江原ニーナ
「メンタルヘルス」の現在地
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症やコロナワクチンについては、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

「メンタルヘルス」の現在地

江原ニーナ

今月のはじめ、世界的に活躍するテニスプレイヤーの大坂なおみさんが全仏オープンのシングルス2回戦の棄権を表明するとともに、自身が長らくうつの症状に悩まされていると明らかにした。彼女のツイートはまたたく間に拡散され、さまざまな反応が寄せられている。(もっとも、反響の多くはポジティブであったように見える。そう願いたい。)彼女のツイートのリプライ欄に寄せられた、あたたかくサポーティブなメッセージや、ゆっくり休んでね!といったコメントは、まるでそれらが私に向けられているかのような安心感をもたらしてくれた。

日本では、未だメンタルヘルスやうつへの理解が十分に広まっていないと感じる。今なお、個人の「心の弱さ」や「甘え」といった誤った理解に変換されている場面も多く、メンタルの不調を抱える人々に対してさらなる打ち明けづらさや生きにくさを生んでいることは言うまでもない。

私は、日本で生まれ育ち高校で米国に移っている。3ヶ月の高校生活と4年間の大学生活は日本で過ごしているが、日本において身近に鬱を公表している人はほとんど聞いたことがないし、知人らと話していても「鬱」に対して、誤解やネガティブなイメージが付与されていることを感じる機会が度々あった。こんな環境では、周囲に打ち明けるのさえ難しいだろう。

本記事では、前半で日本(特に若者)においてメンタルヘルスが深刻な問題になりつつあることを数字を追って確認し、後半ではアメリカで最重要課題になりつつあるZ世代とメンタルヘルスについて触れ、最後にCB InsightsのState of Healthcare Q1'21 ReportからのStatsやメガラウンドを実施したスタートアップを紹介する。また、明日公開予定の続編では、私自身のメンタル不調の経験と、大坂なおみさんをはじめとする同世代のリーダーたちがメンタルヘルスに言及することの可能性について探りたい。

日本におけるメンタルヘルスの現在地

今年1月徳島大学の山本哲也准教授(臨床心理学)らがオンラインでおよそ1万1千人を対象に実施した調査では、2020年春の緊急事態宣言の期間中、18%の人が治療の必要なうつ状態にあり、48%がストレスを感じていたという。また、同チームはさらなる調査の結果から18歳から29歳までの回答を分析した結果、気分が落ち込むなど「治療が必要な抑うつ状態」と推定された人の割合は22.8%と報告しており、メンタルヘルスはいよいよ避けて通れない社会問題として前景化しつつあると言えるだろう。

新型コロナウイルス蔓延による生活のドラスティックな変化や将来・健康への不安以外にも、要因はあるだろう。長く過酷な受験戦争や就活が大きなストレッサーとなっていることは容易に想像できるほか、地域や学校などによっては、流動性の低い人間関係や根強く残るジェンダー規範、ブラック校則がストレスになる場合や、ヤングケアラーであったり貧困にあったりして精神的な平穏を得ることが困難な場合も考えられる。

社会における鬱への教育・理解の不足や、誤って結び付けられているネガティブなイメージ(弱さ、甘え等)を踏まえると、実際は上記の調査で示された以上にメンタルに不調を抱える若者も多いのではないだろうか。

一方、アメリカのZ世代においてはどうだろうか。竹田ダニエル氏は自身の寄稿の中で、昨今のアメリカにおいて、Z世代におけるメンタルヘルスの問題が、メディアや企業、教育の現場など各所で重要なテーマになっていると指摘する。この点の詳細については、こちらの記事に詳しい。

Z世代とメンタルヘルスに関する議論はまだ社会的にはじまったばかりだが、とはいえこのように社会化されることの効用はある。例えば、先の記事は以下のポイントを指摘している。

「... Z世代の人たちがメンタルヘルスの状態がよくない、または非常に悪いと報告している割合が高いということは、彼らがメンタルヘルスの問題をより認識し、受け入れていることを示している可能性があります。彼らがメンタルヘルスの話題に対してオープンになることは、原因の如何に関わらず、ストレスの管理について議論を始める機会となります」(American Psychological Association最高経営責任者 アーサー・C・エバンス・ジュニア博士の発言。「改めて考える、Z世代 x メンタルヘルス」より)

===

世界中で起こるメンタルヘルススタートアップの台頭

さらに昨今、メンタルヘルス領域に取り組むサービスがアメリカを中心に世界で続々登場しており、COVID-19が追い風となり大きく成長したサービスも多い。

スクリーンショット 2021-06-29 9.01.06

(Forbes Venture Funding For Mental Health Startups Hits Record High As Anxiety, Depression Skyrocket より)

CB Insightsが発表した2021年Q1のレポートでは、メンタルヘルス領域のスタートアップについて、前Q(2020年Q4)と比較してもディール数は14%増加、資金調達総額にして54%増となる$852Mが同領域に流れ込んだと報告した。

スクリーンショット 2021-06-29 1.00.26

State Of Healthcare Q1’21 Report: Investment & Sector Trends To Watchより)

中でも、レポート内でfeatureされ注目を集めたのが次の3社である。

①従業員向けに遠隔でのメンタルヘルスケアサービスを提供するLyra Health。2021年1月に時価総額は$2.3BのシリーズEラウンドで$187Mを調達したのち、5月に時価総額$4.6BのシリーズFラウンドで$200Mを調達している

スクリーンショット 2021-06-29 1.11.39

②同じく従業員向けのメンタルヘルスアプリでありながら、主眼をその「予防」に置くModern Health2021年2月に時価総額$1.17BのシリーズDラウンドで$74Mの資金調達を実施。

スクリーンショット 2021-06-29 1.18.17

③MITからスピンアウトしたスタートアップで、オンデマンドでカウンセラーとの相談ができるginger。2021年3月に時価総額$1.1BのシリーズEラウンドで$100Mを調達したとアナウンス。

スクリーンショット 2021-06-29 1.23.06

他にも、メンタルヘルス領域は次々にサービスが立ち上がっている。日本でもまったく同じように進むかといえば懐疑的な一方で、このフィールドの中で求められる幅広いアプローチの一つに、スタートアップが入り込む余地もあるだろう。先にも述べたように、日本ではまだ理解不足が深刻なため、弱さや甘えといった誤解を正す「啓蒙」も一定必要だろうが、スマホネイティブ世代に向けてUI/UXを洗練させたり、新しいキャッチーなワードを発明してイメージから変えていったり、メンタルヘルスに関する正しい知識を誰もが得られるようにしたり、できることはたくさんあるように思える。

スクリーンショット 2021-06-29 1.26.13

State Of Healthcare Q1’21 Report: Investment & Sector Trends To Watchより)

次回の、noteでは、ここ数年間における私とメンタルヘルスとの戦い(と仲直り)のこれまでを初めて振り返ってみようと思っている。

〜余談〜 米国での高校生活で変化したメンタルヘルスへのイメージ

かくいう私も、高校時代をアメリカで過ごしたZ世代だ。月並みなエピソードだろうが、アメリカにいたころは友人が精神疾患を公表していたり、セラピーに昔から通っていたり、FacebookやInstagramでメンタルヘルスに関する話題がポストされるのは珍しくなかったし、高校にはメンタルヘルスの専門のカウンセラーがいた。(ちなみにそのカウンセラーは、私の在学時は私の高校に駐在しつつも地区全体を見ていたようだが、晴れて2019年には地区内のすべての高校に駐在のカウンセラーが配置されたそうだ🎉 もっとも、それだけこの領域を重要視しているコミュニティだったからこそ安心して周りに伝えることができていたのかもしれない。)

スクリーンショット 2021-06-29 0.18.29

(Facebookポストより)

友人が投稿するメンタルヘルスに関するポストにはいつも、カラフルに並んだハートの絵文字や、本人を応援・サポートする声が並んでいたこともあり、日本で生まれ育つ中で内面化していた鬱やメンタル不調へのネガティブなイメージは薄まっていった。問題を発見でき、解決に向けてサポートを受けながら頑張るのは(容易ではないけれど)良いことだし、リソースやアクセスが広がると良いなと感じるようになった。

ちなみに、実は私自身、中学時代いじめにあってカウンセリングに通っていたことがある。14歳そこらだった当時は、「腫れ物になっちゃったかなぁ」という不安や、「中学でうまくやっていけないなら、今後の人生どれだけ苦労して生きていかなきゃいけないんだろう」と中学生なりの絶望を抱えていた。カウンセリング自体は効果があり、その後回復したものの、カウンセリング=普通ではないもの、という線引きは残っていたのだ。それが、アメリカでの生活を通して、もはや当たり前過ぎて言語化すらされない「不調があれば、対処するために専門知に頼るのは当然」ともいうべき前提に払拭されたのは、今となっては、いい経験だったのかも?と思うこともある。



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
江原ニーナ

ワーイありがとうございます!

江原ニーナ
1997年熊本生まれ。ANRIでベンチャーキャピタリストとして主にtoCサービスや女性の起業家への投資に注力する傍ら、スタートアップ業界のジェンダーギャップ是正に向けてあれこれ活動しています。ダイバーシティ&インクルージョン、SDGs、テクノロジーと倫理