_加工_-6756

大阪G20を終えて~開催国として戦果は~

G20は何かを決める場所ではない

様々な耳目を集めてきた20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)が閉幕しました。事前の期待感が-自国開催ということもあり-日本では非常に膨らんでいたように思いますが、もとよりG20は何かを決める場所ではなく、あくまで首脳同士で問題意識のすり合わせを行う場所という性格が色濃いものです。20か国集まって、2日間で重要な何かが決まると考える方が非現実的であり、基本的に出てくるメッセージは最大公約数的なものにしかなり得ません。但し、今回は通商協議の行方が注目される米中首脳会談が重ねて行われるということもあり、トランプ米大統領および習近平・中国国家主席の言動を中心として、その行方が平時以上に注目されていました。結論から言えば、「どうせ何も材料は出ない」という市場予想を前提とすれば、かなり前向きな結果に着地したと言えるでしょう。

閉幕後に開催されたトランプ大統領の記者会見からポイントを抽出すると以下の4つが挙げられます:


(1)中国への追加関税(3000億ドル分の中国製品に対する25%)を当座は見送り、協議を再開すること
(2)米企業と中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)との取引を再開(同社に対する禁輸措置の解除)すること
(3)日米安保条約の破棄は考えていないが不公平と述べたこと
(4)G20終了後に北朝鮮の金正恩委員長と面会する予定(そして実際に面会)したこと

このうち(1)は想定通りで(3)も事前報道と大きく乖離するものではないでしょう。サプライズは(2)と(4)であり、どちらも市場心理の改善に寄与しています。とりわけ(2)については、ファーウェイに対するアメリカ側の厳しい対応が米中貿易戦争のバロメーターのように解釈されてきたことを思えば、トランプ大統領が「安全保障上の問題がなければ米企業と同社の取引を容認する」と述べたことは大きな材料と言えます。(1)と(2)を見る限り、今回の会談は中国側が得るものが多かったように見受けられます

開催国としての戦果
議長国の日本については総じて「上手くやった」との評価が目立ちますが、今後を見据えた上で目を引く課題も残りました。 もちろん、シンボリックには上述した(3)が注目され、参院選(7月21日投開票)を前に日米同盟の見直しを提起されたことは、政府・与党にとって想定外だったと言えるでしょう。金融市場の観点からすれば、今後、日米貿易交渉を進める上で「為替」に加えて「安全保障」まで取引カードに乗ってきてしまうのかという不安を抱かざるを得ません。

なお、日米貿易交渉に絡めて気になったのは、首脳宣言の「世界経済」部分において「グローバル・インバランス(経常収支不均衡)は依然として高水準かつ持続的。サービス貿易・所得収支を含む経常収支の全ての構成要素に着目する必要性に留意」との表現が入ったことです。 G20開催前、浅川雅嗣財務官がこの論点を強調する報道が見られたので、日本からアメリカへのメッセージ性が強い表現ではないかと察しますが、程度の差こそあれ、アメリカと相対する多くの経常黒字国ないし貿易黒字国と認識を共有するものでしょう。経常黒字と、海外への直接投資や証券投資から得る黒字を示す「第1次所得収支黒字」の水準がほとんど同額の日本からすれば、「黒字」と貿易摩擦は全くリンクしません


首脳宣言に記載したこうした正論が、直感的なトランプ交渉術にどこまで有効なのか知る由もありませんが、交渉を進める上での公的な大義名分を手に入れられたことは、開催国として挙げた1つの「武功」と言えるのかもしれません。今後はこうした正論を盾に「為替」や「安全保障」といった破壊力のあるカードを持つアメリカと相対していくことになります。交渉は簡単なものにはならないでしょうが、アプローチとしては至極真っ当なものであり、好ましいものであるように思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?