達成率

投資への過信が景気後退を招く

工場などの機械投資の先行指標とされる機械受注(船舶・電力を除く民需)は5月に前月比で大きく落ち込みましたが、単月の振れをならせば、受注高はそれほど低くありません。むしろ、企業の景況感が冷え込んでいる割に、設備投資は高水準を維持しているとの印象を与えます。深刻な人手不足で省力化・効率化ニーズが根強く、同時に人工知能(AI)などの技術革新が目覚ましいこともあり、設備投資は今後、景気の好不調に関わりなく伸びてゆくのではないか?そんな論調が出てきがちな現在の局面です。

技術革新や構造問題(今回だと人手不足)を背景に、現在の投資ブームは過去とは異なり恒常的に伸び続けるにちがいない、などという主張は、景気がピーク局面でほぼ必ずと言っていいほど登場します。しかし景気の後退局面入りとともに、設備投資はほぼ確実に減少します。過度に楽観的な収益見通し、予期せぬ需要の変動、政策変更に伴う資金繰りの悪化などによって、景気は好況から不況に転じます。これは、技術革新や構造問題とは別次元のメカニズムです。足元で好調が続く設備投資を背景に、企業経営者や投資家が「今回は違う」「今回は落ち込まない」などと考えて高水準の設備投資を見込んでいると、実際にはそれほど需要がなかった、という現象が生じます。それは景気変調のサインです。過剰な設備投資は、過剰債務に転じて、金融不安を招きかねません。

機械受注統計調査は3ヵ月ごとに、機械メーカーによる当面3ヵ月の受注見通しを集計・公表しています。その機械受注見通しが、実際にどの程度達成されたかを示す「達成率」の推移を見ると、過去、達成率が100%を下回って低下基調に転じると、その後、景気が後退局面に陥るケースが非常に多く見受けられます(トップ画像を参照)。最新の達成率は、すでに過去の景気後退局面と遜色がないほど大きく落ち込んでいますが、これは、足元4-5月の受注が弱かったというよりは、3月時点の受注見通しがかなりの強気だったというわけです。まだ6月の受注が公表されていないので断定的なことは言えませんが、5月までの受注動向から判断すると、日本経済は現在、設備投資に対する過信が次の景気後退の引き金を引くという瀬戸際に立たされているのかもしれません。

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宮嵜 浩(エコノミスト)

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所シニアエコノミスト。日本経済の分析・予測を担当しています。

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