今度は、刀剣という文化を調べてみた。
少し前までは刀剣といえば、ワンピースのゾロを思い浮かべた。三刀流という凄技の使い手だ。最近では鬼滅の刃の日輪刀が圧倒的な知名度を誇っている。でも日経で調べてみると、一番最初に目についたのは刀剣女子。刀剣乱舞というオンラインゲームにハマっている女子のことを言うらしい。刀剣乱舞は名刀を擬人化したキャラクター「刀剣男士」を集め、合戦を通して育成するゲームだ。物凄い人気で、ゲーム実写化の『映画刀剣乱舞』も公開済みだ。知らなかったのが少し恥ずかしい感じだ。
そんなブームの訪れもあってか、刀剣の話題は豊富だった。刀剣女子の次に目を引いたのは、岡山県瀬戸内市が購入した5億円超の名刀、国宝「太刀 無銘一文字山鳥毛」だ。資金集めには、税金を使わず、一般寄付のほか、クラウドファンディング型ふるさと納税などを使ったと言う。簡単な道のりではなかったようだが、「世界に誇れる日本文化、日本刀の聖地にしたい」という主旨に賛同した人たちの輪が広がって、2020年2月に目標額に達し、無事に購入することができた。現在、展示が行われているのは備前長船刀剣博物館だ。
この博物館の脇には日本刀の工房もある。刀作りの体験イベントも開催されるが、実際に名刀作りに挑む刀鍛冶が日々働いている。先頭に立つのは安藤祐介氏だ。安藤氏は、鎌倉の古刀にはあるのに大半の現代刀にはない「映り」の表現を追究している。その成果もあってか、全国の刀工が腕を競う現代刀職展では、短刀・剣の部で17、19、20年度に最高位の優秀賞に輝いている。ただ、「満足のいくものはゼロ」で挑戦は続くと、今なお備前の地で刀剣の文化が更なる進化を果たしているようだ。
瀬戸内市は、世界への刀剣文化の発信にも積極的だ。2019年には、日本・ポーランドの国交100周年記念事業として、ポーランドで「備前長船日本刀展覧会」を開催した。「これほど大量の日本刀の海外持ち出しは例を見ない」と言われるほど大掛かりなもので、日本刀約30振と現代刀工約5振などの展示に加えて、刀工らによる刀づくりや手入れの実演や日本刀の歴史、武士道精神などの講演会も行った。作るところから使うところまでの体験づくりができるのは瀬戸内ならではなのかもしれない。
名古屋にも日本最大級の刀剣博物館が完成し、オープンが待たれている。そこには、東建コーポの左右田稔社長兼会長が40年以上に亘って集めてきた200点以上の日本刀や甲冑を展示してある。展示のほかには、和風のカフェでの飲食もできる。既に、インターネットでは数年前からバーチャル刀剣博物館「刀剣ワールド」の公開を始めていて、美術的に価値の高い日本刀や甲冑の知識や雑学を掲載し、マニアのファンを惹きつけているようだ。
京都市では、様々な人に刀剣文化の体験を広めている。場所は東映太秦映画村だ。オープンセットがあり、日本橋や呉服問屋など数十軒が並ぶ江戸の街並みが再現されている。本格的な殺陣も間近で見られるので、外国人にも大人気だ。映画「銀魂」でもセットとして使われたため、時代劇ファンだけでなく、若者にも人気のスポットとなっている。刀剣乱舞の女性ファンの心を掴むイベントも実施しているという。デジタルとの融合もあり、刀剣の文化を親しみやすいものに仕立てているようだ。
東京の墨田区にも刀剣博物館を見つけた。そこで、なんと「日本刀をみながら国際会議はいかが」というPRイベントを行って、在京大使館や海外商工会議所の担当者を招いたという。都が力を入れている美術館や庭園などで会議やパーティーを開く「ユニークベニュー」の取り組みの一環だ。会議やパーティに日本刀の展示ツアーや、和楽器とジャズのコラボレーションなどの新たな刺激を加えることで、創造性を高めてもらう。是非活用してみたい取り組みだ。
教育の場でも日本刀が活躍している。関西大学には日本刀研究会があり、「日本刀を見つめて心を鍛錬する鑑賞会」が開催されている。安全を確保し、貴重な刀剣を傷つけないようにするためには、集中力と確かな所作が必要だ。サビの原因となるつばの飛散を防ぐためのマスクも必須だという。心を落ち着け、刀身に見入り、儚い美しさを感じることができると、大変清々しい気持ちになるという。一度試してみたいと思う。
数年遡ると、この他にも日本刀の原料となる玉鋼の製鉄所の話、脱サラして刀鍛冶になった方の話など、刀剣づくりに関わる情報もたくさん出てきた。日本刀は歴史の産物と思っていたが、まだまだ日本人の生活の中で脈々と文化として育まれているのだ。これまで大事にしてきた文化は、保護するだけではなく、今生きる人が育むものだと気付かされる。デジタルとのコラボ、新旧のコラボ、別の芸術とのコラボなど、色々な挑戦で、能動的に文化を育んでいきたいと思った。