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みんなの想う「ありたい未来」

10年前、シェア争いに組みしていたと思う。経営コンサルタントとして現場の第一線でプロジェクトを推進していた時だ。もちろん、市場の成長も「期待」していたが、振り返ると「シェア増大」により一層注力していた気がする。つまり勝ち負けの世界だ。「シェアNo.1」が一つの称号のように感じていた。

#日経COMEMO #やさしい時間

当時、もちろん顧客を思う時間、チームメンバーを思う時間は間違いなくあった。でも、未来のあるべき社会の姿を思う時間はあまりなかったように思う。「需要創造」ではなく、「シェア奪取」の世界観が大半を占め、プロジェクトで自ら関わる限定的な人たちへの「やさしい時間」になっていた。(チームメンバーは厳しさ故に、「やさしい」とは全く感じてはいなかったかもしれないが・・・。)

何処か違和感があった。懸命に頭を使って考え出したとしても、勝ち負けのために働いていると・・・。一方で、上手くできているという感覚もあった。例えば、自動車小売店の改革であれば、店長、営業マネージャー、営業、受付、整備などなど様々な職種がある。お客様に満足してもらいつつ、店舗内のすべての人たちと共存共栄にすべく、それぞれの人を思う時間を持ち、知恵を巡らせた。ここには、勝ち負けの思想はなかった。でも、プロジェクト全体の成果は勝ち負けだった。

その後の10年で自分の考え方がどんどん変わっていった。経営コンサルティングの会社の社長になり、進むべき道を示す立場になったこともある。1月11日付の春秋では、「世界との距離を縮めるはずの先端の機器(インターネットやスマホ)が、逆に文化や考え方の違いを際立たせ、分断をあおるようになっている。地球規模での経済の発展は、一部で貧しさや格差をもたらした」とあるが、このまま対立構造や格差を絶対に続けてはならないとずっと感じてきた。「より大きな単位での共存共栄」を生み出したいという思いがどんどん強くなっていった。

勝ち負けのない世界にこだわるために必要だったのは、需要創出だった。つまり、新しい価値を世の中に生み出すことだ。少し言い過ぎだが、既存商品・サービスのシェアを増やす必要のない世界。場合によっては、少しずつ落としても良い。通常、新たしい価値がないから既存の価値のシェアにしがみつく。既存既存商品・サービスの成熟を待たずに、新たなものを仕掛けて、そこで収益を生む。これが答えだと直感した。頭の中のモヤモヤが晴れていった。

ただ、問題もあった。新しいものはそんなに簡単にできるものではない。調査能力に長けたコンサルタントでも同様だ。そこで始めたのが価値創造の仲間作りだ。まさに、これはソフィアバンク代表の藤沢久美さんが言われている「副業だらけで価値創造」だ。藤沢さんは「(すべての副業で)共通しているのが新しい価値観や動きをつくること。そして、色々な業種、違うコミュニティーをくっつけること。そのための大きな風呂敷をどう描くかばかりを担当しています。後は、ちゃんとお金が集まると最初に見せる。みんな自信がなくて動かないから、私が最初に「ほら、集められるでしょ」って。そんな切り込み隊長みたいなこともしています」と話す。今となっては強い共感しかない。

この10年で突き詰めたい共存共栄の価値観を持つことで、仲間は社外からたくさん集まった。独特な得意技を持った仲間だ。それらを足し合わせたり、掛け合わせたりして、最初は小さかったが、顧客が新しい価値を生み出すことに貢献することができた。でも、顧客の中には悲観的な感覚を持った人もいた。「足元の収益を確保するのが最も大事、新しい価値への投資どころではない」と焦りをもっている人もいた。つまりは価値観が共有できていなかった。やりたいという意思へと昇華できていなかったのだ。

ISAKジャパンの小林りんさんは、「目の前にある悲観材料を取り除いたり、くぐっていったりしながら、その先にある未来が楽観できるものにできるかは悲観材料の目の前に立っている自分の意志にかかっているとおもいます」と話す。「そもそも自分は何にワクワクするのか、どんなことをやっていると寝るのも忘れてやってしまうのか。内向きの問いをすごく大事にして欲しいと思います。」と語る。意思のある楽観力を持てるような環境づくりが大事と常に感じていたが、この「ワクワク」はヒントになると感じた。

言葉の力も、環境づくりには大事だと感じている。フィッシャーマン・ジャパン代表 阿部勝太さんは、「かっこよく、稼げる水産業」という新しい世界観を掲げている。これは、毎朝3時、酷暑でも厳寒でも海に出る「なんてキツい仕事なんだ」、辛いだけで儲からない仕事という世界観の払拭だ。阿部さんの目標は、1つ目は、漁師に卸、鮮魚店、料理人など魚に関わる「フィッシャーマン」を2024年までに新規に千人育てること。2つ目は、水産業をもうかるかっこいい産業にすることだ。すでに全国の浜を巻き込み始めている。

私自身もファクトリーサイエンティスト協会という現場起点の工場IoTエンジニアの教育機関を2020年の4月に設立したが、この「ファクトリーサイエンティスト」とは、代表理事の大坪さんが、工場の現場の作業者に誇りとモチベーションを持って欲しくて名付けた名前だ。現在、作業着に付けられる真鍮削り出しのかっこいいバッチも作成中だ。早くバッチを付け、現場でモチベーション高く活動しているファクトリーサイエンティストを見にいきたい。

みんなのやりたいことは、「シェア争い」でなく、「需要創出」だと思う。意思を持ってやりたいことを続ける。みんなが「未来の切り開く活動」に意思もって進んでいく世界を作っていきたい。


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