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EU復興基金案の合意はポジティブだが……

7月21日、EU復興基金案が合意となった。合意にたどり着いたことは、プレゼンスを落としていた欧州が復権できるきっかけともなりえ、ポジティブである。

金額自体は事前に出ていた金額を死守し7500億ユーロ。EU27か国のGDPの3%を占め、それなりの規模が確保された。案として出されていた補助金と融資(低金利ローン)の組み合わせは、5000億ユーロと2500億ユーロの計7500億ユーロだったが、今回の決定ではそれぞれ3900億ユーロ、3600億ユーロとなった。補助金は返済されない資金で、低利とはいえ融資は返済しなければならない資金であること、この合意案がスムーズにまとまらなかったのが財政健全四国(オランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデン)の反対によるもの、であるとのことを考えれば、妥協案としては極めて妥当に見える。補助金は70%が2021-22年、30%が2023年末に付与される予定。

これから必要なのは財務相によるQMV(特定多数方式)を通じた決定である。345票のうち、特定過半数255票(74%)以上が支持に回ること、構成国27か国の過半数が支持すること、支持国全体の人口が全EUの62%以上であること、の三つが必要で、それを達成する必要がある(リスボン条約のもとでは、支持国が加盟国27か国のうちの55%以上(15か国以上)かつ、その人口が全EUの65%以上、であることでよい)。こうした条件を整えるのは、それなりにハードだが、不可能ではない。

米中協議などが紙面をにぎわす中、相対的に欧州のプレゼンスは低下傾向にある。ドイツメルケル首相がコロナ禍で特別な手腕を見せ支持率を回復させたことに加え、今回の合意は欧州が共同体として受け止められる大きなイメージ改善にもつながる。

実際には、財政を厳格に運営してきた国から甘く運営してきた国への所得移転に過ぎないことは確かである。仮に第二波が重くのしかかる、とか、経済運営にめどが立たない、とかという暗いニュースが相次ぐようになった場合には、再び、それぞれの国の財政負担の重さから政治に対する求心力低下が避けられなくなることは目に見えている。表面的にポジティブな出来事を演出することに成功した欧州トップには、リスクオンの間に実効性を高め、経済回復まで持って行くという、難しいことを成し遂げられるのか、手腕が問われることになる。

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