海外アニメ配信プラットフォームの課題とは?
ソニー傘下のクランチロールにより、日本のアニメが海外進出する体制が整いました。とはいえ、大型配信プラットフォームならではの課題も見えてきたように筆者は感じています。今回はそのあたりの筆者のモヤモヤを明らかにしてみようと思います。
クランチロールは日本国外(一部地域を除く)で視聴可能なアニメ専門の配信プラットフォームです。日本では利用できないため、知名度はまだ低いかもしれませんが、年間アワードの授賞式を日本で実施するなど、ジワジワと知られつつあるのではないでしょうか?
筆者はドイツ在住で、クランチロールの有料会員登録をしており、日常的にクランチロールで配信されるアニメを視聴しています。
まず、些細な問題点を挙げるとすれば、サーバーが脆弱なのか、アニメ試聴が集中する夜の時間帯では配信直後のエピソードがうまく表示されないことや、表示されてもドイツ語字幕が選べないといったことが稀に起きています。これは筆者の環境だけでなく、各話コメント欄を見るとユーザーによる指摘を見かけることがあります。
そして、筆者が感じるモヤモヤとはずばり、人気タイトルへの試聴の偏りです。人気作はどんどん視聴され人気を維持する一方で、マイナー作品はとことんマイナーで注目されることが難しいように感じています。
例えば、前シーズンとなる冬アニメでは、筆者は『スナックバス江』や『バーンブレイバーン』を楽しんでいましたが、ドイツではほとんど見られていないようでした。なぜ、それが分かるかというと、各話に設けられたコメント欄の存在です。両作ともにコメント数が非常に少なかったのです。クランチロールでは、視聴回数は表示されませんが、コメント欄に書き込まれたコメントの数で視聴者の多い/少ないはある程度見えてきます。ちなみに、「いいね」数も表示されていますが、こちらは世界共通のようでドイツでの注目度を推し量ることはできなそうです。コメント欄は各国語で異なっています。
クランチロールで「春アニメ」の配信タイトルのリストをチェックすると、ドイツ語字幕によるアニメが全部で54タイトルあります。仮に曜日毎に均等に配分した場合、毎日8本程度、新作アニメが配信される計算です。とても全部をチェックすることができません。実は、こういった事情が人気作への試聴の集中を招いているように感じています。アニメファンは面白さが約束された作品を見るのに忙しく、新たな作品を発掘する余裕はなさそうです。
もし、仮に世界に1300万人いるとされるクランチロールの有料会員からの料金収入の配分が視聴数、または視聴数に「いいね」やコメントを含めた指数に対して製作委員会に分配金が支払われているのだとすると、マイナー作品では儲けを出しにくい構造がありそうです。
もちろん、サイト上ではおすすめ作品がサジェストされたり、人気作以外の作品に誘導する仕組みはあります。しかし50タイトルを超えると、サジェストされる作品ですら一部にとどまり、「その他多く」が注目されることは稀なのかもしれません。クランチロールはこれまで、ドイツやフランスでラッピング仕様の路面電車を走らせたりと積極的に広告活動は行っていますが、『スパイファミリー』や『鬼滅の刃』といった有名作に限られます。
ちなみに、上述のコメント数ですが、ドイツ語圏では目安として、各話のコメント数が3桁を超えると、割と見られているのかなという印象です。
今期のアニメで、第1話のコメント数をチェックしてみたところ、『じいさんばあさん若返る』133件、『神は遊戯に飢えている。』130件、『無職転生』173件、『このすば』156件、『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』102件で、このあたりの作品が注目作だと思われます。『鬼滅の刃』の人気は破格の1227件でずば抜けています。例えば、筆者は今期、『となりの妖怪さん』が面白いと思って毎週見ていますが、1話のコメントは25件と低調です。
さて、ダラダラと書いてしまいました。アニメの海外展開は、実はまだスタートラインに立ったばかりなのではと思うようになりました。配信プラットフォームで合法的に試聴可能になった点はたしかに重要です。しかし、配信タイトルが大量化する今、どうすればマイナー作品が注目されるのか、工夫が求められているのかもしれません。それは、製作委員会がSNSを通じて、英語や他の言語で直接ファンに訴求するのも手かもしれませんし、海外のアニメイベントに参加して現地のファンに直接アピールするのも作品を知ってもらうきっかけ作りになりそうです。みなさんはどう思いますか?
タイトル画像:筆者宅のPCモニターに映るクランチロールのトップページ。筆者撮影。
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