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「あの子は保健所に行ったよ」の一言に

確か、小学校5年生くらいのときだったと思う。学校の校庭にふらりと、猫が迷い込んできたことがあった。ふんわりとした白と茶色の長い毛で、少し大きな猫だった。人なれしていて、物おじせず、私たちは休み時間に、なでたりお水をあげたりした。そして「名前何にしようか?」なんて話しながら、チャイムと共に教室に戻った。

またその子と触れ合いたくてそわそわとしていた私たちは、授業終了のチャイムが鳴った瞬間、一目散に階段をかけ降りてまた校庭に向かった。

ところが、いない。どこを見回しても、その子の姿が見当たらない。

寂しいながらもその時は、「またどこか遊びに行っちゃったのかな」くらいにしか考えなかった。たまたま近くを通りかかった校長先生に、「さっき校庭に猫がいましたよね?知りませんか?」と尋ねた。

「ああ、あの子は保健所に行ったよ」。

一瞬飲み込めず、ただただ戸惑っている私に、校長先生はもう一言だけ、「保健所の人を呼んで引き取ってもらったよ」とだけ告げてまた去っていった。茫然と、佇んでしまった。

多少なりとも動物のことに興味があり、運よく飼い主が見つからない限り、保健所に連れていかれた動物たちの身に何が起こるのか、私は小学生なりに知っていた。「”行った”、って、何?私たちがなでているのを見ていたのに、なぜ?」あとは涙が止まらなかった。

あの時、どうずればよかったのだろうか。

もちろん校長先生からすれば、もしも生徒の誰かがひっかかれたり病気がうつったりしたら、と心配思っての判断だったのだろう。

引き取ろうにも、私の家では猫が飼えなかった。結局は私も、その子を救えなかった人間の1人だった。

最近になってようやく、保護猫の譲渡や、”地域猫”という言葉が浸透してきたものの、まだまだ、あの子のような運命をたどる動物たちは少なくない。環境省の統計では、2018年度の犬猫の殺処分は、いまだ約4万3千頭にものぼっている。

先月6月、改正動物愛護法が成立した。ブリーダーにマイクロチップの装着を義務付ける他、虐待の厳罰化、生後56日以下の犬猫の販売を原則禁止することが盛り込まれている。

ただ、繁殖業者はいまだ「登録制」で、より厳しい「許可制」「免許制」を導入すべきでは、という課題は残ったままだ。”売れ残って”しまい、劣悪な環境に追いやられたり、遺棄されたりする動物たちの存在は、そうした構造を変えなければなくならないはずだ。

もう一つ気になったのが、流通やそれに関わる企業のあり方だ。少し前の記事ではあるものの、朝日新聞の太田匡彦記者が大切な指摘をしている。この記事でが、販売頭数を増やすことを目的に、「高齢者の健康寿命を延ばすために犬の飼育を」という推進の動きが、業界内の人々の言葉と共に示されている。

私たちの家族にも昨年から、保護猫だったゆうくんが加わってくれた。保護主さんは「ずっと一緒にいたいけれど、自分は高齢で、最後までしっかり面倒が見られるか分からないから」と、別れを惜しむ気持ちと、ゆうくんへの愛情に溢れたお手紙を下さった。

動物たちと触れ合って生きたい、という高齢者に方々その気持ちは大切にしたい。だとすればやるべきことは、単に販売を促進することではなく、後々のことも踏まえ安心して一緒にいられる支援体制を整えるべきなのだろう。それ抜きにただ販売することに注力すれば、行き場を失う犬猫たちをまた増やしてしまうかもしれない。

今回の改正の動物愛護法では、とりわけ生後56日以下の犬猫販売原則禁止に対して、ペット業界内では反対の声が根強かったという。小さな子猫、子犬の方が「売れる」というのが大きな理由の一つだ。それでも同じ業界から一部、賛成の声があがったのだ。

「動物たちのことを第一に考える業者であったほしい」と、消費者の意識が変わり、その声が届けば、企業が変わり、そして制度が変わっていくはずだ。

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フォトジャーナリスト。国内外で貧困、難民問題の取材を続ける。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。J-WAVE「JAM THE WORLD」水曜日ニューススーパーバイザー。TBS「サンデーモーニング」コメンテーター。 https://d4p.world/
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