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COVID-19がテレワークに及ぼした影響は、「導入率」ではなく「運用率」?

COVID-19でも普及しないテレワーク

COVID-19の流行によって、テレワークによる在宅勤務の話題をニュースなどのメディアで目にしない日はない。Amazonや楽天などのネット通販サイトでは、テレワークのためのWEBカメラやマイクは品薄状態となり、テレワーク特需も起きている。

しかし、注目を集めているほど、企業がテレワークの導入に前向きかというとそうでもない。複数の民間企業の調査が公開されているが、その結果は一部の大企業だけで導入が進んでおり、限定的な運用にとどまっていると示している。

パーソル研究所が実施した、20~59歳の全国の就業者2万5769人対象とした調査では、テレワークの実施率は27%である。テレワークについて「会社から特に案内がない」として、通常通り出勤している回答者が53%と過半数を占めている。

同様の結果は、LINEによる調査でも示されている。LINEリサーチは、会社員と公務員4772人を対象としてアンケート調査をしている。その結果、回答者全体での実施率は35%であり、企業規模とほぼ正比例の関係にある。全体平均と比べた時の分水嶺は、企業規模500人以上あるかないかだ。

オンライン調査は、その性質上、どうしてもインターネットと親和性の高い人が回答するバイアスが存在する。そのため、インターネットと親和性の低い人々が一定数いることを考慮すると、実態としては提示されている数値より少なめに見積もる必要があるだろう。


COVID-19でテレワーク普及の実感と統計の乖離

30%前後のテレワーク実施率というのは、過去のテレワークの導入率の推移からすると、飛躍的に伸びたと判断するのが難しいだろう。調査方法や実施期間が異なるために単純比較は難しいが、参考値として総務省「テレワークの導入やその効果に関する調査結果」と照らし合わせてみてみたい。

総務省の調査では、2016年のテレワーク導入は13.3%、2017年が全国平均13.9%、2018年で全国平均19.1%と増加傾向にあったことがわかる。2017年から2018年の伸びが5.2%であり、2019年も同程度の伸びを見せたと仮定すると、2018年からの2年間で10.9%増えて30%前後の数値となったとしても驚きではない。

また、企業規模別にテレワークの導入状況についてまとめたのが下表だ。表を見てみると、対前年比の増減率が急激に増えている層はなく、テレワークの導入はCOVID-19とは関係なく堅実に浸透している様子が読み取れる。企業規模が「500人~1000人」と「2000人以上」に至っては、2017年から2018年の増加率のほうが、2018年から2020年の年平均増加率よりも高い。

企業規模別テレワーク

これらの数値は、実感としてのテレワーク導入と統計としてのテレワーク導入に乖離があることを示している。テレワークで在宅勤務する人が増え、通勤電車の利用者が減っているという事実に対して、テレワーク導入企業の状況の数値が合っていない。


COVID-19がテレワークに及ぼした影響

テレワークに関する実感と統計数値の齟齬はどのように解釈すべきだろうか。このことを考察すると、以下の2つの仮説が立てられる。

①テレワークを制度として導入しているが、十分に運用されていなかった企業で、全社員を対象に運用されることになった

②テレワーク導入は限定職種・部署だけだったものを全社員対象に拡充させた

テレワークを導入したものの、うまく運用できていないという課題は「働き方改革」がホットトピックとなり始めた2015年頃から指摘され続けてきた。働き方改革の運用のためには、テレワークを前提とした業務プロセスの見直しと改善が求められる。しかし、業務プロセスの改革まで着手せずに運用をしようとして、現場を混乱させるだけとなった企業は数多い。その結果として、テレワークはできるところだけでやろうという流れができてしまい、限定的な運用にとどまった。

リクルートワークス研究所は、このような現状に対して、2018年、『出直しの働き方改革』と題した特集号を出している。

テレワークをうまく機能されるためには、業務の進め方や協業の仕方、コミュニケーションの取り方といった日常業務の当たり前を、すべての従業員が変えなくてはならない。併せて、管理職もマネジメントの方法をテレワークに向けて変える必要が出てくる。これまで、当たり前だと思っていたことが当たり前ではなくなり、従来のやり方が通用しなくなる。

このような変革に適応できるところから、徐々にテレワークを拡げていこう、社内での成功体験を積み重ねて、横展開していこうという企業が多かった。しかし、その目算がCOVID-19によって瓦解する。

結果として、限定的な運用に制限していた企業や、制度として導入していたが運用されていなかった企業は否応なく、テレワークありきの働き方改革を全社員一丸となって取り組まなくならなくなった。

現状としてはこのようなストーリーが考えられる。そして、テレワークで試行錯誤を繰り返しているうちに、「実はオフィスはいらないのではないか」という現場や企業が出てきている。

テレワークを使いこなすようになってくると、労働生産性が高まることは、既にテレワークが浸透している欧米諸国の事例を見ると明らかだ。従業員の幸福度も上がるし、キャリアについて主体性を持ち、能力開発に自己投資するようになる。

さて、そのようにテレワークを使いこなす企業と、テレワークを使いこなせない企業が混在する世の中になったとき、どのような変化が生まれるのだろうか。このことについては、次回、考えてみたい。

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