見出し画像

なぜプロの株価予想が似ることがあるのか?〜同質行動と経済学〜

みなさま、こんばんは!
エコノミストの崔真淑(さいますみ)です。
今回は、日々の放送業務でも解説させて頂いている株式市場予想巡る考えを記載していきます。写真は、日経CNBCでもお世話になっている元芸人で億り人でもある井村さんの番組に出演させて頂いた時のものです。この時は株大喜利で、お題と共に当該企業株は何をしたら株価はあがるかのアイデアを発表する企画でした。で、その時に面白かったのがアイデアは人ぞれぞれで奇想天外だったんです!

*株価予想を巡る素朴な疑問

でも、ふと思ったのです‥。株価を巡るストーリーアイデアは多種多様なのに、なぜプロアナリストやストラテジストの株価予想が非常に似る現象がたまに起きることがあるんだろう‥と。忘れた人もいるかもしれませんが、昨年の年初はいろんな証券会社で日経平均3万円予想が連発されていたんです!このような現象を経済学の視点で説明してくれているヒントになる論文を、今回は紹介していきます!

*プロだからこそ抱えるジレンマ!?

参考にした論文は下記です!

Scharfstein, D. S. and Stein,J, C,, 1990, "Herd Behavior and Investment," AmericanEconomic Review, 80:465-479,

ポイントをあげると下記の3つを挙げたいです。

・有能なアナリストが有益な投資情報を保有していても、それを無視して他アナリストを真似をすることがある
・それは、労働市場のReputation(評判)リスクを恐れて真似=横並び予想が合理的になるために起こる
・投資情報を参考にする際は、横並び行動が起きてないかを要確認!

 投資をする際、アナリストや有識者の株価予想を参考にすることは少なくないと思います。そうしたアナリストの中には、的中率が非常に高い方もいれば、そうでない方もいらっしゃるでしょう。
 自身も投資銀行でアナリストをしている頃は株価予想を行い、日経平均株価予想も行っておりました。その経験で感じたのは、「外したら怖いな…」という恐怖心です。では、怖いと思うと、何が起き
るでしょうか?
 あくまで自身の経験ですが、有名アナリストと近い予想をだしておけばいいさ!という誘因です。あくまで自身の経験ではありますよ!!周りの優秀なアナリストの方はしてないと思います。ただ、いくつかの研究で、エコノミストの経済予想やアナリストの株価予想が予想中央値に収斂する様が日米で報告されています。もしかすると、自身のように外すのが怖くて、他者と似たような予想を出すアナリストは少なくないのかも!?では、もう少し突っ込んで、なぜ「外したら怖いな…」と感じるのでしょうか?

*予想を外すことで起きるリスクとは?

この問へのヒントとして上述論文「Herd Behavior and Investment(横並び行動と投資)」を紹介します。投資担当者やアナリストがどれだけ有能でも100%結果をだせるわけではありませんし、100%良い情報ばかりを手にできるわけではありません。そのため、労働市場、会社の評価、上司の評価は、その投資担当者やアナリストの能力だけで決まらず、他者との行動の類似性によって評価されると指摘しています。ざっくりと言ってしまえば、労働市場も会社も上司も、投資担当者やアナリストへの評価に非常に迷うことがあるので、他投資担当者や他アナリストとの比較で決めようとすると。なので投資担当者やアナリストは、みんなと同じような投資判断や予測を出しておけば、もしも大外ししたとしても、他の人も外しているし、しかたないよね!ということでお咎めが小さくすむだろうと…。結果、Reputationリスクを回避できることから自分の評価を大きく下げることはないというのです。そのため、投資担当者やアナリストが、他者を真似することが合理的になることがあると理論モデルから指摘しています。

たまに日経平均が上昇しだすと、一斉にアゲアゲ株価予想がでたり、下がりだしたらサゲサゲ株価予想が連鎖することがあります。これは、純粋にアナリストの能力や手に入れた情報だけに基づいて発信されているのでなく、もしものためのReputationリスクを回避したいからかもしれません。日経平均3万円予想がラッシュのように出たのも、上記の背景があるかもしれませね。

*経済学の考え方を応用すると…

もう少し詳しく論文内容を書くと…経済学の理論では、投資の意思決定を行う時は、その投資担当者は結果を合理的に予想し、それに基づいて投資をすると考えられています。
例えば、ある企業の投資担当者がこれは非常に業績が伸びそうだと、収益率のプラスが期待できると考える情報が手に入れば、その企業への投資を決定するでしょう。でも、投資担当者は手に入れた有益情報だけでなく、Reputationリスクを回避したいがために、横並び行動が起きるとしています。これをベイズの定理を用いながら上述論文は指摘しています。

ここでは他社の投資担当者の行動を観察することができ、投資に対してどのような情報を得たのかを類推することができることが前提となっています。自分がイマイチと考えている案件も、他社の投資担当者が投資をしている姿をみたとします。その場合、自分が考える事前確率(自分の中で抱いているその投資案件の確からしさ)を変化させることで意思決定を下すことがあり、自分が有益なだと考える情報だけで投資の意思決定をしないことがあるとも報告しています。

上述の話は、単に株価予想だけどなく、何か意見をいう時に自分を含め、あらゆる人に関係する意思決定のバイアスでもあると思います。自分の意見は、本当に自分の意見なのか‥改めて自分も日々を反省しつつ過ごしてみたいと思います!


今日も読んで頂きありがとうございます!
応援ありがとうございます!
崔真淑(さいますみ)


いいなと思ったら応援しよう!

崔 真淑/エコノミスト(MBA in Finance)
コラムは基本は無料開示しておりますが、皆様からのサポートは、コラムのベースになるデータ購入コストに充てております。ご支援に感謝です!