見出し画像

BTSのグラミー賞ノミネートを受けて、レコーディング・アカデミー会員の視点で思うこと①

シングル「Dynamite」で、「第63回グラミー賞」の「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」にBTSがノミネートされました。

メンバーたちがずっと口にし続けた目標であり、念願のグラミー賞についにノミネートされることができて、ファンとしても本当に本当に喜ばしい出来事でした!改めてBTSもARMYも、おめでとうございました!

自分自身、2018年からグラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーの会員です。個人的には投票権はありませんが、アーティストやエンジニア、レーベル関係者とミーティングをしたり、地域のグラミー関連イベントに参加することができます。

事前にツイッターで予想をこう呟きました。「一部門でもノミネートすれば少なくともグラミーの視聴率は爆上がりするし、ノミネートしなければダイバーシティの面でも批判されるので、どのみちかなりの影響力はあると思います。」

これは以下の記事でも書きましたが、アメリカでの多くの主要授賞式は、長年「白人中心」の価値観に基づいたかなり人種差別的な習慣が批判されており、グラミーもその例外ではありませんでした。多様性とグラミーの関係性については、続編で書こうと思います。

1. グラミー賞が抱える問題

"Grammys racist"で検索をすれば、その膨大な量の批判から、いったいエンタメ業界と社会の中での差別が切っても切り離せない存在かについて学ぶことができます。多様な人種や価値観によって作られた音楽を表彰する場ではずであるのグラミーなのに、ジェンダーや人種が障壁になって、評価されるべきアーティストがずっと評価されなかったり、客観的に見ても相応しくない白人アーティストが表彰されることはもはや恒例です。

もちろん、その結果を受けてファンを含む一般社会から批判や議論が巻き起こることまでが毎年の恒例行事と言っても過言ではありません。2年前にはセクシャルハラスメントなどに対して声を上げる#MeTooムーブメントがグラミー賞でも大きなトピックとして取り上げられ、女性を搾取していた男性プロデューサーたちが続々と批判されました。今年もThe WeekndやKehlani、Rina Sawayamaなど、音楽業界に多大な影響を与えた有色人種のアーティストが一つもノミネートされないことに疑問を抱く人が非常に多く、様々な憶測を呼んでいます。

2. BTSとグラミー賞の関係

昨年のグラミー賞では、BTSは1部問もノミネートされず、ファンから猛反発を受けました。

「現在存在する中で最も成功しているグループの一つであるにもかかわらず、11月20日に行われたノミネート発表からBTSは完全に除外された。

2019年のBTSの多くの成功は、ビートルズ以来初めて1年足らずで3枚のナンバーワンアルバムを獲得したグループになったこと、1億1700万ドル弱の売り上げを記録した「Love Yourself: Speak Yourself Tour」や、Halseyとのコラボ曲「Boy with Luv」でビルボード・ホット100に到達したことなどが挙げられる。

たくさんの人が、彼らが「レコードオブザイヤー」部門でノミネートされることを期待し、少なくとも確実に「ベストワールドミュージックアルバム」にノミネートされるだろうと思われていた。」

2019年当時、このようなツイートをしている人もいました。「BTSファンの皆さん事実を言おう。レコーディングアカデミーはBTSをグラミーやAlbum of the Yearにノミネートすることはないだろう。彼らの音楽は英語の歌詞ではないし、賞は英語圏のアーティストを優遇している。グラミー賞は、マイノリティが受賞することに不安を感じているのだ。アジア人がグラミー賞を受賞したのを最後に見たのはいつのことだろうか?マイノリティに対して不利になるようにできてるんだよ。」


メンバー自身も、インタビュー等でグラミーに対する野心について何度も言語化している。いくらグラミー賞が旧来的な忖度や白人優位主義で成り立っていたとしても、音楽業界において最高の権威であり名誉な賞である事実は変わらない。アジア人アーティストとして、そして「アイドル」として数々の障壁をぶち破ってきたBTSにとって、グラミー賞のノミネートや受賞は必然的な目標だ。

「ミュージシャンへの敬意を表す確実な指標として、グラミー賞がある。彼らはこれまでに一度だけノミネートされたことがあるが、それはベスト・レコーディング・パッケージ賞だった。彼らは来年、より大きな賞に期待している。RMは、こう公言した。”ノミネートされて、可能なら受賞したいです”

西洋中心の古臭いグラミーを、意志と才能と努力の力で、華やかでグローバルな世界に引きずり込むことができるのか?不可能ではないだろう。"グラミーは、アメリカでのチャレンジの最終部分のようなものだと思っています "と彼は笑顔で言う。"なので、はい、そのうち分かるでしょう。"

レコーディング・アカデミーからのお墨付きを得ることも大事だが、BTSはすでに世界を制覇し、暴君たちに恥をしらしめ、個々のファンが小さな達成可能な活動をするためのモチベーションを与え、それが地球を救うための活動に繋がり、”弱さ”を持ってリードすることで有害な男らしさに疑問を提示し、その過程で億万長者になり、国際的なアイドルになってきたのです。グラミー賞がしっかり彼らの活動を見ているかどうかは、エド・サリバンの観客が1964年の夜に(ビートルズに対して)期待を抱いていなかったのと同じで、結果的にそれは重要ではない。BTSは、すでに優勝しているから。」

BTSが2018年に“Love Yourself: Tear” で「ベスト・レコーディングパッケージ賞」でノミネートされた時にも、類似した議論が起きた。楽曲やパフォーマンスの内容ではなく、アルバムのパッケージングの芸術性でノミネートされたことで、作品自体を評価してほしいという声が上がったのだ。

「グラミー賞の投票者は、遅かれ早かれK-popというジャンル自体を見直すことになるだろう。だからこそ、BTSの音楽がグラミー賞の文脈の中で何を意味するのかを議論することなく、BTS(とそれに付随するSNS上での議論)を授賞式に参加させる方法として、ベストレコーディングパッケージを選んだことは、少し不思議であり、同時に少しわかりやすい。」

LA Timesのこの記事では、「グラミー賞でK-pop枠を作るべきか?」という提起がされているが、ファンの間では非常に不評です。なぜならBTSはもはやK-popという枠ではなく、れっきとしたユニークな音楽性と活動方法を確立しているため、「K-popではなく独自のジャンル」と言われているからだ。さらに、彼らは大手事務所からのデビューではなかったため、デビュー時から今に至るまで、「異質」な方法で活躍のステージを登り詰めるしかなかった。

3. アジア人としてアメリカで活躍すること

根本的には、アメリカ国内での「人種差別」が彼らにとって大きな障壁になっているということは否めません。Newsweekの以下の記事で書いている様に、彼らの快挙は再生数や受賞数だけではなく、「アジア人という存在の見られ方」に変革を起こしたことです。

「BTSが大スターになった現在でもアジア人であることを嘲笑した人種差別的な言葉や、アイドルに対する偏見に基づいた不当な評価はなくならない。西洋・英語圏・白人中心の価値観で音楽やカルチャーを評価してきたことへの違和感が、BTSの台頭によってやっと議論され始めていること自体が快挙でもある。

人種や言語の壁が立ちはだかるなかで、BTSはその芸術性やイノベーション性、そして曲のメッセージやチャリティー活動を通じた社会貢献が世界中で高く評価されている。テレビの司会者やアスリート等、大スターを含む人々のリスペクトを獲得し、英語圏出身や白人でなくとも尊敬されることが可能だと証明した。

かつてはアジアのアイドルが見下されていたような音楽業界において、彼らは大きな変化をもたらしたパイオニアだ。」

また、繰り返し発生する問題が、「彼らのことを深く知ろうともせずに、偏見に基づいた見下した発言」をメディアが頻繁にすること。「なぜBTSは人気があるのか?」という分析をする際に、しっかりと調べずに侮辱的なコメントを書いて胡座をかいたつもりになっている評論家も残念ながら多い。ARMYの動員力を悪用したとしか思えない授賞式でのBTSの扱い方も、客観的に見てもリスペクトに欠けていることは明確だ。

4. ARMYとの関係

BTSのファン、ARMYはこのような問題とひとつずつ真剣に向き合い、声を上げて批判や指摘をし、訂正を求める作業を日々行っている。「差別されているのではないか、間違った偏見を持たれているのではないか、正当に扱ってもらえていないのではないか」という疑いを持って全てのコンテンツと向き合わなくてはいけないのは、確かに疲れる。一方で、テレビ番組だとLate Late Showの司会者のJames Cordenは「パパ餅」の愛称で親しまれたり、The Tonight Showの司会者のJimmy Fallonは「チミー」と呼ばれるなど、BTSのメンバーに対して親しみと敬意を持って接する人々はファンからも応援され、愛される。楽曲のコラボ相手やプロデューサーにも侮辱的な扱いを受けないかなど、毎回ファンはヒヤヒヤしながら経過を見守る。リスペクトのこもったコラボの良い例は、BTSの音楽性を心から尊敬しているHalseyやMAXなどだ。このような「良いコラボ」はファンからも愛され、チャート入りするように呼びかけも広まるし、何よりも「BTSに良くしてくれたから応援したい」と思う人が爆発的に増える。

一方で、最悪の波紋を読んだのが、まだ記憶にも新しいJason Deruloのコラボだ。このように、「良いコラボ」か「悪いコラボ」かは、ARMYは明確に判断するし、一切見逃さない。BTSは今やトップアーティストだが、彼らがまだマイナーだった存在の時から、「ファンとして彼らを守らなければならない」という強い責任感が受け継がれているのです。

「アンダードッグであったBTSが音楽業界で勝ち進んでいく姿に感銘を受けた人も多く、まさに逆境を跳ね返して有言実行するという“アスリートの成長物語”に共感する心理に近い。

”本国で当初不遇の中でも、決して諦めず、自分たちの内発的なメッセージを音楽に込める事にこだわる。歌唱力やダンス、楽曲作りにまで研鑽を積み、世界を席巻していったストーリーは、この閉塞感のある時代に、眩しいほどの美しさと希望をもたらすものだと思う”(アンケートより)」

5. BTSの「パフォーマンス」をグラミーで披露する意味

彼らがノミネートされたのは、ポップパフォーマンス部門。興味深いことに、他のノミネートされているアーティストは全員ソロアーティストがコラボしている作品ばかり。受賞している作品だと、近年では2017年のFeel It Still (Portugal. The Man)以外が全てコラボ作品だ。単体のグループでもこれだけの影響力を持てるということ、そしてコラボ相手に頼らずともノミネートに値するその実力は圧倒的だ。

こちらのブログでのBTSのパフォーマンスについての記述がとっても良かったので共有します。

「今年BTSから何かを学んだとしたら、彼らの技術が(アメリカのそれより)はるかに優れているということ、彼らの技術が彼らのパフォーマンスを無限の自由を与えていることです。AMAでスーパーボウルのハーフタイムショーのようなパフォーマンスをしたり、空港を占拠したり、韓国の宮殿でのパフォーマンスもした。そして今回、トラクタートレーラーをVogue誌の73の質問のシーンのようにに変えて、飛行機と一緒に駐機場で始まり、そして飛行機の中に入って、さらにショットのバリエーションを増やして、そして...そして!

(彼らを特別にするのは)努力です。「番組に出演して欲しい」と思ってもらうために、自分たちを差別化し、それに見合うだけの価値があるようにするために、ほぼ強迫観念を持っている。傲慢な態度を取るスターがいる一方で、BTSのメンバーたちは非常に謙虚だ。

火曜深夜のテレビで5分間のパフォーマンスのためにこれだけやっているのなら、グラミー賞のためにどうこれを上回るのか?もしグラミー賞が放送を許可してくれればの話ですが。それが当たり前だと思うでしょうけど、グラミー賞の(差別的な)力を侮ってはいけないと思う。もし私がグラミー賞の立場であれば、BTSのために番組のスケジュールに時間を割くだけではなく、可能な限り最大のタイムスロットを与えたい。BTSにメドレーの枠を与えたい。そうすれば、本当に素晴らしいライブ・テレビが見られるだろう...今年はライブ・テレビを成功させるのに苦労してきたましたが、北米では何が欠けていたのかを見せてくれ。」









記事を読んでくださりありがとうございます!いただけたサポートは、記事を書く際に参考しているNew York TimesやLA Times等の十数社のサブスクリプション費用にあてます。