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ニューノーマルのオフィスに必要な3つのこと~客を招き、酒を造り、飲み語り合え~

 Potage代表 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずです。コミュニティや新規事業にかかわってきた知見を活かし、共創スペースのコミュニティづくりのお手伝いや、企業向けの組織開発や人材育成研修もしています。

 コロナ禍は、オフィスのあり方を問い直す大きなきっかけとなりました。多くの大企業がリモートワークを推進し、社員が働く環境を分散しようとしています。結果、IT企業を中心に、オフィス減らしを進める企業も増えています。

 一方で、揺り戻しともいえる現象もあらわれています。カゴメは生産性の低下を理由に、週1日の出社を必須にしています。実際、リモートワークと集合オフィスのハイブリッドで、成果も出始めているとのこと。保守的な企業では、全員毎日出社に戻している大手企業もあると聞いており、対応も会社それぞれという印象です。

 方向性が定まっていないように見えますが、実はこれは健全な動きのように思います。要するに、それぞれの会社が、自分たちのビジネスのありようをもとに、それぞれの観点で働き方とオフィスの関係性を見直しているということです。ほとんどの会社が一律に、同じ時間帯に出勤し、一斉に退勤していたちょっと前の時代を考えると、企業が自主的に最適化を繰り返しているのは、とても前向きな行動のように映ります。

 さて実際のところ世の事例を見渡してみると「オフィスが必要なのか」という問いは、方々から噴出していますが、オフィスを全廃するという動きはそれほど起きていません。オフィスのありようを見直したときに「必要だ」と判断する企業の方が、現状は多いということの証左ともいえるでしょう。

 私は組織開発やチームビルディングの観点から「オフィスは必要」という立場をとっています。ただし、一か所に社員を大勢集めて、一斉に働くというスタイルは、多くの企業にとっては不要となるという認識です。

 大事なのは、今後のオフィスに必要な「場としての力」を再定義することです。コロナ禍を経て、さまざまな企業の方々のお話を伺う中で、オフィスには3つの機能が必要になるのではないか、と私は考えています。

 先日寄稿した記事で、今後の企業は、コミュニティ型にシフトしていくと述べました。これらの場の機能は、コミュニティに必要な場の機能そのものです。コミュニティの健全な形成に場づくりは不可欠。ということは、今後の企業には、ますます場が必要になってくるということなのです。

 ではどんな機能が必要なのか。以下に説明していきます。

今後のオフィスに必要な機能①関係構築

 今後のオフィスに必要な要素の1つ目は「関係構築の場」としての機能です。具体的には、メンバー間に下記のようなコミュニケーションが発生する場づくりが必要になります。

雑談が起きる/ちょっとした悩み相談ができる/近況(※業務の「進捗」ではなくプライベート含めた「近況」)を共有しあう/それぞれの興味関心を相互に理解する

 コロナ禍でリモートワークを余儀なくされた多くのビジネスパーソンから聞かれた意見の一つが「業務は進む。だけど、同僚とコミュニケーションがとれなくて寂しい」というものです。非常にシンプルですが、この意見は、人間の生産活動の本質をついています。

 こちらの記事は、転職の理由をまとめたアンケートによるものですが、各世代まんべんなく「人間関係の不満」が転職理由の多くを占めていることがわかります。(平均23%)。本来、転職理由を語るときは「キャリアを考えて」「年収を上げるため」「スキルを上げる」など、前向きな理由を表に出すことが多いため、これらの要素を挙げる回答者が多いのは当然のこととして、めったに表の理由として出すことはない「人間関係の不満」が上位にあがるということは、それだけビジネスパーソンにとって、働きがいを考える際に、職場環境の人間関係が重視されていることの証拠と言えるでしょう。

 Googleのレポートで有名になりましたが、MITのダニエル・キム氏の研究によるとチームメンバーと良い関係を築いたうえで働くと、結果パフォーマンスも向上します。自律的に個人も組織も動く必要が出てくる今後の働き方を考えると、メンバー同士の関係構築の重要性はより増してきているのです。

 コロナ禍によるリモートワークがもたらすチームメンバーの関係構築の機能不全については以前寄稿した「なぜ今ファシリテーションが大事なのか」という記事にも書きましたが、以下の2種類の原因により、メンバー間の関係の質づくりは、より難しくなっています。

機能不全の原因① チームコミュニケーションの難易度の上昇
機能不全の原因② 自発行動を促すコミュニケーションの必要性増大

 この機能不全を脱し、チームマネジメントを再構築する上でも、リモートだけではない、対面のコミュニケーションはある程度は必要になるでしょう。人類の歴史においても、フルリモートで完結する人間関係づくりへの免疫がなく、不足する部分をリアルな場での「関係構築プロセス」で補っていく必要が出てくるためです。先ほど出したカゴメさんの事例も「週1の出社日」は、おそらくその「関係構築プロセス」のために設定されたというのも理由の1つではと推測されます。

 では関係構築のために必要なのは何かというと「とりとめのない雑談」です。それぞれの近況を伝えあうことで、ちょっとした悩み相談をしたり、興味関心ごとの共有したりできる環境を整えていきます。いきなり上司が「悩みを打ち明けてよ!」といっても、部下たちがいきなりそれができるわけもないので、チームをファシリテーションしながら、ちょっとずつお互いがお互いのことを打ち明けられる「心理的安全性」を醸成していきます。

 物質的なオフィスの中で求められるのは、この「心理的安全性」づくりの種をまき、定期的に温めていくプロセスです。

 初対面の相手とのコミュニケーションを思い出してほしいのですが、いきなり最初にリモートで会って話をするよりも、最初は対面であって1時間ほどじっくり話をして、そのあとリモートに移行してコミュニケーションをとっていくと、思いのほか物事の進みが早くなるということがあります。一定の信頼関係がお互いに醸成されていれば、リモートに移行しても、関係の質を継続することができるわけです。

 同じような状態を職場にも持ち込むのが有効だと考えられます。例えば週に1回、メンバーで集まり、チームビルディングのワークショップを実施したり、ひとりひとりと1on1をしたり、チームごとの悩み事を語り合う場をつくるだけでも、残り4営業日の仕事はスムーズになっていきます。いっぺんにチームメンバー全員が集まれない場合は、ローテーションしながら、チーム内のメンバーがまんべんなく顔をあわせて定期的に会話ができる環境を整えていくといいでしょう。

 「心理的安全性の種をまき、定期的に温めていく」このための仕組みをつくり、実際にチームをファシリテートしていくことが、マネジメントには今後求められてきます。

今後のオフィスに必要な機能②相互研鑽

 今後のオフィスに必要な要素の2つ目が「相互研鑽」です。つまり、お互いのスキルや考え方、アイデアを磨きあい、知識や知恵を交換しながら、アウトプットの質を高めていくプロセスが必要になります。

 「関係構築」については勘がいいビジネスパーソンのみなさんは、理解しやすいかもしれませんが、相互研鑽というと、なかなかピンとこないかもしれません。具体的に何をやるかというと、下記のようなコミュニケーションをつくっていきます。

お互いの仕事の目的意識を共有しあう/相互にフィードバックしあう/お互いのスキルを共有する/外から持ってきた知見を共有しあう/チームマネジメントに関する課題点を抽出し、意見を出し合う/一緒にアウトプットをつくる

 ①で挙げたコミュニケーションは、とにかくメンバーがしゃべりやすい状況をつくるための雑談、いわば「ゆるい」コミュニケーションです。しかし、そこだけでとどまっていてもいいチームはできません。関係性ができてきたら「お互いの意見を表明しやすく、アウトプットにつながりやすい」土壌をつくっていくことが大事です。

 これは「心理的安全性」という言葉に関するよくある誤解ですが、心理的安全性とは「仲良しな状況」を示すのではありません。「自分のふるまいに対し敬意を持たれ受け入れられる状況」のことを示します。「私は~だと思う」と誰もが声に出せ、それをお互いが尊重できる場づくりが、心理的安全性を根付かせるためには必要になってきます。

 ①で述べたのは、種をまき、定期的に温めるプロセスです。対して②は、その種を発芽させ、お互いにお互いを尊重しながら「花を咲かせていく(成果を実らせていく、目的やビジョンを実現していく)プロセスになります。そして、①ができていない組織で②を実現することはできません。まずはお互いにお互いの自己開示がしやすい関係づくりをし、そのあとで、お互いの持っている目的意識や意見を表明し、磨いていくプロセスを導入する必要があるのです。

 そんな組織を作り出すために最も効果的な方法が「コラボレーションの実践」です。お互いの課題意識を持ち寄り、チームを自発的に作り出し、課題に対するアウトプットをつくります。いわば「ラボ」的な勝手チームをオフィスでつくるのです。

 ひとつのアウトプットをつくっていく過程で、それぞれの考え方がより深く共有でき、自分の意見も表明しやすくなります。リモートとオフィスを組み合わせてコミュニケーションを重ね、それぞれの持つ長所を重ねながら、ある程度期限も区切りながらプロジェクトを進めていきます。

 特に業務改善や、チームビジョンのアップデート、新規事業の創出にこのプロセスは有効です。あえて本業とは違うことを自発的にやってみると、なおコミュニケーションは深まっていくでしょう。

今後のオフィスに必要な機能③外の人材との交流

 しかし実際にプロジェクトを進めていく際に、内部の人間だけで完結しないことの方がほとんどです。外部の人間を招き入れ、内部との交流や研鑽を促すことも必要になります。そのために必要なのが3つ目の機能「外の人材との交流」です。具体的には下記のようなコミュニケーションが必要になります。

外部の人たちと雑談をする/お互いの悩み相談をする/関心事を共有する/仕事の目的意識を共有する/相互にフィードバックしあう/一緒にアウトプットをつくる

 記憶力のある方は「あれ?①と②と同じじゃないか!」と気づいたかもしれません。その通りです。つまり、①②のコミュニケーションを外部の方を交えて実施することが大事なのです。

 外部の方とリモートでも打合せはできるかもしれませんが、新しいことを行う際に、ちょっと集まれる場があるのはとても有効です。まして今は安心して集まれる場が減っている状況なので、しっかりと設備を整え、衛生管理を徹底すれば、リスクを回避しながら、外部の第一線の人材を自社の持つオフィスに招くこともできるかもしれません。

 具体的には、オフィスに、社内のチームの専用エリアと、外部の方も招けるコラボレーションエリアを設置し、社内のメンバーが行き来でき、外部の方が入りやすい環境を整えていくと有効でしょう。そして、コラボレーションエリアを、②で述べたような「ラボ化」するのです。これも例えば週1回程度あうくらいの頻度にし、あとはリモートで完結するようなコミュニケーションをつくれると有効です。

新しいオフィスづくりのヒントはコミュニティを持った「共創スペース」にある

 そんなオフィスが実際にあるのか。何を手本にすればいいのだろうか。そう思う方もいるかもしれません。その際に参考になるのが、この数年数を増やしている「共創スペース」です。

 企業が共創スペースをつくり、いわば「出島」のような形にして新規事業を生み出すケースも増えています。東急は、新規事業チームがSOILという新規事業人材サロンをつくり、社内外のメンバーの交流を促しながら、関係づくりと研鑽を行っています。東急とJR東日本、東京メトロの合弁で誕生した渋谷スクランブルスクエアにある「SHIBUYA QWS」は、東急の社員も活用しながら、外の人材との交流を深めたり、一緒にイベントを開催しながら、アウトプットづくりにも取り組んでいます。虎ノ門の再開発をすすめる森ビルも、企業会員を集めたインキュベーション施設「ARCH」をオープンし、自社の新規事業スタッフが運営しながら、イノベーションづくりに取り組んでいます。

 SMBCグループの共創スペース「hoops link tokyo」は、数多くのスタートアップが働く場として開放されていましたが、そこに社員も絡んでいったり、共創ワークショップを運営することで、新しい事業創出を成功させていました。

 これらの共創スペースに共通するのは「関係者が関係構築をするための機能を有していること」「お互いが研鑽できる機能を有していること」そして「それらを誘発するために、外の人材をたくさん招き入れていること」です。まさに①関係構築②相互研鑽③外の人材との交流の要素が揃っています。

 しかしただ機能を持つだけでもうまくいかないことも、共創スペースが教えてくれています。実はこれらすべての機能のエンジンとなっているのが私が専門にしている「コミュニティ」です。①②③はコミュニティづくりの段階で結果生まれてくる、ある種の副産物なのです。コミュニティがなければ、オフィスはただの人が集まるだけのハコになります。その違いは天と地ほどあるので注意が必要です。

 お互いが安心感を感じながら研鑽できる今後の働く場づくりにおいて大事なのは、会社組織のコミュニティ化です。それぞれがフラットにかかわれる関係性をつくり、マネジメントは上位下達のヒエラルキー型コミュニケーションから、それぞれの立場を尊重しながら運営に徹する「コミュニティマネジメント型」のふるまいに移行する必要があります。場は、それを促すための装置にすぎません。そのあたりの話は、おかげさまでたくさん「スキ!」をいただいた拙記事にて詳しく触れていますのでぜひ参考ください。

 とはいえコミュニティづくりには、場もとても大事です。いきなり会社に先に述べたような機能を持たせるのが難しい場合は、企業会員を募っている共創スペースと契約をし、そのコミュニティとのつながりを武器にしながら実現していく方法もあります。会社オフィスに人を集中させるのが難しい現状、いくつかの共創スペースと契約しながらサテライト化し、人材を分散させていくことは非常に有効です。検討されてみるといいかもしれません。

「客を招き、酒を造り、飲み語りあう」これらかのオフィス

 ちなみにリンクトイン日本代表の村上臣さんは同じ「#オフィスは必要ですか」というお題に対して「すべてのオフィスはBarになる」という記事をCOMEMOに寄稿されていました。関係の質の向上を促す息抜きや交流の場ということで、まさに当記事の①関係構築にまつわる内容でした。

 当記事はそこに、いわば「そのBarに新種のお酒(価値・事業)を一緒につくる機能もつけてしまえ!」という、ちょっとはみ出した内容になっています。

 そしてそういえば先ほど事例にあげた「hoops link tokyo」は、禁酒法時代の米国の、密造酒をつくるマフィアのアジトをイメージしてつくられていたということで、まさしく「(お酒を飲みながら)関係構築」と「(新種のお酒をつくることで得られる)相互研鑽」「(常連さんや一見さんが行きかうバー空間としての)外の人材との交流」をコンセプトの段階から兼ね備えていたわけです。今はコロナ禍でバーチャルオフィスに移行されているようですが、参考までにチェックしてみるといいかもしれません。

 これからのオフィスは、外の人と中の人が一緒に密造酒をつくる隠し醸造所を持つBarになる。例えるとそういうことかもしれませんね。客を招いて、一緒に酒をつくり、飲み語らえる、そんな場づくり。なんだか夢があって、ワクワクしてきませんか?みなさんとそんな視点で、未来のオフィスを想像&創造できると嬉しいです。

#COMEMO #オフィスは必要ですか

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