新型コロナとインフルエンザが増加しない可能性を考える
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新型コロナとインフルエンザが増加しない可能性を考える

水野泰孝 Global Healthcare Clinic

 8月下旬あたりから首都圏を中心に新型コロナの患者さんが激減している状況で1か月近く経過しますが、下げ止まりの傾向もなく、連日の検査陽性者数は前週比でほぼ半減の状態が持続しています。当初デルタ株は他の人に感染させる力が非常に強かった印象がありますが、最近では濃厚接触者の検査をしてもほとんど陽性にはならず、感染力が弱まったような印象もあります。これはワクチンをしていない子どもたちの間でも同様です。新型コロナの患者さんが減少しているのはとても良いことなのですが、最近メディアで取り上げられる「第6波」「インフルエンザ大流行」等、過剰な煽りがとても気になっています。もちろん注意喚起は必要なことではありますが、明確ではないただの注意喚起は、これから社会活動を徐々に再開させていくタイミングには如何なものかと考える次第です。これからどうなるのか、むしろ感染拡大しない可能性について考えてみたいと思います。

 これまでの大きな波は5つありました。第1波はちょうど桜が満開となった2020年3月末の連休あたりからで、4月に第1回目の緊急事態宣言が発出されました。この時に問題となったのは欧州からの帰国者によって持ち込まれた株であったと考えられます。ゴールデンウィーク中のステイホームが功を奏し、6月上旬ころまでは新規陽性者がほとんど確認されない状態にまでコントロールできていましたが、夜の歓楽街でのホストクラブを中心とした集団発生から東京を中心に感染が拡がり、第2波が訪れました。第3波は年末の多くのイベントや英国由来の変異株(N501型・アルファ株)が発端と推測される感染拡大が起こり、東京では年末の数日で2500人近くまで新規陽性者が一気に増加しました。そして今回の第5波もインド由来の変異株(L452R型・デルタ株)が発端とされる感染拡大が起こりました。

 これまで波が始まる発端となる出来事は、数日間にわたる大きなイベント(連休など)や海外からの新規株・変異株が疑われます。すなわち新たな「感染源」の流入です。それではこれから年末にかけて、感染源の流入の可能性はどうでしょうか。10月は月末にハロウィーンがありますが祝日がありませんし、11月も連休はありません。昨年と同様の状況であればクリスマスから年末年始休暇にリスクが高まる可能性があります。しかし根本的に異なるのは「多くの国民がワクチン接種を済ませていること」「昨年に比べて公衆衛生の知識が向上していること」です。たとえ「感染源」がコミュニティに入り込んだとしてもその周囲ががっちりとした免疫で固められていれば拡がる可能性は最小限に抑えられるはずです。これまでも説明してきた「感染症発生の3要素」に当てはめてみると、「感染源」は国内だけであれば現在の絶対数は少ない、「感染経路」は多くの国民の公衆衛生知識の向上で遮断する可能性が高い、「感受性宿主」は多くの国民が免疫を獲得し感受性が低くなっているということになります。当然ながら気が緩むことによる感染経路遮断の破綻はひとり一人の行動に委ねられますが、欧米諸国のように多くの国民がマスクをせずに大はしゃぎする光景がすぐにみられるようになるでしょうか?同調圧力の強い現在の日本社会においてはまだしばらくかかるように思います。また感受性が再び上がる、いわゆる「ワクチン効果の減衰」ですが、実際の診療においても2回接種後に感染した方の多くは無症状で、家族内で確認されても他の人にうつしていることはほとんどありません。

すなわち中和抗体によりウイルス増殖が阻止されている可能性があることが示唆されます。そうなると「感染源」を阻止するような対策がしっかりと取られていれば大きな波は避けることができると考えられます。

 世界的に新型コロナが収まっていない状況では得体の知れない変異株が潜んでいるかもしれませんし、国内でも突然変異を起こした株を発端とした感染拡大も否定はできませんが、感染症発生の3要素を冷静に見直してみれば、「増加の波は来るかもしれないが、それほど大きな波ではなく、もし来たとしてもある程度のブレーキをかける要素は整っているのではないか」というのが私の見解です。

 これはインフルエンザでも同様です。昨年も「ツインデミック」などと同時流行の可能性が示唆されていました。新型コロナが発生してからはじめての冬でもあり、感染症専門医でなくても現場の臨床医であればその可能性を危惧していたと思いますが、実際には定点観測による患者報告数はきわめて少なかった結果となりました。海外との行き来がほとんどなくなり、人々の感染対策の徹底などによる効果と考えられた反面、定点観測の医療機関でどのくらいインフルエンザの検査が行われていたかどうかは不明確であり、特に医師会は感染対策の観点からインフルエンザ検査を推奨しなかったこともあり、検査数や陽性率は未知のままです。今年は新型コロナとインフルエンザを同時に判定できる検査キットが発売されていることから、新型コロナの検査をした際にインフルエンザと診断される可能性もあり、昨年より必然的に検出率は上がると考えられますので、患者数は単純に増加することが考えられますが、昨年流行しなかったからといって今シーズンに大流行があるかというと正直疑問です。もちろん基本的な感染対策を怠り、ワクチン接種率も極端に低く、海外との行き来が盛んであったならばそうなる可能性もあるのかもしれませんが、南半球での流行状況も深刻ではなく、私見としては大流行する明確な理由が見当たりません。

 メディア出演の際にコメンテーターの方からご指摘を受けるのは、「増える理由は解説していただけるが減る理由は解説していただいていない」ということです。このような背景からあえて「増加しないだろう理由」を考えてきました。しかし多くのメディアは「気が緩むようなコメントはしないでいただきたい」というのが主たるスタンスであり、それに呼応する肩書のある(特に患者を診療していない)方々は今でも過剰な注意喚起(最近では喚起ではなくただの煽り)を続けているように見受けられます。実際に煽っている方々の露出が多いようにも感じます。人のことを言える立場ではないかもしれませんが、私自身は煽りにならないようにかなり気を遣いながら情報発信をしているつもりですので、今回はメディアでは言いずらいところを記事にしてみた次第です。

#日経COMEMO #NIKKEI

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水野泰孝 Global Healthcare Clinic
東京慈恵会医科大学大学院修了。タイ王国マヒドン大学熱帯医学部留学、在ベトナム日本大使館医務官、東京医科大学准教授、同大学病院感染制御部長・感染症科長を歴任。専門は熱帯医学、渡航医学、予防接種。日本感染症学会指導医、日本小児科学会指導医、米国熱帯医学会認定医(CTropMed®)。