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新型コロナウイルス後のMaaSの姿

COVID-19問題がおきる前後のMaaSについての認識の変化を考える上で、この記事はとても興味深く読んだ。

MaaSというよりも、この記事には自動車のことしか出てこない。鉄道については、感染予防のために避けたい交通手段であるとされ、その代替としての自動車交通がクローズアップされている。

実際のところ、最近の首都圏の鉄道は、自分自身はラッシュ時には乗らないようにしているものの、そのほかの時間帯でみても、緊急事態宣言中と比較すれば、格段に乗客が多くなった(戻ってきた)と感じている。通勤電車は窓が開く車両が多いが、今後の雨天時や夏の猛暑の時期にどれだけ「密」を避けるための窓開けが行われるのか、何とも言えないところだと思う。そして、混雑度合いは通勤電車ほどではないかもしれないが、乗車時間が長いことが多い都市間連絡の列車、典型的には新幹線や各種の特急列車は、窓が開かない車両が通例であり、やはり「密」問題は避けられないと見るべきだろう。

こうして、エネルギー効率、つまりCO2排出量の観点からは「優等生」であった鉄道がCOVID-19によって忌避される交通手段となり、自動車がその代替としてクローズアップされることになるとは、半年前には予想できないことだった。そして、今後自動車の自動運転が実現するなら、それはドライバーとの濃厚接触を避けられるという、新たな価値も見いだされることになる。

ただ、この記事が気になるのは、オフィスの在り方や通勤の在り方が基本的に今までと同じということを前提にしていることである。実際にはスタートアップに限らず、少なくない企業で都心のオフィスの縮減ないし解消を目指す動きがあると言われている。契約期間の問題などもあり、こうした企業動向が空室率に反映されるのは先のこと、という解説を目にしたことがあるのだが、この記事によれば早くも空室率が、わずかとはいえ上昇しているという。この減速感が、記事末尾にある通り軽微なもので済むのかどうか、注視していきたい。

仮に、都心オフィスから郊外等への移転や、都心のオフィス面積の縮減が一定のレベルで起こるなら、通勤する人も今よりも減り、その輸送のための自動車を含めた交通手段の利用も減ることになる。また、なかなか日本では普及が進まないと言われ、今回も一過性に終わるかもしれないと言われているリモートワーク(在宅勤務)が、一定程度は継続して活用されることになるのだとすれば、こうした移動需要の減少に拍車がかかることになる。

そうなるのだとすれば、そもそもの移動需要の総量がどの程度今後も発生するのか、そして、それが引き続き都心に集中するのかどうか、それとも都市圏内でオフィスが郊外に移転することによる「上り」方向から「下り」方向への移動の分散が起きるのか、という点まで含めて考えていく必要があるだろう。

MaaSと言うとモビリティの部分だけが取り出されて議論され、その他の社会的な状況については既存のあり方を前提とした議論がされてきたのが、これまでであったと思う。

しかし新型コロナウイルスの出現によって土地利用のあり方や都市のあり方、社会のあり方自体が問われることになってきている。電車が三蜜と言われる状態にあるのではないかという議論もそうだが、オフィスビル自体のあり方がコロナウイルスの感染をいかに防ぐかという点で再検討を迫られていると思うし、そうすれば当然どのように通勤するのかということについても、再考する必要がある。そのうえで、どのようなモビリティサービスが提供されるべきなのか、ということを考えていかなければならない。

建築家の隈研吾氏も、これまでの建物のあり方を考え直す趣旨の発言をしている。

そして、いわゆる「新型」コロナウイルスは今問題となっているCOVID-19だけではなく、新しい感染症の出現も考えられることを念頭に置くなら、そして日本は多くの自然災害を毎年のように経験する国であるということを考えても、在宅勤務やリモートワークの活用は、一過性の課題ではないと思うし、それもオフィスや通勤のあり方に無視できない影響を与えることになる。

変数が増えることで複雑になり、最適解が見えにくくなっているが、今後のMaaSを考える上では、交通だけでなく、建築や都市計画の視点を加味しなければ機能しないものになるのだろう。

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