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日経・経済教室「財政赤字拡大容認論を問う」に対する雑感③

日経・経済教室「財政赤字拡大容認論を問う」に対する雑感② の続きです。

次のコメントは③で、実際の論考は以下になります。執筆者は、植田健一・東京大学准教授で、元財務省の行政官です。

この論考のうち、重要なものは以下の部分になります。

債務危機から抜け出す際のゴールは何か。まずは債務の国内総生産(GDP)比率を安定させることだ。国際通貨基金(IMF)によれば、日本の債務は持続可能でない。一時的に消費税率引き上げの効果が数年続くが、さらに手を打たなければスパイラル的に膨れ上がる(図参照)。この状況は早急に脱せねばならない。中長期的な目標は、安定化した債務GDP比を国際的なベンチマークの60%以下(EUの基準でありIMFが各国に推奨する水準)に抑えることだ。

この指摘は妥当なものですが、債務残高GDP比を60%に低下させるために必要な財政再建の努力はどの程度のものでしょうか。それは、日経・経済教室「財政赤字拡大容認論を問う」に対する雑感① で説明した以下の式から把握できます。

今期の債務残高GDP比 = 財政赤字(対GDP)+(1-名目成長率)×前期の債務残高GDP比      (1式)

この式で、債務残高GDP比が60%に収束したとしましょう。このとき、「今期の債務残高GDP比=前期の債務残高GDP比=60%」ですから、名目成長率をgとして、以下が成立します。

財政赤字(対GDP)= g×債務残高GDP比   (2式)

1995年度から2018年度までの名目GDP成長率の平均は年率0.39%ですから、名目成長率を0.5%、すなわちg=0.005とすると、債務残高GDP比が60%のとき、財政赤字(対GDP)=0.3%という値が求まります。

0.3%という値は概ねゼロですから、財政赤字(対GDP)≒0で、財政収支は均衡する必要があることが分かります。元々の財政赤字(対GDP)が3%のときは、収支を約3%ポイント改善する財政再建の努力が必要なことを意味ます(脚注)。

なお、債務残高GDP比が現在と概ね同じ水準の200%のときは、財政赤字(対GDP)=1%という値になります。この場合、元々の財政赤字(対GDP)が3%のときは、収支を約2%ポイント改善する財政再建の努力が必要です。

(脚注)内閣府が2019年7月下旬に公表した中長期試算では、慎重な成長率を前提とする「ベースラインケース」でも、2021年度以降、名目GDP成長率の平均は1.2%程度を見込んでいます。このような成長率の前提でも、2028年度の財政赤字(対GDP)は2.3%までしか縮小せず、それ以降では赤字拡が拡大傾向にある推計結果になっています。

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小黒一正(法政大学教授)

法政大学教授/鹿島平和研究所理事/新時代戦略研究所(INES)理事。『財政危機の深層』『財政と民主主義』『薬価の経済学』など著書多数。専門は公共経済学。世代間問題や財政・社会保障を中心に研究。

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