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リモートワーク普及で変わる通勤定期の役割と通勤手当

コロナ感染対策によるリモートワークやの普及などで通勤形態が変化していることによりに、バス会社や鉄道など交通機関にとっては、通勤定期券の仕組みを変更することが急務の課題になっている。

従来の定期券は、1カ月、3カ月、3カ月と決められた期間内で、特定路線の運賃が定額となり、乗車回数が多いほど得になる。しかし、在宅勤務で通勤日数が減った人にとっては損をすることになるため、期間を定めずに、従量制で割引運賃が適用されるような、新たな通勤パスの仕組みに切り替える必要がある。

日本でも、緊急事態宣言の発令中には、定期券の払い戻しが増えたことで、鉄道会社の収益にも大きな影響があった。

国土交通省の「鉄道統計年報」によると、東京地下鉄やJR東日本の乗客数は、約60%が定期券の利用者となっている。乗車券の売上構成では、定期券が2~4割、定期外の収入が6~8割という内訳のため、鉄道会社の収益を落とさずに、定期利用者の乗車回数が減らせるような、新たな定期乗車システムを構築することが、コロナ感染対策としては理想的な形だ。

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ソーシャルディスタンスの面からも、通勤時間帯の乗車率を下げることは、各交通機関にとっての課題となっており、これまでのように「満員状態」の路線運行で収益性を高めることは難しくなっている。

米国コロラド州のデンバー地域交通局(RTD)では、バス停留所や駅のホームに電子掲示板を設置して、到着予定の車両の混雑度がリアルタイムで表示されるシステムの導入を準備している。その情報から、ソーシャルディスタンスが保てないと判断すれば、タクシーや徒歩など、代替手段で移動するように利用者の自己判断を促す方式だ。

英国大手のバス会社「First Bus」でも、車内のソーシャルディスタンスを保つための対策として、バスの運行数を増便する代わりに、1車両あたりの乗車定員を従来の25%に抑えている。路線を運行中に定員に達した場合には、目的地を示す電子掲示板に「SORRY BUS FULL」というメッセージが表示され、新たな乗客を乗せないようにする。運賃の支払いついても、現金は極力使わないように、電子決済アプリの利用を乗客に促している。

社員を雇用する会社側でも、従来の通勤手当を見直す動きが出てきている。これまでのように、自宅から会社までの距離に応じた通勤手当を支給するのではなく、通勤者と在宅勤務者を同じ条件で「月額2~3万円」の勤務手当を支給する方式や、通勤手当を廃止して基本給を上げる方式が検討されている。

「コロナ終息後は全く違った景色になる。テレワークをどんどん取り入れる劇的な変化が起きる。東京都内の会社に勤める人が山梨県に仕事部屋のある広い家を建てるようなケースが増えるだろう。企業は通勤手当をなくす代わりに給与を上げるほか、サテライトオフィスを作るなど抜本的に環境を改善すべきだ」 日本電産会長兼CEO 永守重信氏

日本のサラリーマンの平均通勤時間(往復)は、東京圏で「1時間42分」となっていて、通勤費のほぼ全額を企業が負担している。厚生労働省の調査によると、上場企業に中では、通勤手当の上限を定めていない会社がおよそ6割、上限を定めていても「月額10万円まで」を支給している会社が、半数近くもある。企業が支給している諸手当の中でも、通勤手当の負担は最も重いのだ。

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企業にとって従来の通勤体系を見直して、リモートワークに軸足を移すことは、「通勤手当の削減」と「労働生産性の向上」という、2つの効果が期待できる。さらに、毎日の通勤社員が減ることで、オフィスのスペースも縮小すれば、家賃の負担も軽減できる。米国のビデオ会議システム会社「PGi」が行ったグローバル・テレワーク調査の中では、フルタイムの在宅勤務者1人につき、企業がコストを節約できる効果は年間1万ドルと試算している。

一方、バス会社や鉄道会社にとっては、これまで大きな収益源になっていた「定期券」の売上げが減少することは厳しいが、すべての路線で利用できる月額サブスクリプション方式の乗車料金を新設するような、ビジネスモデルの転換をすることで、人の移動ルートを変えていくことも可能になるだろう。

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