二拠点生活の実践で変わる仕事と家族の価値観
都会で暮らす人が地方にも拠点を持つ「二拠点生活」は是か否かという議論は各所でされている。田舎暮らしに憧れを持つ人は増えている一方で、田舎での生活に不安を感じることが多いのも事実だろう。じつは、筆者(JNEWS編集長)も、二拠点生活の実践者だが、そこでの経験を少し紹介してみようと思う。
最近では、どこの自治体でも移住者の受け入れには前向きで、中古住宅の購入やリフォーム資金を一部を助成しているケースや、賃貸でも安価な家賃で見つけられる優良物件は沢山ある。二拠点生活に関心のある人にとって、地方で気に入った不動産を見つけやすい時代であることは間違いなく、一般層でもセカンドハウスを持つことは夢ではなくなっている。ただし、二拠点生活を「別荘暮らし」と混同してしまうと、現地の生活に溶け込むことは難しい。
【信頼構築で重要な町内イベント】
田舎生活を成功させるポイントは、ご近所との付き合い方が7~8割を占めている。地域の草刈りやゴミ捨て場の管理、そして何よりも大切なのが、隣保の葬式である。最近では、地方でも葬儀業者が葬儀の準備から運営をしてくれるため、自治会で同じ組の人達が担当しなくてはいけない実作業は少ないのだが、お通夜と葬儀当日の手伝いに参加する習慣が根付いている地域は多い。
葬儀の手伝いは“強制”ではないが、そこに参加しておくと、後々の近所付き合いがとても良好になる。そのため、筆者の場合には、同じ隣保で葬儀ができた時には、積極的に手伝うようにしている。その他に、定例行事として駆り出される用件は年に何度かあるが、頻度としてはそれほど多くはない。
こうした最低限の町内行事を通して、自分が二拠点生活をしていることを地域の人に理解理解してもらえば、すべての行事には参加できなくても、人間関係を良好に築くことは可能だ。
田舎での生活自体は、隣家との物理的な距離が離れているため、隣人関係は都会よりも緩やかで、ストレスを感じることも少ない。高齢者が多いため、現役世代の移住者は「自分の息子や娘」と同じような感覚で、親切に接してくれるのも、田舎ならではの温かさである。
【二拠点生活の適正距離】
二拠点生活とはいえ、地域にとっては、新たな住民であることに違いはないため、家はできるだけ留守の期間を長期化させないほうが良い。その点では、二拠点の移動距離はできるだけ短いほど都合が良く、何かあればすぐに駆けつけられる、片道1時間程度のエリアで、自分の気に入った物件を見つけるのがベストだ。そこが、年に数回しか利用しない別荘とは異なる部分でもある。
ちなみに、別荘と二拠点生活で利用するセカンドハウスとは税制面でも棲み分けがされている。税制上の「別荘」とは、避暑や保養の目的で年に数回の利用を前提とした贅沢品であるのに対して、セカンドハウスは「別荘以外の家屋で週末に居住するため郊外などに取得するもの、遠距離通勤者が平日に居住するために職場の近くに取得するもの等で、毎月1日以上居住の用に供するもの」と定義されている。つまり、日常的に利用する住宅であるため、マイホームと同じように固定資産税などの軽減措置が受けられる。
筆者の経験的には、週1回以上の頻度で行き来できるのが、利便性が高い二拠点生活の立地条件と言えるため、移動にかかる時間はできるだけ短いほうが良い。
【二拠点生活の目的を明確にする】
二拠点生活に漠然とした憧れを抱く人は多いが、やはりメリットとデメリットの両面があるため、自分や家族にとって「二拠点生活の目的」を明確にすることが大切だ。
たとえば、二拠点生活によって家族の形や人間関係にも変化を生み出すことができる。二つの生活拠点があれば、夫婦が共に暮らす時間、別々に暮らす時間を柔軟に組み合わせた生活スタイルを作ることができるため、夫婦間のストレスや喧嘩も少なくなる。また友人や仕事仲間にも泊まりに来てもらい、朝まで飲み語り合いながら、人間関係を築けるのも二拠点生活の良いところだ。
仕事の面では、地方ではハンディがあると言われているが、エンジニアやデザイナーなどのフリーランスにとっては、ローカルな場所にサテライトオフィスを持つことで、集中して作業効率を高められるメリットがある。クライアントやチームメンバーとの打ち合わせも、最近はリモートで行えるため、大きな支障は無い。独自のアイデアや想像力を生み出すという面では、むしろメリットが大きい。
二拠点生活には、金銭面では無駄な面があるのは事実だが、現代人の生き方が大きく変化していく中、自分の価値観やワークスタイルを転換させる自己投資としては有意義なものになる。人間が大きく変化するには、住む場所、仕事の環境、人間関係を変えるのが良いと言われるが、二拠点生活の実践では、そのすべてを身近に変えられる魅力がある。
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