”欧州≠一枚岩”の一つの証拠
にわかファンが急増したであろう2018年FIFAワールドカップ・ロシア大会も、日本敗退以降、案の定日本では急速に熱が冷めてきてしまった。やはりというべきか、欧州のサッカーの強さは定評通りで、ベスト4はベルギー、フランス、イングランド、クロアチアの欧州勢となった。その欧州、サッカー熱はどの国もかなり強そうだが、やはり一枚岩というわけではない。
現在、欧州でもっとも大きな軋轢と議論があるのは二次移民問題(一度移民としてどこかの国に入った後、次の国に移ること)だ。イタリアのように強硬に受け入れに反対する国とドイツのように比較的穏健な考え方が、大きく異なっているためだが、このところはポピュリズムの流れが強く、ドイツメルケル首相の政治的ネックになっていることは広く知られる。
更に、ECBの声明にも小さいながら面白いことがある。ECBは6月に金融市場にとってサプライズとなる「2019年夏の終わりまでは利上げしない」という声明を発表した。しかし、これが各国中銀の解釈が違うからか、言語が必ずしも英語を母国語としないためにニュアンスが違うからか、意図的なものか意図せざるものかもわからないが、各国での発表が少しずつ違っているのである。
英語とイタリア語版では「少なくとも夏の間を通して現行水準にとどまると予想している」とし、フランス語版およびドイツ語版では「少なくとも夏までは現行水準にとどまると予想している」とし、スペイン語版では「少なくとも夏の間までは現行水準にとどまると予想している」とある。付け加えるなら、フランス語版とドイツ語版では発表当初は「夏の終わりまでは」とされていたが、後に「終わり」という単語が削除された。「夏の間を通して」、「夏までは」、「夏の間までは」は、まったくもって似たようでありながら、では実際何月までのことを言うのかというと、かなりの幅が出て来るのではないか。夏を仮に7月から9月末までの三か月とすると、9月中に次の利上げがあるのか、9月末までは利上げがないのか、は正確に判断できない状況になるであろう。
考えてみれば、およそ同じでも、細かい規定を同じ理解で捉えるようにすること自体大変な苦労が必要であろう。通貨ユーロを創設するまでは大同小異で行こうと結束できても、次第に綻びが出てしまうのも、言葉の違いや解釈の違いでも仕方がないようにさえ思えてくる。欧州の結束を疑うわけではないが、やはり一枚岩というわけにはいかない、という面は拭えない。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31784030U8A610C1MM8000/