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かんぽ生命には人事報酬の教訓盛り沢山!?〜歩合給の課題〜

みなさま、こんにちは!今回は、何かと話題が尽きない「かんぽ生命不適切販売問題」を経済学の視点で考察します。そもそも、なぜこのような事が起きてしまったのでしょうか?現場のコンプライアンス遵守が足りない、トップ層のガバナンス体制、かんぽ生命の事業モデルの限界が、従業員の人達が‥と、様々な事が言われています。

 私は、この経済ニュースを見た瞬間に、「経済学で言うマルチタスク問題が起きているんじゃないの!?」と感じたのです。そもそも、経営者と従業員には情報の非対称が存在します。経営者は、従業員の方々が企業価値向上に向けて一生懸命に働いているかどうかを完全に把握することはできません。そこで、経営者は報酬体系を工夫することで従業員の方々の働く意欲を高めようと考えるわけです。

 しかし、その報酬体系が不完全な物になると、従業員の方々がとんでもない方向に行動を起こす原因になりかねず、結果的に企業価値そのものにマイナスの影響をなりかねないのです。例えば、従業員の方々の報酬を、固定給部分を小さくし、歩合給比率を高めるとします。その歩合給は販売実績のみに連動するとします。そうすると、その目標達成へのインセンティブが強く働きすぎて、販売実績のために社内調和を無視したり、販売に関係ない顧客にお粗末な対応したり、更には勤め先のレピュテーションにマイナスになるような販売までしてしまうのです。

経営者は、従業員の方々には本来は企業レピュテーションや社内調和を守りつつ仕事をしてほしいいというタスクと、販売を積まないといけないというタスクのマルチなタスクをお願いしています。しかし、後者ばかりが報酬に連動し過ぎていると、報酬に直結することばかり優先するインセンティブが強くなりかねず、とんでもない問題が起こりうる。これがマルチタスク問題です。ちなみに、日本郵便G三社の日本郵便は上場半年前の2016年に、保険販売に携わる方々の歩合給比率を12%引き上げたとの報道も‥。

 このマルチタスク問題は、2016年にノーベル経済学賞を受賞したハート氏とミルグロム氏の1991年の理論論文で指摘されています。最先端企業ではあるほど、業績連動にしすぎることの弊害は熟知していると思われます。なので、私は企業への取材時には必ず報酬体系を質問します。うまくいっている企業ほど、実はそういうのやめたんだ‥という声を聞くように感じます。

もちろん、これらは歩合給を否定するものではありません。あくまで行き過ぎた歩合給比率は、従業員の方々におかしな方向にインセンティブを動かしかねないことをお伝えしたかったのです。この経済ニュースには、ビジネスパーソン、経営者、全ての人が他人事にはできない教訓が詰まっているのかもしれません。みんなが楽しく働け、そうした環境作りのためのインセンティブ設計は経営者にとって重要なタスクであり、それに関する知見に経営者の方々がもっとアクセスしやすい社会になってほしいなと思います。

今日もここまで読んでくださり、ありがとうございます!

応援いつもありがとうございます!

崔真淑(さいますみ)


*表紙のイラストは崔真淑著「30年分の経済ニュースが1時間で学べる」(大和書房)のイラストです。無断転用はおやめくださいね♬

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