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音速を知らずに「マッハで行く」と言っていたあの頃

秒で向かう、秒で着替える――「秒で」という若者言葉はすっかり市民権を得ていますね。初めて聞いたとき、なるほど、いわゆる「マッハで」のことか。と思いました。

秒もマッハも「すぐに」「一瞬で」という意味。秒で行くは想像しやすいですがマッハで行くはちょっとイメージしづらいです。「足は見えないだろうな……」とか「筋肉量が……」とか本質的でないことばかり考えてしまいます。そもそもマッハとは何なのでしょう。

マッハとは
物理学者エルンスト・マッハ博士(Ernst Mach)が定義した速度の単位。
「マッハ1」は、ある空間を振動が伝播する速度、すなわち音速に等しい。
(出所)航空軍事用語辞典++

つまり音速のことですね。マッハ1(時速1224km)以上を出せるのは、今のところロケットや戦闘機に限られます。実現しているとはいえ、まだ普段使いには遠いです。実は近年、超音速旅客機の開発競争が盛んになっており、早ければ2021年にはテスト飛行する計画なのだそう。

日経電子版の連載「Disruption 断絶の先に」、シリーズ「時は金なり」の第3回は、音速に挑戦するスタートアップを取り上げています。

音速を超える旅客機。実は51年前の1969年、実際に空を飛んでいました。その名は「コンコルド」。騒音問題やオイルショックで開発は頓挫し、2003年に引退しました。それから時を経て米コロラド州のスタートアップ、ブームがいま開発しているのが「オーバーチュア」です。

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コンコルドとオーバーチュア、大きく異なるのは技術面です。組み立て中の写真を見るに、確かに軽そうな素材で作られているのが分かります。詳しくは日経電子版の記事をご覧ください。

一方で、コンコルドもオーバーチュアも目指す世界は変わりません。国と国がなるべく短い時間で結ばれること――至ってシンプルですが、世界をマッハで行き来できるメリットはたくさんあります。

・遠く離れた国家間の貿易が活発になる
・企業トップや国家首脳の対面頻度が増える
・移植用臓器がより広範囲に届けられる

頻繁な移動、長距離の往来を前提としている人や業界にとっては、恩恵が大きい変化といえそうです。

超音速移動は富を生む

記事を読んで「マッハで行く」のイメージが湧いてきました。具体的な価値は、すでに経済学的にも試算されているのだそう。

米ユタ州立大学のエリ・ドゥラード上席研究員は「超音速機がもたらす最大の効果は世界貿易にある」と指摘する。経済学では輸出国と輸入国の国内総生産(GDP)と、両国間の輸送にかかる時間と費用に基づいて、相互の貿易量を予測する「重力モデル」と呼ばれる理論がある。この超音速機を前提にこのモデルをはじくと「世界で毎年数兆ドルの新たな貿易量とGDPが生成される」という。(記事から引用)

GDPが増加する=国民が豊かになる と一概に言えない時代とはいえ、超音速サービスについて真面目な議論が進んでいること自体が実現可能性の高さを示しているのだろう、と期待せずにいられません。いつか「マッハで行く」は今より身近で、イメージしやすい言葉になるのでしょう。

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先端技術から生まれた新サービスが既存の枠組みを壊すディスラプション(創造的破壊)。従来の延長線上ではなく、不連続な変化が起きつつある現場を取材し、経済や社会、暮らしに及ぼす影響を探ります。

(日本経済新聞社デジタル編成ユニット 渡部加奈子