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「それってただの機能じゃない?会社になりえるの?」 (機能とプロダクトと会社の違い)

それってただの機能じゃない?会社になりえるの?」

これはベンチャーキャピタルで働いていて、スタートアップに投資する際によく社内で議論される論点の一つで、特にアメリカではよく聞くセリフです。最近この「機能(Feature)と会社(Company)の違い」について色々考えさせられるニュースがあったので、この質問の意味を説明してみようと思います。

猫も杓子もストーリー

Twitterで"Fleet"というInstagramのストーリー機能の類似機能が登場しました。ストーリー機能はTwitterだけでなく、キャリアSNSのLinkedInでも今年ローンチされ、至るところで登場しています。

↓TwitterとLinkedInアプリの上部に登場した"ストーリー"機能

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そのせいでネット上では、エクセルのストーリー機能、計算機のストーリー機能などパロディも登場する始末です。

「機能」はコピーされる

ストーリー機能も、そもそもはSnapchatのメイン機能であったものを、Instagramが2016年にコピーしたことで始まりました。このように流行している機能が"コピー"されることは良くあることです。

最近でもInstagramはTikTokのコピーであるReelsをローンチし、Netflixも同じくTikTokのコピーであるFast Laughsをテストしはじめ、Snapchatも同様にこの流れに続きます。今では、ポストが一定期間で消える機能(ストーリー)、全画面で表示する短い動画(TikTok)だけでなく、メッセージ機能、フォロー機能、シェア機能、Like機能など、ありとあらゆるアプリに同じような機能が入っています。

↓左から、Instagram, Netflix, SnapchatのTikTok的な機能

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ただし成功するスタートアップは皆そういう機能から始まるものです。

今や大成功したZoomも世の中にすでにあるビデオ会議「機能」でしたし、先日買収が発表されたSlackもSlack社内で使われていたチャット「機能」でした。

弊社DCMが投資した動画アプリMusical.ly(現在のTikTok)も、当時は短い全画面動画「機能」でした。そのときは類似プロダクトのVineがうまくいかなかった例や、Musical.lyは歌の口パク動画に特化していたこともあり、Musical.lyは何が違うのか、この機能だけで差別化できるのか、喧々諤々の議論が行われました。結果的に投資にいたり、TikTok(旧Musical.ly)は10兆円以上の価値がついています。

そして、そのようにニーズはありそうだけど何かの機能に特化したスタートアップに会ったときに、今回のテーマであるこのセリフをよく聞きます。

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「機能」と「会社」はどう違うのか

「それってただの機能じゃない?会社になりえるの?」この質問の意図することは何でしょうか。「いい機能(Feature)ではあるけど会社(Company)にはならない」とはどういう状態なのでしょうか。

この質問には2つの意味があると思います。そして、機能と会社の間に「プロダクト」があるので、「いい機能であってもプロダクトになりえない」、「いいプロダクトであっても会社になりえない」、という2つの「壁」があるのです。

僕が考えるいい「機能」と「プロダクト」と「会社」の条件は以下のとおりです。

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1. いい機能(Feature)とは

まず、いい「機能」とは何でしょうか。「機能」とはそもそも何かユーザーのペインを解決するものです。したがって、いい「機能」は実際に使われるものです。
書くと当たり前のことなのですが、そうではない「ムダな機能」で世の中は溢れていたりします。

お手元にテレビのリモコンがあるなら、リモコンを見ながら一体どのボタンを普段押しているか思い出してみてください。いい「機能」はユースケースがよく絞り込まれ、また、いいプロダクトではダメな「機能」はどんどん落とされていきます。
アレもあったら便利かもしれない、という思考が無駄な機能を生みます。
アレ以外は最悪全てなくてもいい、これが大事な機能なんだと思います。


2. いいプロダクト(Product)とは

Steve JobsがDropboxの創業期にDropboxを「これは機能ではあるが、プロダクトではない」と評したことがあります。Appleにとっては、DropboxはiCloudという一機能であり、コピー可能だと考えていたためです。

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いいプロダクトとは何でしょうか。極めて深遠なテーマですが、簡単に個人的な考えをまとめてみたいと思います。僕が考えるいいプロダクトとして成立しているのは以下の3点です。

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まずは、「ユーザーのタスクを完結させられる」ということです。例えば、クラウド会計のソフトを使うとき、各銀行口座/カードなどと自動連携できる、というのは素晴らしい機能ですが、それだけでは会計作業は終えられません。経理会計作業が終わる段階になって初めてプロダクトになるのだと思います。

機能はユーザーのある一つのペイン(e.g., 銀行口座の連携)を解決しますが、プロダクトはユーザーのある行動そのもの(e.g., 経理作業)を解決します。

次に、 メインの機能のおかげで「他の製品よりも10倍いいとユーザーが感じている」ことが挙げられます。いい機能やいいプロダクトは、遅かれ早かれ真似られてしまいます。その中で、他の製品よりも10倍位以上いい、とユーザーに思ってもらえるかどうか。前述したDropboxに対するSteve Jobsの評価もこれが論点になります。Steve Jobsにとってみたら、ただのクラウドでのファイル保存、iCloudでカバー可能と思っていました。ただし、Dropboxはデバイス間での管理、ユーザー間での共有など、他のクラウドストレージよりも機能が優れ、その結果ただ表面的に機能をコピーしただけではDropboxに勝ることはできませんでした。

最後に、「単独機能から複数機能に発展しうる」ことも大切かと思います。Instagramも初期は多くのユーザーは、写真をInstagram上で編集した後、Facebookに編集後の写真をポストしていました。「写真の編集」だけではユーザーのタスクは終わらず「共有する」ことが必要だったためです。その後、コメント、Like、フォロー機能をベースにユーザーが増えInstagram上での共有に価値が出始め、メッセージ機能が付き、買い物機能がつきプロダクトとしての完成度が増していきました。
Twitterもただ140文字以内でポストする、という機能から、リツイートが追加され、リンク、画像、動画などの機能により、今のメディアとしての立ち位置を確立していきました。

3. いい会社(Company)とは

いい会社として成立している条件は以下の2点です。

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まず、「いいプロダクトだけれどマネタイズできない」とはどういうことでしょうか。ユーザーが毎日のように使い、課題も解決してくれているプロダクトだけれども、その使用頻度に比べると収益化が難しい事例は、天気予報、スケジュール調整、計算機、RSSなど数多くあります。
それらに共通している点は、英語で言うNice to have (あると便利なもの)だけれど、Must have(なくてはならないもの)ではない、ということです。ユーザーがお金を払うほど困ってはいない。お金を払って使うくらいなら他の手段を考える。ペインポイントの深さが鍵となります。

そして、「真似られたとしても収益化できる優位性(Moat)」。多くの優れたプロダクトは、それ自体どんどん後発品が出てきます。その中で、会社としての競合優位性(Moat)を保ち、収益化を進める必要があります。
Googleはとにもかくにも様々な機能、プロダクトを無料でローンチしていきます。メール、カレンダー、地図。このように大手がどんどんプロダクトを無料でローンチしていく中で、明確な競合優位性がなければ長期的に"利益"を確保できる企業を作ることはできるでしょうか。


「機能」から「会社」にするために

ここからは、「機能」をいかに「会社」にしていくか、考えを書きます。

a. 全ては「最低な」ペインに対する「最高な」機能から始まる

まずは何より、ユーザーのペインを解決できるか、これまでのものより10倍以上いい機能か、ユーザーに使われるか。これが全てだと思います。

ユーザーを細かく観察し、ユーザーにとって「最低な」ペインポイントを見つけ、
そのペインを見事に解決し、なくてはならない「最高な機能」を作れるかどうか。まさにこれはPMFを見つけられるかどうか、になります。
「なくてはならない(must have)」かどうかが、会社になったときの収益性にあとあと効いてきます。

Appleが2011年にローンチしたiOS5によってたくさんの機能が追加されました。その中にはiMessageやリマインダーなどがあり、それを単独でプロダクトとしていたアプリは苦戦を強いられました。この記事に、iOS5が「殺してしまうだろう」と予測した10のアプリが載っています。たしかにその大半は消えてしまいました。でもここに載っているアプリの一つは、"WhatsApp"です。その3年後に約2兆円で買収されました。それまで百数十円かかっていたSMSが無料で送れる。遥かに便利で、強いPMFさえあれば、誰が入ってこようと問題ありません。

どんなに大きな会社も、小さな機能から始まっています。まずは、小さな最高な機能から。

b. 「最も重要な」機能に絞る

いいプロダクトの条件の一つに「ユーザーのタスクが完結すること」だと書きました。ただし、はじめからユーザーのタスクの「全て」が完結できるようにしていると、プロダクトはいつまでたってもローンチできず、さらにそのプロダクトではユーザーは何ができて、何が優れているのか、ユーザーから見るとバリュープロポジションがぼやけてしまうことが多いです。

MVP(Minimum viable product)は「機能」と「プロダクト」の間くらいの存在。その段階でPMFをつくれるかどうかが勝負です。ユーザーのタスクが完結できる最低限の機能だけにする

Instagramの元になったプロダクト(Burbn)は写真編集だけでなく、チェックイン機能、将来どこに行くかの計画する機能、ポイント獲得機能、など多くの機能が盛り込まれていました。
とても逆説的に聞こえますが、下記はInstagram創始者がローンチを振り返ったコメントです。

もし「会社」を作るのであれば、本当に優れた一つのことだけにフォーカスしたいと思った。

結果Instagramはローンチに際して、写真編集だけに絞り込みました。もし多機能のままだったら、今のInstagramはなかったかもしれません。

それは4兆円以上の時価総額で上場を迎えるAirBnBでも同じでした。AirBnBにとってのユーザーのタスクとはお金を払って人の家に泊まること。そのタスク解決の必要最低限の機能には、決済できることや、地図が見えること、日付が指定できることも、含まれませんでした。

大企業向けのtoBでは、より多くの機能を最初から求められることが多いです。ただ、toBでもtoCでもバリュープロポジションは「XX(機能)ができるABC(プロダクト)」と一言でいえるように絞り込こまれ、特筆すべき機能は研ぎ澄まされどこよりも優れていることが大切ではないでしょうか。

c. 「正しく」機能を増やしていく = 要らないものは削る

最初の機能をローンチした後は、前述したとおり「ユーザーのタスクを完結させられる」ために、複数機能をローンチし、より完成度の高いプロダクト、よりユーザーのスイッチングコストが高いプロダクトを作っていきます。

ただし、ここで重要なのはむやみに機能を追加していくのではなく「追加される機能がユーザーがそのプロダクト上で行っている行動や、プロダクトに対する想起と意識に連動していること」です。Instagramのユーザーはアプリ上で欲しい物を探しているかもしれません、なので買い物機能はとても有意義なものになります。FBも友達とやり取りするなかでチャットが必要だったでしょう。どちらも「自然」な意識やプロダクトに対する早期、行動のプロセスです。
一方で、昨今増えてきているスーパーアプリ化(アプリの多機能化)で、メッセンジャーアプリ等で買い物、デリバリー、金融取引ができることも増えてきています。しかし果たしてメッセージをやり取りしに来たユーザーの、行動や意識にそれらの買い物等は含まれるでしょうか。

またローンチされていく機能の「順番」も重要です。その順番を考えるには、ユーザーのタスク上での重要性、競合との差別化や難易度、スイッチングコストの源泉、マネタイズなどがベースになります。優れた起業家やプロダクトマネージャーは、この順番を明瞭に説明でき、また戦略的に先手先手を打って機能を打ち出していきます。

最後に、わかっていても難しい大切なこと。使われない機能は落とすことです。全てを必要な機能として、完璧な順番で出し続けることは不可能だと思います。イトーヨカドーなどの小売企業向けにネットスーパーやオンラインチャネルを簡単に立ち上げられるシステムを作っている10X社の矢本さんはこう表現しています。

効果の低い機能やほとんど使われていない機能は、サンクコストにとらわれずに大胆に削除する。ユーザーからのネガティブ・フィードバックを恐れない。代わりに開発生産性を得られる前進である、と捉える。


d. 「最速」で真似ができないプロダクト、会社にする

ある機能やプロダクトがユーザーから受け入れ始めたなら、すでに大手企業や競合のレーダーに引っかかっています。ここからは、時間の勝負。最速で、真似られたとしても問題ない状態、本当の競合優位性を作り出さないといけません

Twitterも出たときにはただのFacebookのステータスバー、SnapChatもただメッセージが消えるFacebook。Facebookに真似されるのも時間の問題と見られていました。ところが、それぞれ4兆円、7.5兆円の企業に成長しました。

GoogleもTwitter, Facebookに対抗して、Google Buzz, Google Wave, Google+と何度もSNSに後発で挑戦しましたがいずれも破れています。

何がこれらの企業を巨大な大手の参入から守る障壁となったのでしょうか。前述のSNSの場合は、とにもかくにもネットワーク効果です。他のプレイヤーが参入してくる前にできる限りユーザー数を拡大し、サービスの価値を高めておく。SNSにおいてはユーザーが多ければ多いほど価値になります。

その他、スイッチングコストを最速で高めることが求められるサービス(e.g., ユーザーのデータが貯まっていたり、業務に組みこまれているSaaS)もあるでしょうし、技術的な難易度が高く少しのUXが優れていることが障壁になる製品(e.g., 前述のWhatsappのように日々何度も使うような製品)もあるでしょう。ブランディング/第一想起が大切なものもあるかもしれません。

重要なのは、そのような大手や競合が参入し、ときに無料化などで潰しに来る、ないしは価格競争が始まる「前」に、そのサービスにとって大切なMoatを必ず築き、大量の資金を投下されても覆らない状態を作ることです。

そのためには、何でもできることは大胆に「先手」を打つべきかと思います。VCからの調達、先手を打った組織拡大、大型のマーケティング。PMFを超えたなら、自分たちのサービスにおけるMoatは一体何かを把握し、それをとにかく最速で獲得し、とにかく先手を打つ。時計はもう回っています。

(Moatについての記事です。Moat探しのヒントになればうれしいです)


「機能」から「会社」、そして「プラットフォーム」へ

テック業界は、「機能を見つけ、素早く会社にする」スタートアップと、「有用な機能を買収などで奪いプラットフォームを強化する」大手テック企業との無数の戦いの歴史です

InstagramにやられたVine、FacebookにやられたMeercatやPeriscope。
それぞれGoogle VideoとApple iMessageの追っ手を逃れ巨額買収されたYouTubeとWhatsApp。その戦いは今もストーリー機能やTikTok機能に続き、今後もずっと続いていきます。

ベンチャーキャピタルをやっていて、「機能」、「プロダクト」、「会社」には、それぞれ価値が1-2桁ずつ違うくらいの差を感じますし、実際に買収に及ぶときはそのような値付けがされています。

せっかく作った「最低な」ペインに対する「最高な」機能なら、「最も重要な」機能に絞り「正しく」機能を追加していくことで、「最速で」参入障壁を作り、ぜひいい「会社」まで持っていって欲しいなと思います。

そして、価値が「会社」から何桁も変わっていくのが「プラットフォーム」。大きなテック企業はもれなく会社を飛び越えてプラットフォーム(経済圏)化しています。

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繰り返しになりますがGoogleやFacebookなど全てのプラットフォームも「機能」から始まっています。

弊社の投資先でもCADDiは「設計図の形状解析と工程分解」機能から製造業プラットフォームを、10Xは「APIによるオンライン注文」機能から小売業プラットフォームを、HERPは「候補者情報の自動取得/媒体自動連携」機能から採用プラットフォームを、それぞれ目指しています。これからも次世代のプラットフォームになるテックスタートアップが日本から羽ばたいていくことを期待しています。



参考文献

下記ご覧頂けるようにFeatureかCompanyか、というのはとてもメジャーなトピックで、たくさんの記事があります。日本でも議論がより深まっていきますように。






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DCMベンチャーズというシリコンバレーのベンチャーキャピタルで投資をしています。 https://twitter.com/kenichiro_hara