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先駆者に聞く、サブスクビジネス導入法〜【COMEMOイベントレポート】

近年おおきくクローズアップされているサブスクリプションサービス。
あなたにとってサブスクリプションとはどういうものでしょうか。

今回のファシリテーターは株式会社ビービットの遠藤直紀さん
トークゲストにOYO LIFE | OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN 株式会社 CEOの勝瀬博則さんと株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 マネーフォワード Fintech 研究所長の瀧俊雄さんをお迎えしてサブスクビジネス先駆者の知見、お二人の経験、そして今後導入を考える際のアドバイスなどを伺いました。

サブスクは単なる分割払い?

サブスクリプションとは単なる分割払いなのでしょうか?
まずはファシリテーターの遠藤さんがサブスクリプションについて既存のビジネスとどう違うのかについて言及されました。

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遠藤さん 最初に「買い上げる」ということは消費者側がリスクを取り尽くすということです。サプライヤーの方が強い。一度買ってもらったらその後ひどくても売り抜けられる。その点「サブスク」は、その都度契約してもらうということで、インチキができない。これは社会全体で見ると非常によいモデルです。化粧(取り繕っても)しても売れない、なので顧客志向のサービスが増えていくのだと考えます。

これはけっこう大きな大転換だと思います。

もともとはプロダクトそのものの価値よりも利用したときにお客様にとって本当に価値があるのか、「買う前」の価値よりも「買った後」の本当にお客様にとっての価値というところに本質があります。

日本企業は理念では顧客志向をうたっているが、実は製品志向の会社が多いんです。

そして、サブスクビジネスでは活動の力点が「買い切り」の営業から実際に買ってもらった後の「活用支援」に移ります。多くのサブスク企業の方と話すと「カスタマーサクセス」という概念がすべての活動の要だったりします。

日本の大手企業にはカスタマーサクセスの概念も部門もないことが多いと思います。でもサブスクビジネスではそういうもの(カスタマーサクセス)が新しく必要になったりします。

サブスクビジネスの概念=これまでと全く違う概念



サブスクビジネスで会計単位・指標・が変わる

遠藤さん 会計単位も元々は単年度の売り上げが重視されるが、サブスクはAnnual Recurring Revenue(アニュアル・リカーリング・レベニュー)といって継続契約の売り上げがいくらかが重要になります。なのでこれまでとは会計の概念が変わってくるのです。会計単位や指標が変わってくるんです。

サポートの形もかわる

遠藤さん もともとのビジネスは受け身のサポートだったが、活用支援のために前のめりのサポートになっていきます。また、顧客と会社にはこれまで距離がありましたが、今後は距離がもっと近くなり、ともに作っていく形になります。サブスクビジネスとは単なる分割払いとは違い、これまでと全く違った概念なのです。事業のあり方が根幹から変わっていくととらえています。

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BtoB、BtoC、マネーフォワードのサブスクリプション

家計簿アプリを有償化した意外な理由

瀧さん 日本人は平均的に2,3つ銀行口座を持っているんですが、どこで何を引き落とされるのかわからなくなったりするんです。
さらにクレジットカードの引き落としがされるときに支出と考えるのではなく使った日に支出と考えられるようになったらいい・・・そのようなことを合わせて考えると人間1人10口座くらい管理しなければならないんです。
その点を管理する家計簿サービスを無料で立ち上げたのが始まりです。

ところが、無料の家計簿で広告が出ないことで、逆に「広告収入もないのに無料にしているのはデータの横流しなのか?」と怪しまれてやむなく有償化しました。有償化したら逆に苦情が減りました。

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いちいち入力しなくても、気がつけば勝手につけ終わってる家計簿アプリを目指しました。そこへ到達するまでの過程でお客様に色々と鍛えられました。お客様と話し続けました。「botですか?」と聞かれたこともあるくらいですが、全部自分でお客様の顔が見えるようになるまで対話し続けました。センスがない人は努力すべきなのです。その過程でサービスがどんどん変化するし、結果的にそれがサブスクというものだったんです。

遠藤さん いきなり完璧なものを作ろうと思って作っても、その後の努力ってしない人が多いんですよ。瀧さんはお客様のログをずっと見ている、そのくらい顧客理解に努力されてきたんです。

しかし、プレミアムの料金500円、解約する人もいるんですよね?

瀧さん データのカーテンを12ヶ月前の時点でひくんですよ。そして、「課金したら全部見れるよ」ということにするんです。銀行だと過去2ヶ月までしかさかのぼれない、そこをマネーフォワードでは課金すると過去のデータまで見られる。人は自分のデータを見るために課金するんです。

お金を見つめることで、自分の今までやってきたことを考えるんです。鏡だから「よりよい自分」をみせてあげられない。自分の行動が全部お金という成績表に表れるんです。見ることによって自分の醜態がわかる。

遠藤さん そこまでお客様のことが見えているところが僕はサブスクっぽいなと思います。

巨大市場を狙うサブスビジネス


遠藤さん 勝瀬さんに最初に伺いたいのは(勝瀬さんが以前携わってきた)ブッキングドットコムはトランザクションが中心ですがOYOライフは長く使ってもらうことを想定されたサブスクリプションサービスだと思うんです。ブッキングドットコムのような過去に携わってこられたサービスと違うなと思うところはどういうところでしょうか?

勝瀬さん 販売の仕組みこそブッキングドットコムを参考にしてますが、基本的にはホテルは必要な時に買うもの。サブスクリプションは継続して使ってもらうので全く違うんです。

まずなんでOYOライフやったかというお話からすると、これまず、市場がでかいんです。サブスクリプションはほとんどが新しいマーケットを作るのではなくて既存のものの置き換えです。買ってたものを、所有してたものを利用に置き換えるというものです。なのでもともとなかったサービスを作りだしてサブスクにするのは非常に難しく、時間がかかり、リスクもある。

たとえば車は所有のコストが高い、でもこれって持たなくていいんじゃない?という話になるとタイムズのカーシェアになる。

家も所有のコストがめちゃくちゃ高い。不動産マーケットは12兆円くらいある。賃貸はレンタルです。レンタルで12兆円のマーケットって不動産くらいしかない。ということはこれをサブスクにできたらでかい。

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収入の3分の1が賃貸料、1日の3分の1を家で過ごしている

賃貸に住まれてる方の収入の30%は賃貸料です。賃料は高い。これってネット化できて簡単にできたら大きな話です。

こういう話をしたら投資家が興味を持ってくれたんです。

そして、24時間あるうちの8時間はみなさんは家で過ごします。この8時間の間にゴールデンサブスクリプションタイムがあるんです。

大体よる8時から12時の間にものはネットで買われます。なんでコンビニが成功したか?家に近くて24時間あいているから成功した。ネットはもっと身近だ。家の中でできるからです。

AmazonやGoogleは家の中に入りたくて仕方がないんです。だからスマートスピーカーを作るんです。消費は家の中で行われているからです。

だから賃貸料でみんなが支払っている収入の3分の1、一日の時間の3分の1を握ったら成功するんです。

遠藤さん 今はSaaS、サブスクリプションサービスなど次の時代のビジネスになってきてますが、投資家は新しい時代のビジネスの話を聞くときにまずTAM(Total Addressable Market)を聞いてきます。その市場を100%とったらいくらなの?という指標です。そういうことでは勝瀬さんは最大マーケットの話をしたってことですよね?

勝瀬さん そうですね、OYOのサブスクリプションをするってことは一度所有しなければいけない、巨大なお金がかかる。そこで投資家にピッチをしました。

遠藤さん そういう意味では自分たちがやろうとしている事業がアドレスしているマーケットってどのくらいの大きさなのかということは事業を考える上での根幹なのでそこはいい手を打ってらっしゃるなと思います。

OYOのサブスクビジネス

摩擦の少ないエクスペリエンスサービス

勝瀬さん これまで賃貸物件は借りるまでに借り手に多大な労力がかかったんです。ネットで物件を検索し、不動産屋に電話をする。現地に出向き物件を見て回る。契約をする際もたくさんの書類に捺印が必要になる。

そこをOYOライフのサブスク型賃貸では取り払いスマホ一つですべての契約、退去が完了するのだという。

遠藤さん 非常に摩擦が少ない優れたエクスペリエンスのサービスになっているわけですね。

勝瀬さん ユーザーエクスペリエンスを大事にしないといけないんです。お客様を大事にしているんです。

サブスクビジネスへの投資

ネガティヴチャーン

遠藤さん サブスクリプションは初期コストがかかるし利益が出るのが後ですよね。これまでの常識と違うビジネスをどのように投資家に説明したのですか?

瀧さん 弊社はネガティヴチャーンなんです。チャーンレートという言葉がありますが、チャーンというのはいなくなるっていう意味なんです。
チャーンレートが1%です、というと例えば100人会員がいると来月には99人になるということです。

ネガティヴチャーンというのは追加受注ともいわれ、会員がサブスクサービスを継続しさらに追加でサービスを購入することをいう。

瀧さん ネガティヴチャーンが増えるとそれなりに株式市場に評価されるんです。

サブスクの料金はユーザー体験の質によります。お客様の生産性の向上を実現するサービスでないといけないと思うのでカスタマーサクセスを大事にしないといけないっていうことになります。

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在庫を持つサブスクビジネス

参入障壁の高いサブスクビジネス

勝瀬さん レンタルとサブスク何が違うの?っていう話ですけど、レンタルは一方通行、サブスクは相互通行です。それを見るためにデータトラッキングをしています。

ゲーム会社のように在庫を持たないサブスクはサービス型サブスクリプションです。OYOは全く違う形のサブスクです。在庫を持たないといけない。
莫大な投資が必要だし簡単に赤字にも転じる。
それと同時に、持っている強さもあるんです。

遠藤さん 参入障壁の高いビジネスということですね。

勝瀬さん サブスクと一言で言っても全く違うんです。

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ものがあふれる時代のビジネス

遠藤さん 両社とも、もともとある大きいマーケットを取り込んでいるわけですが、時代は所有から利用に変わってきていると思うんです。

物が足りない時代だと人は所有したくなると思うんです。世の中に車が足りてなくて乗りたくても乗れなかったら確保しないと不安になる。人間て不安に引っ張られる。日本に車が8,000万台ある今、稼働率は5%といわれる。車は余っている、そうなると「所有」する意味が薄れていく。

成熟していて物があふれている状況は所有する意味がなくなってくると思うんです。

勝瀬さん メンテナンス、税金など持つ喜びもあるけど持つ苦しみもあるんですよね。

大人になって成功したら家は持つもの、結婚したら家を買うことというのは神話だと思うんです。

家を持つコストって大変です。

サブスクリプションは所有する頭の痛さを取り除き、持たない軽さを得ることができる。
でもこれは物があふれているときにだけできる喜びと楽しみです。

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一番のライバルは固定概念


遠藤さん 従来のサブスクリプションって、教育、通信、保険。既存のサブスクリプションはずるい。顧客志向じゃなくても成り立っているんです。
この分野は規制緩和が必要だと思います。規制緩和をして競争がないと伸びない、そういう意味ではOYOさんのビジネスは競争相手が必要なんじゃないかなと思います。

勝瀬さん 僕らのライバルは今の皆さんの固定概念なんです。
家って借りるもの、これって敷金礼金払ってOKなもの、一つ借りたら10年住むのが当たり前という既成概念、これが一番のコンペティターですね。


Q&A

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勝瀬さんはこれまで新しいビジネスにチャレンジするとき、市場のどういうところをみてやってみようと思ったんですか?

勝瀬さん ほとんどのアイデアは新しくないんです。でもアイデアは言うけど何かの理由で皆さんやらない。
でも物事ってタイミングが重要なので同じことやろうと思っても1年早くても遅くてもダメ。機を見る。お金の入ってくる機、人の入ってくる機、市場がそれを求めている機だったり・・・タイミングです。

これって本当にいいタイミングなの?というのはいつも自分でも考えるようにしています。

日本の企業はユーザー目線の人が少ないと伺いましたが、どうすれば顧客目線になれるのでしょうか?

瀧さん 使えなかったらアプリって消される。インターネットで競争があるところってそれなりにいいサービスになってる産業だと思うんです。いいUXを提供することです。それを最初の20秒、最初の2分間で伝えきることが大事だと思います。
よいサービス体験ができて当たり前で、かつ、それをコミュニケートする秒数がすさまじく短いのでその間で体験の一部がわかってもらえる、ドロップしても周りが使わせる圧力にあふれているとかそういう世界観に生きています。

遠藤さん もともとネットの世界は自由競争の世界で、ユーザーオリエンテッド(顧客志向)だと思います。さらにサブスクはそこに拍車をかけてユーザー中心なのだと思います。

勝瀬さん ラットレースだと思います。ハムスターが車輪でくるくるしてるようなものです。常にユーザーからのフィードバックを得て改善していくことだと思います。苦情、不満はありがたい。それを改善していけば他社との差が生まれると思っています。それができないとサブスクはできないと思います。オペレーションが差をつけると思っています。

サブスクの値決めについてどういう観点で決めてこられましたか

瀧さん 「値下げは簡単だけど値上げは難しいよね」という意味で決めたところはあります・・・
すごい色々考えますけど、値段て経営の一番重要な意思決定で最初に決めたときのものが正解にはならないんです。答えだと思いきらないんだけど、そのときどきで比較される物を考えたりします。
自分にしか苦しめない部分があると思うんですけど、頑張ってください。

勝瀬さん それぞれの業界によってどう値決めをするかがあると思います。OYOの場合は原価があって、生もの(昨日の部屋は今日売れない)だからビッグデータやAIを導入して決めています。プライシングは肝です。

遠藤さん 昔「価格戦略論」という分厚い本を読んだんですが・・・「とにかく高く売れ」と書いてあったんです。もちろんeveryday low priceのようなAmazonやウォルマートの哲学などもあると思うので最適解などあると思いますが・・・サブスクの父のツォさんは「半年に一度見直して年間20%あげるべきだ」と言っています。サブスクサービスは押し売りはできないので20%以上のバリューアップをして価格を上げろということですね。

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グラフィックレコーディングは今回も、香林望さんに担当していただきました。

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ネットワーキングもありました。

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次回のCOMEMOのイベントは
「AI革命時代のマインドフルネス~スタンフォード×鎌倉でヒトの進化を考える」

10月1日(火)19:00〜
グローバルビジネスハブ東京 で開催されます。
詳しくはこちらをご覧ください。

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また、今回のイベントは、日経とnoteの共同運営コミュニティ「Nサロン」Facebookグループにて、映像生配信(やわラボさん撮影)させていただきました。「Nサロン」は、月額制のオンラインサロンです。メンバーになると、日経COMEMO主催のイベントに無料招待されるほか、イベント動画視聴が楽しめます。興味のある方はこちらをご覧ください。

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今後も日経COMEMOのイベントをお楽しみに!