ミリオネアを目指すサラリーマンの給与構造
日本のサラリーマンの平均賃金は月およそ30万円。厚生労働省の統計をみても、この水準は過去20年間で大きく変化していない。給与の面だけをみれば、現代のサラリーマンは夢を抱けないのが実情である。sara
サラリーマンの平均賃金が伸びない理由には、複数の要因が関係してるが、男女の雇用格差が縮小していることや、シニア層の働き手も増えて、労働市場全体では労働人口が増えていることが大きい。「誰でもできる仕事」は時給単価が上がりにくいため、長年働いたとしても、年収を飛躍的に伸ばしていくことは難しい。
一方で、成長分野で専門性の高い仕事では、給与の引き上げ競争が起きている。その傾向が顕著に表れているのは、海外のソフトウエア業界である。ソフトウエア開発者は人気の高い職種ではあるが、開発現場で求められるスキルは日々進化してるいため、IT業界では給与を競り上げる形で、有能な人材の獲得競争が過熱している。
米国では、ソフトウェアエンジニアの平均年収が10万ドルを超してきており、実務経験が1年未満のエントリーレベルでも77,000ドル以上を払わないと人材が集まらない。米労働省によると、米国内では184万人のエンジニアが働いているが、今後も年率22%のペースで雇用成長が見込まれていることから、さらに50~200%超のプレミアム報酬を設定することが、有能人材を獲得するための条件になっている。
具体例として、米Amazonの給与制度では、実務経験、専門性、年間成績などよりエンジニアのレベルを6段階に分けているが、1段階目、エントリーレベルのエンジニアに対しても平均年収で16万ドルを払っている。その内訳は、基本給が75%、ボーナス12%、株式報酬13%という構成で、基本給の割合が高い。
それが上級レベルに昇格するほど株式報酬の割合が高くなるのが特徴で、5段階目にあたるシニアプリンシパルクラスのエンジニアは、平均年収が820,000ドルと高額になる中でも、基本給は200,000ドル前後で、残りを株式報酬が占めている。
Amazonでは有能なエンジニアの流失(退職)を防ぐため、毎年の給与に譲渡制限付の株式報酬を含めており、株式の付与から1年後に5%、2年後に15%、残りの2年間は半年毎に20%の譲渡制限が解除されて、株式売却ができるような仕組みになっている。そのため勤続年数が長くなるほど、Amazon株価の上昇と共に、実質年収も高くなっていく。
《Amazonの給与体系例》
○基本給(10~20万ドル)
○ボーナス
○譲渡制限付き株式報酬
・12ヶ月後に5%の制限解除→売却可能
・24ヶ月後に15%の制限解除→売却可能
・30ヶ月後に20%の制限解除→売却可能
・36ヶ月後に20%の制限解除→売却可能
・42ヶ月後に20%の制限解除→売却可能
・48ヶ月後に20%の制限解除→売却可能
言い換えると、サラリーマンとしてミリオネアを目指すには、魅力的な株式報酬がある企業へ就職することが絶対条件であり、各企業の報酬制度を詳しく解説した「Levels.fyi」という、新興の給与情報サイトが人気となっている。同サイトでは、米国を中心としたIT企業に在籍する社員が給与体系の詳細を投稿する匿名コミュニティが形成されており、求職者と求職企業とのマッチングで収益化することを目指している。
米国企業が有能人材を獲得する手段として活用する、譲渡制限付きの株式報酬は「Restricted Stock Unit(RSU)」と呼ばれるもので、日本でも上場企業が役員や一般社員向けに導入する事例が増えてきている。
リクルートは2012年に買収して子会社とした求人サイト「Indeed」が世界各国で採用する社員に対して、リクルートホールディングス株(6098)を譲渡制限付きで付与するRSUを2021年から導入した。Indeedは未上場企業のため、親会社であるリクルートホールディングスの日本株を、世界の社員に対して付与していく形だ。
この制度では、付与日から1年後に25%の権利が確定し、その後の3年間で四半期毎に6.25%ずつの権利が確定していく。たとえば、4000ドル相当のRSUを付与する場合、付与日前日の株価(終値)が4370円(42.17ドル)ならば、4000÷42.17の計算で94ユニットが与えられる。そこから4年間かけてRSUの権利が段階的に確定する。権利が確定した株式は、すぐに売却しても良いし、保有し続けてもよい。 ただし、権利確定日より前に退職すると、未確定分の株式は失われる仕組みだ。
そのため、Indeedの社員は中途退社をして転職するよりも、長期的に在籍して社内での実績を高めていくほうが、資産形成の面では得になる。
■Indeedの株式報酬インセンティブプラン
上場企業が社員に対して与えるRSUの株式報酬は、株主総会の承認を得た上で新株が発行されるため、現金給与のような資金繰りをする必要がなく、社員の成績に応じて大胆なインセンティブを設定することも可能である。ただし、株式報酬の支給分だけ、発行済み株数は増えて1株あたりの価値は下がる(株式の希薄化)要因になる。株式報酬を効果的に作用させるには、株式の希薄化を上回るペースで業績を向上させて、株価を上げていく必要があり、社員にとってはプレッシャーの高い働き方になる。
そのため、株式報酬の割合が高いサラリーマンは、定年までハードワークを続けるのでなく、できるだけ若い時期にミリオネアを達成して、早期リタイアを目指したり、次のステップとして起業をして自分のビジネスを持つことが目標となっている。
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