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感性を刺激せよ!~没入できるファシリテーションのつくりかた~

 Potage代表取締役 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。ワークショップやアイデアソンハッカソン、ステージのファシリテーターとしての実績も多数です。

 ようやくという感じですが、12月に久々の長時間の対面の企業向けワークショップをファシリテーションしました。ここ1年半くらい、ほぼオンラインでファシリテーションしてきたので、なんだかもうその解放感にウキウキしながら進行していました。ひとつの場所に実際に集まって、顔をつきあわせた議論を促して、場の熱量を産み出すことが、こんな楽しかったなんてなあ……と進行しながら感慨深い気持ちになりました。 

 オンラインでのワークショップはそれはそれで楽しいし、いいアウトプットを出せるものの、どうしてもプロセス重視になりがちで、構成も理詰めになりがちです。これはもうプラットフォームとしての特性なので仕方ないのですが、久々の対面ワークショップは「空気を震わせて感性を刺激する」ことが、場にエンジンをかけていくファシリテーションにおいてここまで大きな力を与えていたのか!という新鮮な再発見を促してくれました。

 以前は当たり前にやっていたことでしたが、当たり前が当たり前でなくなった今だからこそ、あらためてリアルの場の持つ価値を整理して再言語化する必要があるなと感じ、今回は「感覚の刺激が生み出す没入感」とファシリテーションの関係性について記したいと思います。以下感覚の刺激を促す要素として「場所」「スライド」「音」「動き」「飲食」という形で整理しています。どうぞ最後までご笑覧下さい。

 ちなみにステージのモデレーション&ファシリテーションのいろはについてお伝えしている、約100名の卒業生を輩出したオンラインコミュニティ講座「THE MODERATORS & FACILITATORS」、次期は2月に開講予定です。この記事を読みつつご興味わいた方がいらっしゃいましたら、ぜひリンク先をチェックください…!

場所選び

 会場選びは、感性を刺激する場の雰囲気づくりに大きく影響します。普段使っている会議室よりは、新鮮な感覚でのぞめる場所の方が、ワークに集中できますし、ちょっと変わったロケーションを選ぶと、それだけで高揚感につながります。

 例えば、プロデュース&ファシリテーションをつとめた「茶ッカソン in 六本木・麻布」では、六本木ヒルズ森タワーの49階を会場に選びました。眺望がすばらしい会場に畳をしきつめて、座禅などもやりながらアイデアソンを行いました。雰囲気は素晴らしいものになりましたし、東京を一望できる朝からはじまり、プレゼンが終わるころには夜景が広がっているという、非日常空間でのワークは大変盛り上がりました。このように、日常から離れた解放感のある場は、それだけで素晴らしい空間演出として成立します。

 同じくプロデュース&ファシリテーションを担当した「NHKディレクソン」では、初回の会場に、渋谷のNHK放送センターのスタジオを選びました。普段は入ることのできない場所に、最低限のスタジオセットを持ち込み、後は会議机と椅子という簡素なものでしたが、それが却って場の高揚感につながりました。「スケルトン」と言いますが、ほとんど装飾がなく必要最低限の要素しか存在しない場所は、むしろ立ち入る人たちの創造力を喚起します。普段テレビ番組の撮影が行われているスタジオとなるとなおのことです。NHKディレクソン初回は高揚感に包まれ大盛会で終わり、その後のシリーズ化の決め手になりました。

この記事のように、日常から離れた研修空間を提供するビジネスも広がってくると思います!

スライド

 スライドは、進行のためのものであると同時に、場の空気を決める大事な視覚情報の1要素でもあります。参加者の属性にあわせながら、必要以上にあおらず、自然になじみのいいテイストで、いかに分かりやすく、伝わりやすくするかが大事になります。

 これは実際のワークショップで使っているスライドの例です。漫画の吹き出しを使って、文字数を極力減らし、一見して中身が伝わるようにしています。このようなデザインをほどこすと、ポップな感覚が参加者に伝わり、割と早い時間帯に参加者をリラックスすることにつながります。

 対象によってスライドのトーン&マナーは調整します。例えば外資系企業のマネジメント向けのワークショップでは、ビジネスプレゼンの要素を入れ込んで、その属性の人たちにとって分かりやすく伝わりやすい体裁に変換しています。

 進行パワーポイントを使う際は、ファシリテーターは常にスクリーンを背負ってしゃべり続けることになります。何を投影するかは、その場におけるファシリテーターのキャラクター設定にも大いに影響します。これを踏まえてデザインをほどこし、参加者によってなじみやすい場をつくることが大事なのです。

音(BGMとマイク)

 ファシリテーターの大事な仕事は「空気をつくること」だと思っているのですが(いいプロセスづくりにはいい空気づくりが前提として大事なのです)その空気づくりに大きく貢献してくれるのが「音」です。

 私は、ワークショップにおいて、BGMを積極的に使います。ビジネス研修でも、休憩時間や入り時間、個人ワークの時間に薄くBGMを流したりします。

 まず前提として、人は「無音」にストレスを感じる生き物です。学校のクラスで雑談をしていたら、突然何かの拍子にあたりが静まり返って、その後、静かになったことに対して笑いが起きた……こんな経験がありませんか?なんで笑いが静寂に対して起きるかというと、潜在的に沈黙に恐怖心を感じて、笑いというポジティブな反応をしてネガティブな空気を打ち消そうとするからです。複数名で話していて、沈黙が走ると「沈黙を打ち消すための発話が生まれる」のも同じ原理です。

 ワークショップの入り時間や休憩時間は放っておくと、会場が無音に包まれます。これは参加者にストレスを与えているのと同義なわけで、リラックスして待ってもらうためにBGMを流すことはとても有効なのです。

 ワークショップ中のBGMも同様に作用します。ディスカッションがつまったときに、何かしらの音が鳴っているかいないかで、グループの抱える沈黙へのストレスは大きく変わります。

 加えて意識したいのが、音楽のテンポやリズム感、グルーヴです。私の場合はですが、ワークショップ中や休憩時間中はソフトボッサややわらかめのハウスミュージックを流すことが多いです。ゆったりしていて、しかしゆったりしすぎず適切なテンポ感があり、耳障りがいい、というのがワーク中のBGM選びの要件です。普段仕事で使っているBGMと似た要件で選んでいます。

 そしてワークが佳境に入ってきた時間帯に、テンポをあげて、やや激しめの曲に変えていきます。先日のワークショップでは、石野卓球さんやcapsuleの音源を使いました。アイデアソンなどのエンタメ性強めのグループワークでは、ワーク時間残り10分のカウントダウンでケミカルブラザーズを投入して、〆切時間への緊迫感をあおって、会場のボルテージを急速に上げていきます。ワーク終了の合図と共にBGMを切って拍手をうながすと、得も言われぬ解放感に会場が包まれます。例外なく、会場の熱気は最後の10分でぐぐっと上がっています。プレゼンが終わったら振り返りの時間。ここではゆるめの音楽に戻して、頭をチルアウトモードに切り替えていきます。

 マイク使いも大事な「音」要素です。うるさすぎず、だけどしっかり届く声を会場に慣らすことは、それだけで会場の空気づくりに大きく影響します。ワーク中でも、全体へのコメントや残り時間アナウンスを、邪魔になりすぎないようにところどころマイクを通じて挟むことで、ディスカッションへの没入感はむしろ上がっていくのです。

 音はつきつめれば空気の振動です。空気が震えると、熱が上がってきます。そして音楽はテンポや種類で、その熱の上下をコントロールできるのです。

動き

 空気の振動という点でいうと「身体的な動きを与える」のも効果的です。アイスブレイクやチーム分けのときによくやるのが「数字カウントにあわせて歩いて下さい」というもの。カウントを止めたとき周りを見渡して、目があった人と簡単な会話をするというものです。緊張状態にある開始直後の会場の空気を温めて、発話に慣れてもらうという目的があります。ここで参加者の緊張感がほぐれ、会場の温度がほどよく上がります。ペアをまず組んでもらって、そこから別のペアを見つけてもらい、という形で進めれば、そのまま4人チームがランダムに生まれることになります。これも便利な方法です。

 あえて「起立して各テーブルをぐるぐる回る」的な動きが必要なワークを入れるのも効果的です。ワークショップは放っておくと、席に座ったままの人が出てきて、座ったままの人が多いグループはほぼ個人ワーク状態に陥ってしまうことがよくあります。立って、動いてもらうことで視点を変えて、話す対象を変えて、自分たちの思考をリフレッシュすることができます。

 「音」の項で書いた通り、会場の熱を上げるのに大事なのは「空気を震わせること」です。人の動きをつくることで空気が揺れ、その揺らぎが伝播し、会場が居心地のいい雰囲気へと変化していくのです。

飲食

 五感に訴えるという意味で言うと「食」は、視覚・嗅覚・味覚と同時に訴えることができて万能です。お弁当やケータリングを手配できると「食べながらチームで交流する」という時間もとれるのでお勧めです。ワークショップのテーマがその地域の活性化だとしたら、地域の特産品をみんなで食べても、テーマとつながっていいですよね。私の場合は、食品メーカーや飲料メーカーとのコラボがとても多いのもあって、積極的に、食べ物や飲み物を演出に組み込んでいます。

 もっとも、残念なことに、このコロナ禍で、この演出にはだいぶ制約が生まれました。ただ、「飲食しながらしゃべる」という形ではなくても、静かに同じものを飲んだり食べたりするだけで、場の一体感は生まれます。ちなみにこの一体感はオンラインの演出としてもとても有効な手段です。

五感を刺激して「人間らしさの発露」を促進する

 人は五感を駆使して生きていますが、今の時代は特に「視覚」「言語」に普段使っている感覚が偏重していると言われています。ネットメディアやSNSの隆盛が物語っていますが、見た目が刺激的で、欲求を刺激しやすい情報が拡散される傾向がありますし、世の中の傾向としては、できるだけ短い文章や言葉でロジカルに表現できるかがビジネスパーソンの間で重要視されています。著名人がSNSやニュースメディアや情報番組で世の動向について短いコメントでなんとなく的を射た風のことを述べ、そのわかりやすさに多くの人が「いいね」を押すという構造は、そんな時代を象徴している気がします。

 それはそれでいいと思うのですが、人間の感覚と言うのはもっと自由で、創造的であっていいというのが私の個人的な価値観です。普段、そういう限定された、シンプルな刺激重視のコミュニケーションに慣れてしまっているのだとしたら、ファシリテーターとしての仕事のひとつは、参加者の普段使わない感覚を触発して、日常生活の中では浮かばないような発想に導いたり、日常の中ではちょっとさぼりがちな、もっと深みある、本質を見つめなおした上での言語化に導いたりすることではないかと思うのです。

 ファシリテートは、もともと「促進する」という意味ですが、何を促進するかというと、人間を人間たらしめている「感性」だと思うんですよね。

 やわらかに情報を受け取り、ゆっくり咀嚼し、周りの刺激を適切なガイドの元えながら、自身のものの見方をアップデートしていく。そして周りと協調していく。そんな人間像が今後、より世の中には求められると思いますし、そんな体験を「楽しい!」と思ってくれる人を増やすことも、ファシリテーターとして大事な仕事だと思っています。

 そのためには「感覚を解放していく」ような「右脳の使い方」を提案していったほうがいいなあと思いますし、視覚だけではなく聴覚や触覚、あるいは第六感のようなものも含めて適切に刺激できるような、そんな場づくりを引き続き心がけていければなと思っています。

こちらの記事は「ファシリテーターAdvent Calendar2021」の2021/12/18記事として執筆いたしました。今年も、筆不精の自分に、ファシリテーションについて書く機会を与えて下さってありがとうございます。


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