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中国寄港船の検疫によるサプライチェーン停滞の影響度

 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に対する感染被害は世界で報じられているが、その影響は貨物船にも及んでいる。世界の港では中国に寄港した貨物船の検疫が強化されており、海洋貨物の大幅な遅延が起きている。各国の港湾当局は、新型コロナウイルスの感染対策として、外国籍の貨物船に対して乗組員全員の検査を行い、安易には下船や荷下ろしを許可しないためである。

シンガポールやオーストラリアでは国内すべての貿易港で、入港した船員の体温検査を行うことに加えて、過去14日以内に中国への渡航歴がある者の下船(入国)を認めていない。

そのため、中国の工場が稼働を再開した場合でも、海洋コンテナ輸送の行程で当面は荷物の遅延が生じることは避けられず、サプライチェーンの機能不全が起きる。太平洋ルートを横断する貨物船の中で、中国コンテナの割合は65%を占めているため、その影響は大きい。海上の物流が滞ることにより、メーカー企業は工場の一時停止や社員の自宅待機を指示することもあり得る。

国際的なサプライチェーンの物流では、貨物船による輸送が8割、航空便が2割となっており、海洋運送を避けて通ることはできない。しかし、これまでにも海運と港湾業務の情報化が遅れていたことをリスクと捉えた指摘はあった。

今後の海運業界では、世界で周航する貨物船の乗組員に対する健康管理が重要になり、感染の疑いがある者は乗船させないこと、寄港先でも感染者との接触を避けることが、船主や運送業者が膨大な損害を被らないためのリスク対策になる。

世界では貨物船に乗り込む船員が約120万人いるが、その大半はアジア新興国の労働者である。彼らにとって船員の仕事は、自国で働くよりも給与水準が高いことから人気あり、中でもフィリピン人の船員は、全体の3割を占めている。フィリピン国内には船員になるための専門学校が多数あり、豪華客船や貨物船に乗ることが、安定収入を得るためのエリート職になっている。

そのため、フィリピンを中心としたアジア諸国まで新型ウイルス感染が広がると、船員や湾港労働者の人手不足が起きる。また、中国は世界で最も船舶所有数が多いため、各国の検疫により、中国籍の貨物船が入港できなくなると、世界のサプライチェーンに与える影響も大きい。

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なお、これから中国の工場が操業を再開していく中で、サプライチェーン物流も復活していく流れは、医薬品や生活必需品など、人命に関わる物資ほど優先的に扱われ、それ以外の物品は遅延が長引くとみられている。

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