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おつかれさまですuni'que若宮です。

先日、日経ビジネスでこういう特集がありました。

かなりボリュームもあり力の入った企画だったのですが、僕も長い間企業内新規事業に携わり、かなり苦しみつつやりがいも感じてやってきたので、ちょっと思ったことを書きたいと思います。


新規事業に潜む危険

特集の冒頭にはこのようにあります。

既存事業の成長が鈍化する中、多くの企業が新規事業や新サービスの開発に力を入れている。だが、新しいことに取り組んだ結果、本業がおろそかになったり、顧客離れが起きたりするケースも少なくない。自社の事業の性質と適合しない流行の新サービスに手を出す。存在しないシナジー効果を求めて、M&Aに乗り出す。新機軸を打ち出す上で必要以上に過去を否定する。新しいことはあくまで会社を成長させる「手段」であるはず。それが「目的」になってしまった会社の迷走パターンをまとめた。

まず、これは完全に同意です。特に「顧客離れ」や「自社の事業の性質と適合しない流行の新サービスに手を出す」というあたり、めっちゃやりがちです。


以前、COMEMOでも連載したのですが、企業の新規事業というのは起業とはちがうので、本来企業の新規事業は、その会社のミッションやコアバリューに沿った、その会社のコアバリューを活かし強化するものでなければなりません。

僕のコアバリューメソッドでは良いコアバリューの三要件として

1.ユニークであること
2.浸透すること
3.やらないことを決めること

の3つをあげています。1.のユニークさ、というのはほかでもないその企業”だからこそ”その事業ができる、という価値の唯一性なのですが、これがおざなりにされたままに、流行の技術に振り回されて得意でもないブロックチェーンに飛びついたりします。結果、みんな同じようなところを狙ってレッドオーシャン化するか、そもそも自社がNo.1になれることをしていないので、他社との競争では勝てない。


とはいえ、新規事業というものは9割失敗するのが常なので、それでもチャレンジとして意味があると思います。やばいのは3.に抵触してしまうケースです。たとえば、スターバックスが立ち食い蕎麦の事業を始めたりしたら、企業全体のブランドを毀損し、既存事業や既存顧客さえ失うことになりかねないでしょう。


でも新規って大事やで。

こちらの記事ではまず「三越伊勢丹ホールディングス」の事例が出されます。

三越伊勢丹ホールディングス(HD)が“最悪の状態”を脱しつつある。2018年3月期には構造改革に伴う特別損失の計上などで8期ぶりの最終赤字に陥った。が、19年3月期は134億円の最終黒字まで回復。本業のもうけを示す営業利益も前期比19.7%増の292億円となった。地方では相変わらず苦戦が続くなど課題は残るものの、反撃の体制は整いつつある。
復調の要因は、伊勢丹新宿本店など都心の旗艦3店舗の好調とされるが、それだけではない。経営に悪影響が出るまで新規事業や新サービスばかりやり続ける──。そんな“新しいことやらなきゃ症候群”を2年前に早期発見し“治療”したことも大きい。

先ほど述べたとおり、安易に「新規」をやればいいというものではない、というのは僕も同意ですが、この記事を読んで「新規が悪」であるかのような印象をもってしまうといけないと思います。三越伊勢丹のケースも利益ベースで「回復」と言われているのですが、新規事業をやるなら投資先行するのは当たり前なので「新規をやったら業績が下がった。やめて戻った」というのはストーリーとしてあまりに短絡的ではないでしょうか。

なんとなれば、企業や市場の状況は刻々と変わり続けています。百貨店のように差別化が難しくかつECの脅威にさらされている業界では、やはり新しいチャレンジを推奨することは前提としては間違っていないと思います。新しいことを「リストラ」すれば血は止まりますが、中長期的には穏やかな死に向かうことになるでしょう。(ちなみに、僕は企業のあり方として死に向かって衰退的に成長する、というのは悪いことではないと考えています。この辺はまたいつか書きます)


問題は、「新規」をやることではなく、何のために新規をやるのか、という事業ミッションが定まっていないことの方だと考えます。売上増のため、利益増のため、ユーザー増のため、採用広報のため、ブランディングのため、経営者育成のため。「新規」と一言でいっても事業には実はいろいろな目的があります。これを整理せずに、「利益が落ちた」という評価しかしないのであれば、既存事業の方が効率的になるのは自明です。なんとなれば「事業の年齢」が違うからです。3歳の男の子と50歳の男性を年収や経済的安定性で比べても意味がないのです。

もちろん、まだ3歳くらいの手がかかる事業をやっているのにあれもこれも手を出してはいけません。しかし、特に既存事業が65歳に差し掛かっている企業では、新規をしなければ緩やかに死んでいくだけ、というのはそのとおりです。その危機感から「新規」をはじめたはずなのに、半年もたたないうちに新規担当を「失敗」といったり「金食い虫」といったりする。これでは組織に保守的な空気を蔓延させ、既存事業やってる人を尊大化させ、新規に関わった優秀な若手を転職させるだけです。何のために新規事業をはじめるのか、利益だけでなくその目的に適った評価指標をきちんとできることが重要だと考えます。


「失敗」を一般論で片付けない。

次の回では、いろいろな企業の「失敗」事例をあげているのですが、僕は一番違和感があったのがこの回です。

シェアリング、サブスクなど流行モノに安易にとびつくな、と言うのはそのとおりです。ただ、その後の事例をみると「やよい軒がごはんおかわり無料をやめた」とか「太陽光発電の企業が苦戦している」とか果ては「フーターズが日本撤退した」とかそれ既存事業やん、というようなケースだったり「官業開放は上手くいかない」とかそれはもう全く違う分析をするべきものも例にあがっていて、混乱を招いてしまっています。

この回はなんとなく「新規は失敗する」という命題ありきで失敗事例を集め、「だから新規は」という総論に意図的に誘導している印象を受けます。


そもそも前述したように、新規事業というのは、たとえ同じような事業でも、その企業によって価値が異なるものです。AOKIのサブスクもそうですが、コア事業での経営状態が変わったり色々な理由を元に撤退が判断されます。それを一言で「失敗」のように語るのはミスリードではないでしょうか。

撤退の事例を数を集めて一般論化してしまうのではなく、「なぜそのときにその撤退の経営判断をしたか」というその企業”ならでは”の事情まで踏み込んで丁寧に振り返ってこそ前向きな学びが得られると思います。


組織設計はめっちゃ大事

3回目は組織のお話になっています。僕はよく「プロダクトと組織は表裏一体である」と言っているのですが、新しい事業を起こすのであれば、既存事業とはちがう組織体の設計が必要であるということには同意です。

兼業を廃止して専門部隊を組織し、経営サイドがバックアップすれば、新規事業の担当者の逃げ道もなくなる。その結果、流行に左右されず本気で事業のネタを探すようになるし、既存事業とのシナジーがあるか本気で考えるようになるはずだ。本業を潰してでもやり抜く。そんな覚悟があって初めて、企業は新しいことに魂を吹き込める。

ただ、結論がやはり短絡的な気がします。「本気でやれ、本業つぶしてでも!」というのは最初に言っていた「新規で本業悪化させてどないすんじゃい!」とは間逆の意見で、読む人をダブルバインドの状態に陥らせます。

兼務より専任がよい、というのはおおむね同意ですが、やはり「新規事業」という言葉で十把一からげにしているのが、この記事の問題ではと思います。

「新規」という同じ言葉で語られても、まだ市場すらない本当の0⇒1型「新規」なのか、すでに市場はできているところへの「新規」参入なのか、あるいはコア事業をレバレッジする「新規」施策なのか、など、さまざまな「新規」があり、それに応じて、既存事業と縁を切ったほうがいいのか、アセットが使えるよう既存事業の権力者を入れたほうがいいのか、既存事業の事業部内で検討したほうがいいのか、事業のあり方に合わせて組織は設計されるべきだと考えます。


まとめ:「新規」が悪いわけじゃない

さて、僕の意見はまとめるとこうです。

1. 「新規」が問題なのではなく、なんのために新規をやるのか、を定義してないことが問題
2. 他社の撤退を「失敗」と片付けても意味はない。丁寧にそこから何を読み取り参考にするかが大事
3.「新規」と一言でいっても実は事業のあり方がぜんぜん違う。組織も「新規」全てへの共通解はなく、特殊解が必要

たしかに新規事業は決して簡単な道ではありません。しかしやはり新規へのチャレンジを続けることは今の日本にはとても重要なことだと思いますし、それに「失敗」という烙印を押してしまうと、risk-avertな保守的な文化から抜け出すことはできません。

簡単ではない、だからこそ「新規」を続けるべきであり、上手くいかないことからは前向きに知見を共有しあっていくことが重要なのではないでしょうか。

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