マクロ政策運営における岸田政権の課題

この選挙結果を受けて、これからは岸田政権のマクロ政策運営がカギを握ると思いますが、いくらマクロ安定化政策で経済活動を活性化させようとしても、新型コロナウィルス感染により医療現場がひっ迫してしまっては、行動制限を余儀なくされ、経済の正常化どころではないでしょう。

まず海外のように臨時の医療施設を増設すること等により、感染者数がある程度発生する中でも行動制限を発出しなくても済むような医療体制を強化することが不可欠だと思います。また、一刻も早いより効果的な治療薬の開発・普及を急ぐことで、新型コロナウィルスに感染しても一般の開業医などで迅速に診断・薬の処方で対処できるような体制を構築することが求められるでしょう。

一方、今回の選挙では所得格差が話題になりましたが、当初所得ジニ係数によれば、2014年から2017年にかけては低下に転じています。また、再分配所得ジニ係数は2000年代後半以降低下トレンドに転じています。こうしたことからすれば、感覚や格差の実態を表さない指標を基に格差が拡大していると判断すると、経済政策の判断を誤る可能性があり、多くの国民が経済成長の恩恵を受けられなくなる可能性もあります。このため、デフレギャップが大きく残存する現局面では、総需要を持続的に増加させ、一刻も早く経済の正常化に結び付ける政策が優先されるべきでしょう。

特に、アベノミクスが大きな成果を上げたにもかかわらず、拙速な消費増税により経済の正常化まで至らなかったことからすれば、岸田政権のマクロ安定化政策成功のカギを握るのは、経済が完全に正常化に至るまでは再分配より経済成長を優先し、いかに増税を我慢できるかにかかっているでしょう。

この点で参考になるのが、米国で実施されてきた「高圧経済政策」でしょう。高圧経済論は、経済の過熱状態を暫く容認することで、格差問題の改善も含めて量・質ともに雇用の本格改善を目指すものです。高圧経済によって労働市場で弱い立場にある若年層や女性雇用に恩恵が及び、格差改善により経済全体の生産性も高まることで潜在成長率も高めることができるとされています。

特に、海外で進んでいるマクロ経済政策の新たな見方では、成長を促す分野や気候変動対策等への効果的な財政支出による成長戦略が新たな経済・財政運営のルールとなっています。超低金利下では財政収支悪化のコストも小さいことからすれば、格差の是正など多様化する中長期の社会・経済課題の解決に向けて改革に取り組むことを岸田政権には期待します。

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