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学び直しに必要な「掛け算」戦略 何から学べば良いかを決めるための視点

今日の日経新聞の一面に以下の記事が大きく掲載されていました。

日本は諸外国と比べても学び直しに取り組む人が少なく、また学び直しの少なさが労働生産性の低さにつながっているのではないか、という記事です。

私は「学び直しの方法論 社会人から大学院へ進学するには」という本を出版しています。また、これまで度々紹介している『デフレーミング戦略』においても、特に個人個人で働く場面が増えてくる中で、学び直しの重要性を強調してきましたので、大変興味深く読ませて頂きました。

その中で、「何を学べばいいのか考える余裕もない」という言葉が少し気になりました。ここでは考える余裕がない、という文脈で紹介されている言葉ですが、実際問題、何から手を付ければいいのか、何を学べばよいのか分からないという方もいらっしゃるのではないかと思います。

そこで、ここではあくまでも私の体験談として、どう学び直しのテーマを見つけ、実践していったかを簡単にお伝えできればと思っています。

ちなみに、私は新卒でIT企業に就職し、働きながら大学院で博士号を取ったのち、大学に移り、2つ目の大学が今の職場という経歴ですので、それを踏まえてお読みいただければ幸いです。

差別化戦略から生まれた学び直しの出発点

もともと大学の法学部政治学科を卒業してSEになったのですが、周りには名だたる工学系大学を卒業したプログラミングの猛者のような人たちがいました。そのような人たちと競争して勝てるとはとても思えませんでした。

その一方、私は法学部の出身であったにもかかわらず、法律のことは充分理解しているとは言えませんでした。

せめて法律の知識をもう少し身に付けていれば、法律×ITで何か独自色を出せるというか、他の人との差別化ができると思ったわけです。それで、最初にやったのが予備校に通って、行政書士の資格を取ることでした。

予備校の授業はめちゃくちゃ面白く、そこで聴く法律の考え方は刺激に満ちたものでした。また、試験に合格したときは、かなりの達成感があったような気がします。

すぐに法律のことが役に立ったわけではありませんでしたが、その後も法律や政治(私の学部時代の専攻は国際政治でした)の知識とITを掛け合わせて何かできないかと考えていました。

そんな時に、勤務先の社内公募で、情報技術を活用した市民参加プロジェクトの募集を目にしました。これこそまさに政治や法律とITを掛け合わせたものだと思い、応募して異動しました。そこから私の研究生活が始まります。

土台となる知識体系の転換

その後の大きな転機はアメリカ留学。IT×政策で研究を深めようと意気込んでいたのですが、当時、ITによって仕事が海外に移転する、いわゆるオフショア・アウトソーシングが進んでいく中、日本はどうなっていくのだろうという問題意識がありました。しかし、私が当時行っていた政策研究では、その問いに充分答えることができませんでした。

そこで、試行錯誤の末に、私は経済学を一から学び直すことにしました。アメリカの学部生が読むような経済学の教科書を、一から読むという、何とも地道な方法でした。

そして、帰国後に大学院に進学し、IT×経済を自分の専門として、博士号を取得します。これが今でも私の専門となっています。

掛け算戦略は1点支持で

つまり、今までやってきたこと(過去)と、これから必要なこと(未来)の掛け合わせを常に考えて、そのどちらかを学び直すという方法を採ってきたということになります。

・法律(過去)とIT(未来)を掛け合わせるため、行政書士の資格を取ることで前者を磨く。

・IT(過去)と経済学(未来)を掛け合わせるため、経済学を学び直すことで後者を身に付ける。

もちろん、全く今までの経歴とは関係ない知識を習得するのもありだとは思いますが、自分のプロフェッショナルなスキルとして活かしていくには、過去の蓄積と未来の必要性を掛け合わせるのが有効ではないかと思っています。

上記で紹介したのは、非常に大きな単位での捉え方ですが、もっとミクロな単位でも同じことが当てはまります。例えば研究で言えば、オフショア開発×計量経済学をやれば、次はクラウド×計量経済学、あるいはクラウド×シミュレーション分析、という具合に、片方を固定して、片方を新しくしていく方法です。

ビジネスパーソンであれば、スマホアプリ×決済をやったら、次はスマホアプリ×クーポン、あるいは決済×M2M、という具合に、専門性を拡げていくことができるでしょう。

登山に3点支持という原則(両手両足のうち1つしか動かさない)がありますが、同じような考え方で、片方の専門は残したまま、もう片方のみ動かす方法です。つまり、1点支持です。

いかがでしょうか。ここで紹介したのは、あくまでも私の体験談で、皆さんに当てはまるかどうかは分かりません。しかし、もし何から学び直せばよいのか手がかりが掴めない、という方がいらっしゃいましたら、何かの参考になれば幸いです。







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