている消費財メーカーほど予想ROEの平均値が切り下がるため、このランキングはあくまでも参考程度に考える必要があります。

第2にESGについてです。ESGスコアの出所はいずれも欧米のESG評価機関です。そのスコアの平均値にはホームバイアスが色濃く出ている可能性が高いです。ホームバイアス(Home Bias)とは投資家の陥りやすい癖の1つで、国際分散投資をする際に、投資家が住む自国の資産(株式、債券、不動産など)に集中投資をする傾向のことを言います。ESGスコアの場合でもESG評価機関が本社を置く国・地域の企業のスコアが高くなり、日本企業のそれは過小評価されやすくなる可能性があります。ちなみにロベコは現在は日本のオリックス傘下ですが、引き続きオランダ企業としての独自性を保持しています。

第3にROESGの意義についてです。ESGインテグレーションというESG情報を財務分析に統合する手法がありますが、厳密にいうとROESGはそれを体現したものとは言えません。ESGインテグレーションではESG情報の加味により、1)予想収益(言い換えるとそれを構成する売上高、各種費用)を修正、2)株式の現在価値を求めるための割引率を修正することが一般的です(詳細は以下の書籍のESGインテグレーションの節をご参照ください)。

ROEは1)の1つである純利益を分子に、株主資本の期初・期末の平均を分母に置き算出します。もしROEがESG要因により影響を受けるのだとすると、ROESGはESG要因による影響をダブルカウントしていることになります。またESGスコアは集計値に過ぎず、ESGインテグレーションに求められるような因果関係の説明には不十分です。

一方、ランキング上位がよりよい社会を作るのに貢献しているかというとそれも即答できません。もちろん安定的に収益を上げられている企業は社会から信任を得られているとも考えられますし、その収益を元手にSDGsに象徴されるような環境・社会課題の解決に資する施策を打ち出しやすいのは事実です。しかしESGスコアが各ESG要因の方針や体制など形式面についてのみ評価しており、環境・社会課題解決の実績を評価していないのだとすると、このランキングの上位企業がよりよい社会に貢献しているとは必ずしも言えません。

企業のトップやCSR関連部署がこのようなランキングに一喜一憂することが予想されます。しかしそれよりも1)現在の株主が自社のROEやESGについてどのように考えているのか、2)彼らまたは潜在的な株主に対して納得性の高い企業となるためにはどうすればよいのかを真剣に考える方が重要だと思います。

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黒田 一賢(株式会社日本総合研究所 スペシャリスト)

日本サステナブル投資フォーラム運営委員 青山学院大学非常勤講師 近著に『ビジネスパーソンのためのESGの教科書 英国の戦略に学べ』 ※執筆者の個人的見解であり、日本総合研究所の公式見解を示すものではありません。

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