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「無意識バイアスワークショップ」でわたしたちが乗り越えられないこと

こんにちは、ANRIの江原ニーナです!少しずつ暖かくなってきましたね。

先日、ANRI全メンバーに加え、小売・流通事業者向けに開発不要のネットスーパー立ち上げサービス「Stailer」を提供する株式会社10Xのメンバーで、「無意識バイアスワークショップ」を開催しました。

今回は、メルカリが先月末無償公開した「無意識(アンコンシャス)バイアスワークショップ」研修資料をもとに、同社から講師を招いて(Thanks Liz-san!)実施。誰しも何らかのバイアスを無意識に持っていることにまずは"気づき"、その学びを足がかりに自分の言動を改めてレビューするきっかけ作りをゴールとしました。(詳細は以下のリンクをご覧ください!)

ちなみに・・・ 
イントロに続く「WS実施前の、わたしの目論見」、「いざ実践、無意識バイアスワークショップ」、「無意識バイアスWSを通じて学んだこと」はワークショップを通してのレポ、それ以降は個人の感想と考察です!少し長いnoteになってしまったので、興味関心に応じて、流したり読み飛ばしたりしてくださいね。

イントロダクション:無意識バイアスとは?

ところで皆さんは、無意識(アンコンシャス)バイアスという言葉をご存知でしょうか。「聞いたことがある」という方は多くても、①無意識バイアスとはどんなもので、②どのような形でわれわれの日常の実践に出現し、③それらに気づくことがなぜ重要かを説明できる人はそう多くはないかもしれないので、少しおさらいしてみましょう。

無意識バイアスとは、生まれ育った環境や社会的・文化的な通念など様々な影響により、無意識のうちに持っている思い込みのことを指します。

わかりやすい事例として、例えばお弁当を作ってきた女性に対し「女子力がある」と評価するのは、女性に対し"家庭的"や"料理をする役割"等のイメージを結びつけた無意識のバイアスに基づいていると言えます。(しかし実際は、"個人差"はあれど性別問わず料理が好きな人も苦手な人もいますよね。)

また、ジェンダーに関する無意識バイアスを露呈させた有名なケーススタディに「ハイディ・ハワード実験」が挙げられます。

ハワード・ロイゼンという男性がいました。彼は元起業家で現在はベンチャーキャピタリストとして活躍中、人脈も豊富。テック企業を創業し大成功を収め、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズとも親しく、人脈の広さはシリコンバレーでも指折りだといいます。このハワード氏について、あるビジネススクールで資料を読ませ、彼に対しての評価を聞くと、「有能で高い成果を上げている」ほか、「好意がもてて、部下として採用したい、あるいは一緒に働きたい」と回答しました。(納得ですね。)

さて、この話のミソはここから。

実は、このハワード氏という人物は実在しておらず、存在するのはハイディという女性です。別の学生たちに、ハワードと全く同じ経歴で性別だけを変えたハイディの資料を与え評価させると、ハワードと同程度に能力と成果を評価されたものの、ハワードのように好感を抱かれず、一緒に仕事をしたいと思ってもらえなかったのです。

WORK DESIGN:行動経済学でジェンダー格差を克服する』によれば、ハイディに対するこの否定的な反応は以下のように説明できます。

多くのビジネススクールの授業で同じ実験がおこなわれてきた。学生たちにみずからのジェンダー・バイアスを認識させることが目的だ。この実験を経験した学生たちは、自分が頭の中でいだいている「リーダーの典型像」が男性だったことに気づく。女性であるハイディは、そのイメージに合致しない。そのため、「有能で、感じもいい」ことはありえないと思われてしまう。男性なら、立派な起業家精神、称賛に値する自身、スケールの大きなビジョンとして評価される要素も、女性の場合は、高慢ででしゃばりと見なされる。

リーダーはこういう人物であるべき、男性はこうであるべき、女性はこうであるべき、という知らず識らずのうちに刷り込まれた思い込みは、そこから逸脱している人への批判的な視線としてしばし顕在化します。

3月8日の国際女性デーに公開された以下の記事でも、無意識バイアスについて触れています。

「男性らしさ・女性らしさ」など、日々の生活で刷り込まれた偏見は誰にでもある。国連開発計画によれば、男女の40%以上が男性の方が経営者層に向いており、雇用数が少ない時には男性の方が働く権利があると考えている

WS実施前の、わたしの目論見

今回、社内メンバー向けにWSを開催するにあたっては以下のような目論見がありました。

・ANRIでは、ファンドの投資方針においてポジティブ・アクションを行ったりD&Iオフィスアワーを定期的に実施したりと、ダイバーシティを重視した活動に力を入れている。しかしながらスタートアップ業界が男性社会である以上、われわれはスタートアップ業界内外の人々と同じくらい、場合によってはそれ以上のアンコンシャス・バイアスを持っている可能性が高い(かつ、チェックが働きにくく気付きにくい。特に性別のバイアス。)すると、チーム内でのミーティングや投資検討に際し、実はバイアスに無自覚なまま進めてしまうことで起業家(とくに女性)からの信頼を損ねたり、良い投資機会を逃してしまうのではないだろうか。完全にバイアスから逃れることはできなくても、学び意識するトレーニングを重ねることで、思いやりのあるコミュニケーションに繋がり、起業家(はもちろん誰に対しても)より良い人間関係や、ディスカッションを展開できるチームになりたい。

・アンコンシャス・バイアスについてはチーム内で知識レベルに差がある。皆で一緒にワークショップを受けることでミニマムのリテラシーを引き上げ、共通言語を持つことで、お互いが指摘し合いやすいカルチャーを創っていきたい。

私自身、チーム内で「これはアンコンシャス・バイアスに基づく発言じゃないかなぁ」と思っても指摘できなかったことがあったり(共通言語の不在)、一日の終わりに「あの発言はバイアスに基づいていたな」と反省することが多々あったため、メルカリのWSが公開されると聞くやいなや、「これだ!」と思ったのでした。

いざ実践、無意識バイアスワークショップ

メルカリ社が研修資料公開にあわせて発表したプレスリリースでは、本WSについて次の3つのゴールを挙げています。

知識:無意識バイアスを理解する
意識:自分の無意識バイアスを意識できるようになる
スキル:自分と他者に存在する無意識バイアスを意識する習慣をつける

これらのゴール達成を目的として、WSは次のように設計されています。

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(メルカリ「無意識バイアス ワークショップ」の社内研修資料より引用)

まずは、われわれの活動の大部分が無意識のメンタルプロセスによって無数にかつ高速に処理されており、われわれの日常の意思決定や判断における思考のエネルギーをセーブしていることなどを学びます。前半はどちらかというと座学(+エクササイズ)中心です。

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続いて、会話のスキットを読み、登場人物のどんな発言にバイアスが隠れているかをチームで探して話し合い、それぞれがどんな種類のバイアスなのかを事例とともに考えます。

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さらに、一口に「無意識バイアス」と言っても、パフォーマンスバイアス(「ジェンダー/人種/年齢」などの属性を無意識に「能力」に結び付けること)、親和性バイアス(自分と似た人とのほうがより親しみを感じやすい、また好感を持ちやすいという無意識の傾向のこと。)、家庭内性別役割バイアス(家事や育児は「女性の役割」という無意識バイアスのこと)等、社会にはさまざまなバイアスが存在することも学びます。

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(メルカリ「無意識バイアス ワークショップ」の社内研修資料より引用)

これらのバイアスが日常生活においてわれわれの発言や思考にどのような形で顕在化するのかを事例とともに学び、かつそれらが文脈や個別具体的な状況で複雑に絡み合いながら発現するのかチームでディスカッションしながら理解する。また、無意識バイアスに気づくためのセルフチェックのやり方もあわせて学ぶことで、これまでは何気なく、あるいは相手のことを思いやったつもりで行っていた言動を見直し、無意識バイアスを意識する習慣をつける手立てを作るきっかけを作る貴重な時間になりました。

無意識バイアスWSを通じて学んだこと

WS実施後、ANRIメンバーに感想をうかがいました!

〈ANRI プリンシパル 元島さん

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今回のWSを通じて、日常生活では複数の無意識バイアスが絡み合って表出することを学びましたが、それがバイアスの自覚を難しくしているかもしれないと感じました。無意識バイアスに気づくことで、受け入れられるものが増え、今まで見落としていた事象(すごい人や面白いこと)に気が付く可能性があるのではないか、また他人からの指摘を受け入れやすくなるのではないかと期待しています。

自己を振り返ってみると、年齢ないし世代に関するバイアスが強いことに気づきました。さらに言うと、ジェンダーに関するバイアスよりも、より口をついて出やすいように感じます(例:若いのにすごいね等)。

今回のWSでは比較的わかりやすく避けた方がよいような事例を扱ったので、今後は境界線になるような事例に関して考えたりディスカッションをしたりすることで、共通の認識を作れるか取り組んでみたいと思いました。本WSは、組織のサスティナビリティに強く影響すると思います。会社の経営陣、採用陣にはかなりオススメです。

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〈ANRI ジェネラル・パートナー 河野さん

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正直、自分自身はバイアスを持っていない方だと思っていましたが、自分も全く例外ではないと自覚できたのが大きな収穫でした。僕と同様に、「自分は大丈夫」と思っている人こそ特に受けるべきであり、全ての人が理解すべき内容だと強く感じます

アンコンシャス・バイアスを学ぶことで、無意識に他人を傷つけることを避けられるので、仕事や組織運営もより円滑になることが望めるのではないでしょうか。仕事はもとより、家庭や友人間の関係においても、間違いなく役に立つと思います。今後は、バイアスを意識した次の段階で、実際どのように行動や発言をしていけばいいか、ベストエフォートを探っていきたいです。

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バイアスを意識した上で、ネクストステップとして何ができるのかはWS中に10Xメンバーからも声が上がりました。誰かの無意識バイアスに気づいた時に、お互いが気持ちよく指摘し合ったり、改善につなげたりできるにはどんな仕掛けが必要なのか(アイデアとして、slackにスタンプを準備する、指摘する際の共通言語=フレーズを作る等が挙げられました✨)、実際の生活に落とし込むための方法まで話題に上がったのはとても素晴らしいと感じました。

私たちはバイアスから逃れられないけれど

無意識バイアスについては、先に述べたような目論見もありチームで学ぶ機会を作ろうと思っては、毎回頓挫していた(なんせ何をカバーしたら良いのか、体系的に学ぶにはどこからスタートしたら良いのか、いつもお手上げになってしまっていた)ため、今回のメルカリのWSは喉から手が出るほど求めていたものでした。それもあって、ここからはちょっぴり熱のこもった文章をお届けします。

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無意識バイアスは、文字通り「無意識」のうちにわれわれが持っている思考のフィルターであり、それらに意識的になるためのトレーニングの段階に、第一の難しさがあります。そして次に、きちんと学び考え、自分が持つ多層のバイアスに気づく先に存在するのが第二の難しさです。「これもバイアス?あれもバイアス?」とある種の袋小路に入ったような感覚に陥り、極端に言えば「これじゃ何も言えないじゃないか!」と感じてしまうのです。結局どうしたらいいのかわからなくなってしまうような感覚。無意識バイアスWSを受講したわたしたちは、自分たちがどれだけ努力しても、バイアスを完全には克服できないことを学びます。大事なのはここから。バイアスを完全に乗り越えられないと引き受けた上で、それでもこの課題に向き合うための姿勢が問われると私は考えています。

以前、先に述べた「ハイディ・ハワード問題」について学んだ時、私は深い絶望を味わいました。女性は、能力と好感度がトレードオフになるなんて、これまで誰も教えてはくれなかった。どちらかを選ぶなんて不可能だし、あまりにアンフェアだ、と。さらに、私自身はこのバイアスを認識していても、わたしが接する社会やコミュニティがこれを理解していないならば、結局同じじゃないか、どのみち能力と好感度がトレードオフである現状は変えられないじゃないか、と無力感を感じたのを鮮明に覚えています。

自分のどんな努力も無効化されるように感じて、一度はジェンダーやダイバーシティの問題から目を逸らした過去があります。でも、当たり前ですがそれでは何も(何も!)変わらないし、自分を追い込む環境に不満が募るだけでなく、未来の自分や次の世代の首を絞めることに加担してしまうんじゃないか(腐ってる場合じゃない!)と気づいてから、考え方が変わりました。

一つずつ学んでいくことでしか現状は打開できないから、今回のWSのような取り組みを継続し、この輪を広げていきたいと思っています。今回のWS/ファシリガイドのように、皆で学ぶ手段・ツールや機会を探ること、なければ作り出すこと。そして周りを少しずつ巻き込んで一緒に学んでいくことでしか、前に進めないのだなーとここ数年あれやこれや考える中で再確認しました。

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私が「喉から手が出るほど」ほしかったWSおよびファシリテーターガイドはこちらからダウンロードできます。みなさんも是非、会社のメンバーや仲間を巻き込んで、このワークショップにチャレンジしてみてください!大きな学びがあると約束します。


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江原ニーナ

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1997年熊本県熊本市生まれ。ANRIでベンチャーキャピタリストとして主にtoCサービスや女性の起業家への投資に注力する傍ら、スタートアップ業界のジェンダーギャップ是正に向けてあれこれ活動しています。ダイバーシティ&インクルージョン、SDGs、テクノロジーと倫理