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地方におけるアニメスタジオの可能性と問われる自治体の「決意」

3月1日に京都で開催されるイベントでパネルディスカッションの司会を務めるはずでしたが、コロナ対応で急遽参加ができなくなったため、そこで触れたかった話をこの記事にまとめます。(ホントに参加したかったイベントだったので延期かオンライン開催に切り替えて欲しかったところです。残念です。)

産業集積から地方分散へ

これまでアニメの制作スタジオは関東、それも東京西部のJR中央線沿線に集積されていました。作品素材の移動が頻繁に発生し、作品毎に求められるクリエイティブの性格が異なる上、企画からの納品(プロジェクト終結)まで2年程度と、他の産業に比べても短いスパンでバリューチェーンに参加する顔ぶれが入れ替わるという性格をテレビアニメは持っており、それに対応するために分業と集積が進んだと言えます。(アニメ産業の従来のこの姿は半澤誠司さんの以下の本で詳しく調査されています)

しかし、いまアニメ産業は大きな変化のタイミングを迎えています。1つは配信へのシフトです。1クールというテレビ放送枠に縛られず、制作期間や体制を組むことができる機会が徐々に増えてきました。今後の推移は注視する必要はありますが、劇場アニメブームもこの変化に拍車を掛けています。

もちろん、配信をメインに据えた作品であってもテレビ放送も並行して行うような場合はこの限りではありません。しかし、制作工程のデジタル・ネットワーク化によって産業集積しなくても、素材のやり取りが行なえるようになってきました。家賃と人件費が高く、しかも人材の取り合いが激しい東京ではなく/だけでなく地方で腰を据えて制作しようというスタジオが出てきているというのが現状です。富山県南砺市に本社を置くP.A.WORKS(以下の記事で詳しくお話しを伺っています)や、上記イベントにも参加される京都市に制作拠点を置くライデンフィルムなどがその代表例です。

さらに、制作のかなりの部分がPCでも行なえるようになったため、地方で制作の一部を請け負う個人にも可能性が広がってきています。今風に言えばアニメ制作にもテレワークが浸透していく、ということになりますが、同じ場所/近くにいなくてもスケジュールとクオリティを担保することができるのか、という点が課題となります。いま、集積からの脱却を図っている制作スタジオでは、これまで「制作」と呼ばれる人材が走り回ることで維持してきたスケジュールとクオリティを、いかにシステム化できるか、という取り組みに力を注いでいるのです。

いまコロナ問題でテレワークに大きな注目が集まっていますが、大災害が毎年のように日本を襲うようになったいま、1箇所に集積していることはメリットよりもリスクの方が大きくなってきた、とも言えるかも知れません。

地方自治体はクリエイティブ産業に対応できるか?

スタジオ側は集積から分散に動きつつあります。一方で、彼らを迎え入れることになる地方自治体はこの変化に対応できているのか、というとまだ道半ばという印象が強いのです。

地方自治体にとって、アニメのようなクリエイティブ産業が地方に根づいてくれることは、税収だけでなく都会を志向しがちな若者がその地に留まってくれるという効果も期待できます。したがってその誘致を目論むのは自然な流れなのですが、作品がヒットするかどうか、という大きなリスクを(出資をしていればこれは極大化しますし、制作だけを請け負っている場合も評価は次の発注に大きく影響します)常に抱えているスタジオにとって、どこに拠点をおくのか、そこに拠点をおくことのメリットとは何か、という点は経営に直結する問いかけです。地方自治体はその問いに明確に答えられなければなりません。

自治体にとって従来の企業誘致は、企業が入居する土地・物件・交通などのインフラを整備し、入居後数年間の税金を免除/軽減するというのが一般的な手法でした。ところがアニメスタジオのようなクリエイティブ産業にとっては、もちろんこれらも重要ではありつつも決定打とはなり得ません。その地でどのような人材が確保でき継続的に育成されるのか、クリエイティブを支える文化政策に長期的に力を入れ文化資本が整備されるのだという計画(予算という形での決意)が示されているのかが問われます。アニメではありませんが、演劇をテーマに劇場・大学を始めとした環境整備に力を入れる兵庫県豊岡市はモデルケースと言えます。

クリエイティブ産業は極めて流動性が高まっており、工場を誘致するような従来型の発想では産業側にそっぽを向かれてしまうというのが現状です。コロナ問題への対応1つをとっても、もはや国には頼れない中、自治体がどのように柔軟・機動的に課題に対応できるのかが問われるベンチマークとなっおり、産業側もそれを注視しているということを忘れてはいけないはずなのです。


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note初心者です。ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者として活動しています。詳しくはこちらで → http://atsushi-matsumoto.jp ※ヘッダー画像はうめ先生に描いて頂きました。

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