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after/withコロナ時代の観光地レストランについて考える

みなさんが旅行に求めることは何だろう?
実は「地元の美味しい食」というのが、じゃらんリサーチセンターが毎年、実施・発表している「じゃらん宿泊旅行」で、日本人の観光宿泊旅行の第1の目的である。(複数回答)
ちなみに、観光庁が毎年、実施・発表している訪日外国人旅行者消費動向調査では、「日本の食を楽しむ」が、インバウンド旅行者の日本旅行目的の第1位である。(複数回答)
日本人旅行者にも外国人旅行者にも大人気の「日本の食」。
コロナ禍を経ても、人気は変わらないと思われるが、「観光・旅行における食」には、新しく求められることも増えそうだ。

長期滞在傾向が増えて滞在中の「食」に対する多様なニーズが増加する

コロナ禍で、特にオフィスワーカーのDXは一気に加速した。多くの会社や行政組織がリモートワーク、オンライン会議が対応できるようになった。そうなると、快適なインターネット環境とPCさえあれば、どこでも場所を選ばず仕事ができる。そんな環境変化の中、聞かれるようになった言葉「ワーケーション」。もうご存じの方が多いとは思うが、補足しておくと、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた言葉で、リゾート地や温泉地などからリモートワークし、仕事しながら旅行も楽しむ生活スタイルのことだ。

ものは試しと、私も実際にトライしてみた。2020年から2021年を迎える年末年始は、両親と子供たちと一緒に十日間、白馬八方尾根スキー場のふもとのレジデンスに滞在した。こうなると、今までの旅行の延長では考えられないのが「食事」だ。
私の白馬滞在場所は、普段は、白馬のパウダースノーを目当てにやってくる長期滞在の外国人向けのレジデンスタイプだったのでキッチンや冷蔵庫、電子レンジ、オーブン、食洗器などの家電も備わっており、10日間、すべて自炊で滞在することができた。今回100%自炊だったのは、コロナ禍中のことなので、高齢の両親にとって外食はリスクが高いと判断したためであったので、そのリスクさえなければ、何回かもちろん外食はしただろう。
 実は日本人の宿泊旅行は1泊2日が9割程度で圧倒的主流である。休暇の取りにくさや短さなどの社会的事情もあって、欧米諸国のように長期のバカンスで一か所に長く滞在する旅は、日本人は、ほとんどしてこなかった。
そのため、温泉地では、1泊2食という食事と宿泊がセットで提供されるパターンが多い。地のものを、ふんだんに使用したご馳走は旅の楽しみである。しかし、ここでワーケーションを実施するとなると、毎日、ご馳走は食べられない。贅沢な話だが、飽きてしまうのも事実だし、確実に太るので健康にも悪い。日本の観光地での食は「1泊2日」の短期滞在を想定して提供されるものであった。そんないわば「テッパンの型」がコロナ禍で変化しつつある。観光地に長期滞在するならば、外食する場所や種類のバリエーションの豊富さ、健康面を意識した食、食事のデリバリーなどの利便性向上、自炊や中食ニーズに対応した店舗など、新しいニーズが多く生まれるだろう。

先行する滞在型観光地「ニセコ」

この新しいニーズに、コロナ禍前から応えてきたきた地域がある。
北海道のニセコ地域だ。このあたりの地価は東京の港区も越える上昇率で、コロナ禍前の5年で4倍にも跳ね上がった。パウダースノーを求める外国人旅行者の影響であり、彼らは長期滞在であるがために従来型ホテルのみならず、滞在型コンドミニアムやレジデンス建設の不動産投資が活発に行われたためだ。

ニセコを訪れた人は、長期滞在旅行者を支えるレストラン・食の多様性にも驚くようだ。湧き水で仕上げられる蕎麦や北海道の海鮮を使った正統派の日本料理から北海道名物のスープカレー、道産小麦に道産チーズを使ったピザ、アプレスキー(スキーの後の夜の時間)を楽しむためのバー、カフェなど多様な飲食店が、そこまで広大ではないニセコエリアにぎゅっと密集している。

私の手元には、今、コロナ禍直前の2019年版ニセコのレストランガイドがある。その数、居酒屋・日本食レストランは64店舗、洋食・多国籍料理レストランは53店舗、ベーカリー&カフェは46店舗、そしてバーも23店舗もある。
様々な飲食店やバーが夜中までにぎわいを見せるニセコは、夕方5時には、しんと静まり返る多くの地方観光地や温泉地と対照的だ。1泊2日の短期滞在でなるべくリフレッシュしたいと考える日本人は、「宿でゆっくりしたい」ため夜にはあまり外出しないし、そもそも食事は宿で提供されるので地域のレストランが賑わうことはあまりなかったからだ。
しかし、これからは違う。(ことになると思う)

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「泊食分離」すれば、様々な可能性がある

泊食分離(はくしょくぶんり)とは、耳慣れない言葉だと思うが、観光業界ではコロナ禍前から少しずつ取り組みが進んでいた。以下は群馬県内の温泉地で、食事を宿泊先とは別の場所で取るシステムが広がっているという記事だ。

泊食分離には様々なメリットがある。旅館の客は1泊2日がほとんどなので、今までは毎日同じメニューを出しても問題はなかった。しかし、コロナ禍を経て、インバウンド旅行者に限らず、日本人にも長期滞在傾向が出てくるのだとすれば、毎日、違う献立で食事提供をするのは大変だし、旅行者側も毎日、懐石料理は食べられない。泊食分離すれば、地域の飲食店・レストランがニセコのように増えていき街に賑わいが生まれ、夜間の消費額も増える。
コロナ禍にて宿泊業は直撃を受けて経営は苦しく廃業を選ぶところも少なくないか、食事の提供を無くして素泊まりの形態であれば人件費も減り、営業を続けられる宿も多いだろう。
今までは、どんなに料理自慢の宿でも、それを提供できる客の数は、その宿の部屋数という物理的制約内であった。A宿という場所に泊まりながらも、料理自慢のB宿の料理が運ばれてきて、A宿で食べられれば、三方良しである。
地域内の有名レストランから食事が運ばれてきて、お湯が自慢の宿の、露天風呂付の個室で料理を楽しめたら…想像するだけでも最高である。
そして、いずれインバウンド旅行者が戻ってきたら、彼らの食のニーズはさらに多様である。宗教上の理由、健康上の理由、ライフスタイル上の理由によるハラール対応に、ベジヴィーガン対応…。宿ごとに対応するのは大変すぎて、不可能だという板長さんも多い。地域内に1つ専門レストランがあれば、そこからのデリバリーでも対応できるだろう。


#日経COMEMO #新レストラン考

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