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GAFA時代には「パーソナライズ経済制裁」がやってくるかも

ロシアのウクライナ侵攻をめぐって、経済制裁の一環としてロシア市場から手を引く西側企業が増えています。この記事にあるように国際的な銀行間決済システム「SWIFT」からのロシアの締め出しという政府主導の制裁だけでなく、クレジットカード大手のVISAやマスター、ビッグテックのアップルやマイクロソフト、アドビなどが相次いでロシアでのサービス提供を停止しています。

金融やITは単なる製品ではなく、プラットフォームです。プラットフォームという概念はだいぶ理解されるようになってきていますが、「まだよくわからない」という人のために少し解説しておきましょう。

プラットフォームの意味を復習

新聞というメディアの例で考えてみます。新聞記事は、新聞社に勤める記者が取材して原稿を書き、新聞社の編集局で記事になり、レイアウトが組まれて見出しも付けられて新聞紙という紙の媒体に印刷されています。印刷された新聞はトラックで新聞販売店に運ばれ、自転車やバイクで読者のもとに届けられ、トラックの配送も新聞販売店も新聞社の系列なので、新聞社という大きなグループの中で取材から配達までがすべてまとめられています。縦にすべて統合されているので、これを「垂直統合」と呼びました。

ところがインターネットが普及して、この「垂直統合」は解かれていきます。ヤフーニュースやスマートニュースのようなポータルサイトやニュースアプリで読まれたり、ツイッターやフェイスブックなどのSNSでシェアされて読まれたりするようになりました。ヤフーやスマートニュース、SNSは特定の新聞社の情報だけを届けているのではなく、新聞やテレビ、雑誌、ウェブメディアなどありとあらゆるコンテンツの情報を流しています。

つまり新聞社という情報の供給者とは分離して、水平に広くさまざまな情報を広めています。これが「水平分離」と言われているもので、ヤフーやSNSが「水平」の土台、すなわちプラットフォームとなったわけです。

たとえばアマゾンという広大なプラットフォームは、リアルの商品だけでなく電子書籍から映画、ドラマ、音楽まであらゆるコンテンツを水平に集めて販売しています。このようにプラットフォームは水平であるがゆえに横に広がりやすい。これがゆえにプラットフォームの独占支配が2020年代にはいって、アメリカでも欧州でも問題視されるようになってきているというわけです。

AIによってプラットフォームはさらに進化した

くわえてプラットフォームがAIを積極的に活用し、情報や商品と消費者とのつながりを全自動で最適化するようになり、これがプライバシーを侵害していると批判もされるようになりました。

このプラットフォーム的な概念はいま、GAFAのビジネスの領域にとどまらずに産業のあらゆる分野に広がりつつあります。たとえば自動車はこれまでは純然たる「ものづくり」のビジネスでしたが、自動運転とEV化によってプラットフォーム化されていくと言われています。つまり単体で走るのではなく、プラットフォームによってクルマが走行中もコントロールされるようになるのです。

新時代の経済制裁ではクルマがすぐに動かなくなる

経済制裁に話を戻しましょう。プラットフォーム時代における経済制裁は、以前の経済制裁とはまったく違う様相を見せています。

たとえばプラットフォーム以前だったら、自動車会社がロシアへの輸出をストップしたとしても、すでに輸出ずみでロシア国内を走っている自動車にはすぐには影響は出ません(もちろん中長期的には、部品を輸入できず故障しても直せないという問題は起きてきます)。しかしプラットフォーム以後は、自動車会社が自社の自動車へのコントロールを中止した瞬間に、クルマは動かなくなるということになります。

アップルは今回のロシア制裁で、iPhoneなどの販売を中止しただけでなく、Apple PayやApp Storeなどがロシアで利用できないようにしました。Apple Payの決済は使えなくなり、App Storeで新しいアプリをインストールすることもできなくなったのです。VISAやマスターカードも停止措置をとったため、ロシアではプラットフォームを使ったお金の支払いがいきなりできなくなり、タイ・プーケットなどの海外リゾートに滞在中だったロシア人も立ち往生してしまったということが報じられました。

プラットフォーム時代にはこのような経済制裁ができてしまうのです。

ざっくりした制裁は相手国の国民を苦しめる

いっぽうでフェイスブックやツイッターはロシアでの利用を停止していません。これはロシア国内で、プーチンの戦争に反対する人たちまでもがあおりを受けて連絡不能になってしまうことを避けるためです。アドビも同様で、製品の販売は停止していますが、アドビ・クリエイティブ・クラウドのサービスは停止していません。これもやはり反戦を訴えるメディアや個人が利用することを妨げないためで、実際、ロシア政府の支配下にあるメディアからのクラウド利用については停止させているようです。

プラットフォーム時代にはこのように、ざっくりした輸出禁止ではなく、ピンポイントで利用停止ということが可能になってきているのです。

現実になった中国の「マイノリティ・リポート」

中国のウイグルでは反政府運動に携わる人をAIによって予測し、先んじて取り締まる「予測的取り締まり」という恐ろしいことが行われています。まるっきり映画「マイノリティ・リポート」のディストピアですが、この「予測的取り締まり」は今後は他国への経済制裁にも使われていく可能性があるでしょう。つまりひとつの国をまるごと制裁対象にするのではなく、AIによって制裁が必要な組織や人物を推定し、そこにピンポイントでプラットフォームから利用中止のような制裁をかけていくという未来です。

今回のロシアに対する制裁が大規模なものになった背景には、核を所有するロシアの脅威によって西側が軍事介入に踏み切ることが難しいということがあります。しかし大規模な経済制裁は、プーチンやそれを支えるオリガルヒ(新興財閥)だけでなく、ロシアの一般国民の生活を窮地に追い詰めてしまいます。いやそれどころか、富を蓄積しているプーチンやオリガルヒは比較的安泰のままで、一般国民だけが悲惨な生活に追い込まれていくという事態も予想できます。

そうであれば一般国民をまとめて制裁してしまうのではなく、いかにしてピンポイントで必要なところに経済制裁を加えていけるかというテクノロジー的な課題が浮上してきているのかもしれません。それを解決するひとつの方法として、AIを駆使してプラットフォーム経由でパーソナライズされた制裁を加えるという可能性が出てきていると言えるでしょう。

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