見出し画像

本当に濃厚接触者の積極的調査をしないから感染者数が減少しているのか?

 東京都では年末から年始にかけて感染者の異常な増加傾向がみられましたが、緊急事態宣言発出後はそれによる効果かどうかは不明確としても減少していることは明らかです。しかしながら依然として療養者数と病床使用率が「ステージ4」に該当している地域がほとんどであり、医療提供体制は厳しい状況が続いています。政府は当初予定していた本日(2月7日)が期限の緊急事態宣言を、栃木県を除く10都府県で3月7日まで1カ月延長すると決定しました。

  感染者が急増したことにより保健所業務が逼迫し、新型コロナウイルスの感染経路や濃厚接触者を追跡する「積極的疫学調査」を縮小する動きが広がっています。世間的に最近の感染者の減少は「濃厚接触者の検査を行わなくなったことが原因ではないか?」という声が少なくありませんが、本当に検査数が減り濃厚接触者が放置状態になっているでしょうか?報告されていない陽性者が街中にあふれているのでしょうか?

 私の診療所でも確かに1月中旬以降から保健所からの濃厚接触者の検査依頼件数は減りました。1月中旬くらいまではほぼ毎日、1日に数件の濃厚接触者と認定された方々の検査を行っていましたが、2月に入ってからは1週間に数日で件数も1-2件で、ほぼすべて家族が陽性者だった場合の検査です。多くの方は濃厚接触者=感染者と思われるかもしれませんが、濃厚接触者で検査陽性となる方は概ね1割程度です。検査陰性でも2週間程度の隔離生活を送ることになるのですが、その間に症状が出現する方もほとんどおられません。また保健所から指示がなくても「一緒に会食をした人が2日後にコロナ陽性だった」「同僚がコロナ陽性になったので検査をしてほしい」という問い合わせはこれまで通りありますので、多くの都民は感染リスクがあった場合には、保健所では検査を断られたとしても医療機関にコンタクトしている可能性が高いと思われます。しかしその問い合わせ件数も先月に比べるとかなり少なくなっています。すなわち、濃厚接触者が追えていない→→検査をしていない感染者が放置されている→→ 報告されている検査陽性者が少ない という考えは疑問であり、もし検査をしていない感染者が街中にあふれているのであればその中から症状のある感染者が一定数出現してくる訳であり、そのような方々が医療機関を受診して検査が陽性になれば必然的に報告数が増加してきます。また検査数が足りていなければ陽性率が上昇しているはずですが、直近のモニタリングでは検査陽性率はむしろ低下しています。

 2月に入ってからは自院での検査陽性者数はさらに少なくなった一方で、発熱して受診される方はむしろ多くなったような印象ですが、検査で陽性になる方はほとんどいません。私は緊急事態宣言も然りですが、感染者数の減少傾向は「国民一人ひとりの努力の結果のあらわれ」であると信じています。それでも「専門家の言うことはあてにならない」「無症状の人があちこちにいるだろう」と疑う方も少なくはないと思いますが、無症状の方がスーパースプレッダーのように多くの人にうつしまくる可能性は高くないことは先日実施された抗体検査においてある程度は実証されています。

 その一方で、医療機関ではない民間施設や医療機関が郵送で行う検査数は東京都が公表している検査数に匹敵するほどの数にまで増加しているようですが、その実数は不明確です。実際に私のところを受診した方の一部の方はこのような簡易検査を既に受検されてから来ることもあります。現在の検査陽性率はあくまで東京都が把握して公表している検査数に対する陽性率であり、これらの検査数は把握されていないと理解しています。検査陽性者は医師の報告義務があることから、公表されている感染者数には反映されていると考えられますので、真の陽性率はさらに低いのではないかと推測しています。むしろ簡易検査陽性になった方々がしっかりと医療機関を受診していない可能性があることを国や自治体は積極的に調査すべきであると考えます。

 積極的疫学調査は新型コロナウイルス感染症が指定感染症(2類相当)であるが故に行政の封じ込め対策として行っているものと考えられます。感染症法の見直しについては賛否両論があり、議論の余地が大きいところではありますが、新型コロナの感染者と接触した場合には、まず自身がどのような接触状況(マスクの有無、接触時間、場所など)であったのかを考えたうえで医療機関に相談し、医療者も行政に丸投げするのではなく、濃厚接触者に該当するのか否かを判断した上で検査を実施するなど、保健所に頼らずとも我々ができることはしっかりとあるのです。しかしながら法律のもとで動かなければならない現状では時に実践することが難しく、この問題が解決するにはまだ時間がかかりそうです。

#日経COMEMO #NIKKEI

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?