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短時間正社員制度を活用した2重就職の働き方

これまでのサラリーマン社会では、2つの会社と雇用関係を結ぶ「2重就職」は不適切な行為として扱われてきた。それは法律で禁止されたルールではなく、利益相反の観点から、会社が就業規則の中で独自に定めたものである。しかし、働き方改革が進む中では、2重就職を容認する風潮が高まってきている。これは、人件費を削減したい企業側の思惑ともリンクしている。

年齢階層別にみると、日本の大企業は、50代以降の社員に最も高い給料を払っているが、彼らが若手社員よりも高いパフォーマンスを上げているとは限らない。 さらに、定年が延長される中では、総人件費を抑えながら雇用を維持できるように、賃金体系を見直していく必要がある。

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多くの大企業では、55歳前後で役職から外されて年収は下落傾向となり、やり甲斐の少ない仕事で定年までを待つことが既定路線になっている。それでも、出勤は毎日しなくてはいけないため、会社にとっても社員側にとっても、有効な時間と人件費の使い方とは言い難い。

そこで新たな就業制度として注目されているのが、短時間正社員制度の仕組みだ。 これは、社会保険が適用される正社員の立場は維持したままで、週5日(週40時間)のフルタイム勤務から、週4日や3日の勤務に移行することで、他の日は副業や自己啓発に使うことを容認するものだ。厚生労働省でも、導入マニュアルを作成して、短時間正社員制度の普及を推進している。

短時間正社員制度の導入マニュアル(厚生労働省)

柔軟で多様な働き方を選べるようにする動きが金融機関で広がってきた。みずほフィナンシャルグループは希望すれば週休3日や4日で働ける制度を12月にも導入する。資格の取得や専門知識を深める時間に充て、それぞれの業務とセカンドキャリアの充実につなげてもらう。あいおいニッセイ同和損害保険では週1日だけの出社を認める制度を今月から始めた。(日経新聞2020/10/7)

短時間正社員は、フルタイム社員と同等の条件で賃金も計算されることが法律で定められている。たとえば、フルタイム(週40時間労働)の基本給が月額30万円の社員が、本人の希望により週4日勤務(週32時間)になった場合には、フルタイムの8割で月額24万円になる。これは、時間単価でみると同等の扱いだ。

実収入では、2割の基本給ダウンとなるが、成果報酬のオプションも加えることにより、仕事の実績によってはフルタイムと同等か、それ以上の収入が稼げるようにすることも可能だ。会社側では、短時間勤務+成果報酬により、社員の仕事に対するモチベーションは下げずに、基本給ベースの固定費を下げることができる。

《短時間正社員の賃金体系》
○フルタイム(週40時間労働)の基本給……月収30万円

○週4日勤務(週32時間)=基本給30万円×80%+成果報酬
○週3日勤務(週24時間)=基本給30万円×60%+成果報酬

もともと、短時間正社員制度は、育児中の女性社員向けに考案されたものだが、最近では、資格取得の勉強時間が欲しい中堅社員や、働き詰めの生活を見直したい中高年社員向けにも活用されるようになっている。

日本IBMでは、育児中の社員に限らず、全社員を対象とした「短時間勤務制度」を2004年から実施しており、勤務日数を減らした週3勤務や週4勤務、1日の勤務時間を6時間に抑えた時短勤務など、複数の就業パターンを用意している。

【サラリーマンの2重就職は可能なのか?】

週休3日または4日の時短勤務ができると、出勤日以外では自由に使える時間が増える。この時間を活用してフリーランスの仕事を行ったり、異なる会社との間で、もう一つの雇用契約をする2重就職の可否については、過去の裁判でも争われているが、規定の労働時間以外の時間の使い方については、原則として労働者の自由という判例が出ている。

裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基
本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許され
るのは、労務提供上の支障となる場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名
誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企
業の利益を害する場合と考えられる。(厚生労働省)

副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省)

サラリーマンの定年が65歳、70歳まで延長されるようになると、企業は中高年の社員に従来通りの給料は払い続けることが難しくなる。そこで役職から外して、基本給を下げていくのが通例だが、この方式では働く側のモチベーションは下がってしまう。それならば、時間単価でみた賃金は下げずに週休3日、4日制を選択できるようにして、それ以外の日は、利益相反が無い範囲で、別の会社にも所属できるようにすること(2重就職)は、企業と社員の双方にとってメリットがあるのではないか。そう考える企業が増えてくることも不思議ではない。

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