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ビットコイン高騰の裏にある金融ビジネス変革トレンド

 仮想通貨を資産として考えることについては賛否両論があるが、コロナ禍では再びビットコインの取引相場が上昇している。

ビットコインといえば、2010年に世界で初めて開発された仮想通貨だが、2016年~2017年にかけては個人投資家からも注目されはじめて、1BTCあたり10万円がわずか1年で220万円にまで高騰した。その後は、大口投資家が利益確定に走ったことなどから30万円台にまで暴落していたが、2021年2月には490万円超の高値で取引されている。

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2020年以降のビットコイン相場が上昇している理由としては諸説あるが、大きく二つが考えられている。一つは株式市場が全面高の資産デフレが起きている中で、各国の金融規制から逃れた資産環流が起きていること。2つ目は、数年前よりも仮想通貨(暗号通貨)としての役割や利便性が高まり、実需が増えてきたことが挙げられている。

2020年11月頃から2021年にかけて、ビットコインが高騰する起爆剤となったのは、電子決済サービスの「PayPal(ペイパル)」が、ビットコイン、イーサリアム、ビットコインキャッシュ、ライトコインなどの暗号通貨を、PayPalデジタルウォレットの中で購入、保持、決済手段として使えるようにすると、2020年10月末に発表したこととみられている。

PayPalは、個人ユーザーと小規模事業者を合わせて世界で3億4000万件のアカウントを獲得しており、その中でビットコインなどの暗号通貨を商取引の決済に使えることのメリットは大きい。同社のプリスリリースによると、PayPalアカウントの保有者は、法定通貨と暗号通貨の口座を別々に持つことができ、取引先に送金する際には、暗号通貨からの法定通貨への両替が即座に行われる。取引先とは法定通貨の単位で取引ができるため、国際送金をする時にも、利便性は損なわずに、為替手数料を軽減することができる。

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この発表以降、ペイパル経由のビットコイン調達額は急速に伸びており、暗号通貨への投資を専門とする「Pantera Capital(パンテラキャピタル)」の投資家向けレポートによると、2020年11月以降は、新たに供給されるビットコインの7割をペイパルが購入している。さらに、ライバルの電子決済業者「Square」でも、自社アプリ「Cash App」の中でビットコイン売買をする目的で、ビットコインの調達に力を入れており、暗号通貨の売買マーケットでは「ビットコイン不足」の状態が起きている。

【ビットコイン決済のビジネスモデル】

 これまでビットコインの用途としては、投資目的で保有するか、ダークネットマーケットと呼ばれる闇市場の中で非合法の商品(違法ドラッグや武器など)を取引する決済手段として使われるのが主体だった。合法的な商取引の中では、やはり法定通貨と比べて仮想通貨の信頼性は低いため、積極的には活用されていないのが実態である。

しかし、PayPalが2020年11月から、ビットコイン、イーサリアム、ライトコイン、ビットコインキャッシュという4種類を取り扱う「PayPal Crypto」を開始したことから、状況が変化してきている。PayPalユーザーは、これらの仮想通貨を自由に購入することができ、PayPalに対応したECサイトの代金決済に利用することができる。

たとえば、個人ユーザーが100ドル分のビットコインを購入して、1週間後にECサイトの決済に使うと、ビットコインが値上がりしていれば買い物代金が実質的に安くなる。反対にビットコインが値下がりすれば損をするが、少額の保有であればリスクも低いためゲーム感覚でプチ投資が楽しめる。代金決済時には、PayPalが法定通貨に自動両替して送金されるため、EC業者側にとってのデメリットも無い。

PayPalがユーザーに販売する仮想通貨にはスプレッドが含まれており、仮想通貨マーケットから調達する買値と、ユーザーに提示する売値との差額を利益としている。同じ仕組みのビジネスは、Squareの個人送金アプリ「Cash App」の中でも2018年から行われており、個人ユーザーはビットコインで購入した資金を値上がり後に売却したり、友人や家族に送金することができる。

Squareの業績発表によると、2020年第3四半期にはCash Appによるビットコインの売上高が16億3000万ドルに対して、利益は3200万ドルとなっている。つまり、Squareは個人ユーザーにビットコインを販売することで約2%の粗利益を得ていることになる。

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PayPalやSquareが手掛けるビジネスが、他の取引所と異なるのは、仮想通貨の取り扱いを簡単にして、これまでビットコインなどに関心の無かった消費者を新たな顧客層として取り込んでいる点にある。これからの電子決済業者は、一つのスマホアプリの中で、電子マネー、預金口座、仮想通貨、株式や投資信託など、多種類の資産を管理することを目指している。その中で、仮想通貨の販売は魅力的な収益源に成長してきている。

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