見出し画像

オンライン前提のプロジェクト管理――そのリスクは登山事故とも共通点が多い

富士山で大変ショッキングな滑落事故が起きてしまいました。記事執筆時点ではまだ身元は判明していないようですが、亡くなられた方のご冥福をお祈りします。今回の滑落事故は、登頂の様子を生配信している中で起こりました。「配信」と聞いて思い起こされるのは、昨年エベレスト登頂にチャレンジする中でなくなった栗城史多氏ですが、大きく異なるのは栗城氏はベースキャンプからプロの指示やサポートを受けながらの登山であったのに対し、先日亡くなられた方のそれはニコニコ生放送で一般視聴者からの冷やかし・茶化すようなコメントに受け答えしながらのものであった点です。配信動画では滑落直前に「滑って下山」というコメントが寄せられていました。しきりに「寒い」「指先の感覚がない」と訴えていたことから低体温症が始まり、判断力が低下していたであろうことが推察できます。そんな登頂者に対して、冗談でも掛けてはいけない言葉であったと思います。

さて、そういった事故と紐付けて語るのは不謹慎というご批判もあるかもしれないのですが、地域における様々な取り組み=プロジェクトも実は危険な登山にも似ています。4月に新潟の大学に赴任して以来、「ポップカルチャーと地域資源を関連付けたイベントや取り組みををやりませんか?」というお誘いも頂くようになりました。そういったお誘いの背景には「地方の現状をなんとかしたい」という必死の思いや、そういった取り組みと個人の夢・野心を組み合わせて、自身の未来を切り拓きたいという狙いも見て取ることができます。しかし、ただでさえ細っている地方のリソース(人・モノ・カネ)で出来ることには限界があります。登山と同様、十分な装備、そして計画、何よりも体力がないと、高い山に登ることはできないばかりか、関係者に致命傷を負わせてしまうことにもなりかねません。ただでさえ少ない地方の体力は、少子高齢化に伴って更に弱っているからです。

しかし、いったんプロジェクトが始まり、「山」に登りはじめると頂上に近づくにつれ環境は厳しくなり、その貴重な「体力」を消耗していきます。そして何よりも恐ろしいのが、通常は行なえる判断がそういった環境下ではまともにできなくなる、という点です。そして、そこに客観的ではない「観客」や「関係者」の目を意識してしまっては尚更バイアスが掛かることになります。

今回の事故でも、富士山に向かう高速バスでほとんどの乗客が途中で降りてしまった車内を写した写真が、Twitterに投稿されていました。通常であれば「他の人が登ろうとはしないのに自分は登って大丈夫なのか?」と自問する場面ですが、「だからこそ特別であり、注目あるいは称賛される」という意識が勝ってしまった可能性が高いでしょう。また彼にとっての最後のPNR(帰還不能地点)は、頂上付近の柵が切れてしまう場所で先に進むかどうかの判断を迫られた場面だったと思います。そこに決定打となってしまうコメントが投じられたのは最初に述べた通りです。(とはいえ仮にそこで引き返したとしても時間的に下山は相当困難であったでしょう。アイゼンも装備していないかった様子でしたので、恐らくビバークのためのツェルトも持ち合わせていなかったはずです)

ニコニコ生放送の配信者とコメント投稿者の関係は、プロジェクトの各タスク担当者とそれに意見することで影響を与える関係者との関係とよく似ています。Slackのようなオンラインコミュニケーションツールは、地方での様々な取り組みでも活用されるようになりました。東京と新潟を行き来する私にとっても、プロジェクト推進に欠かせないツールになっています。

しかし、そういった遠隔でのコミュニケーションツールに不慣れな人にとっては、ツールそのものがストレスになったり、それこそ「滑って下山」のような不用意な投稿が当事者の正常な判断を難しくする場面にも幾度となく遭遇しています。こういったトラブルを防ぐには、難易度の低いプロジェクトを積み重ねる練習、登山にたとえれば低山でのトレーニングしかないというのが現実だと思います。そんな中、いきなり高い山に登ろうと主張したり、おっかなびっくり登っている人間に「もっと早く・高く登れ」と怒声を浴びせる人もいる(当人はそんなつもりはないけれど)のですが、そういった人にはプロジェクトから退場頂くということも実際起こったりもしています。

プロジェクトの難易度を見極める際にも、山のイメージは役に立つと考えています。人数・練度・期間・予算(装備)によって、同じ山でも難易度が変わり、登り方も変わってきます。次回そのあたりをもう少し書いていきたいと思います。






この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

4

まつもとあつし

note初心者です。ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者として活動しています。詳しくはこちらで → http://atsushi-matsumoto.jp ※ヘッダー画像はうめ先生に描いて頂きました。

COMEMO by NIKKEI

日経が推す各業界キーオピニオンリーダーたちの知見をシェアします。「書けば、つながる」をスローガンに、より多くのビジネスパーソンが発信し、つながり、ビジネスシーンを活性化する世界を創っていきたいと思います。 はじめての方へ→ https://bit.ly/2DZV0XM 【...
1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。