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311の日経朝刊に出た「エネルギー改革 道半ば」の記事。おおむね事実関係が正しくまとめられた記事だと思います。原子力を停止させ、火力発電依存が高まったことで燃料コスト増(→電気料金上昇)、CO2増加の問題が生じていること。再エネのコストが諸外国と比べて2倍程度に高止まりしており、国民負担が2018年度単年で2.4兆円にものぼっていること、原子力は再稼働が進まず、新増設は議論すらされていないので技術や人材の維持からして難しくなっていることなどが網羅的に書かれています。

ただ、「では、どうせよ」という部分については、「道半ばの改革を前進させる」しか書いてありません。新聞なので事実関係が正しいことが重要なので、十分と言えば十分なのですが、ちょっと残念。

そもそも電力システムの改革の目的は、①電気料金の引き下げ、②消費者への多様な選択肢の提供、③安定供給の確保の3つだとされています。ただ、その目的通りの効果が出ているかというと、先行する諸外国の事例を見てもはかばかしくありません。①の料金について言えば、自由化した最初の数年下がってもその後上昇に転じてしまった事例がほとんどであると報告されていますし(諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査報告書)、②の消費者の選択肢については、一部再エネの活用などを謳ったメニューも出てきてはいますが、ほとんどが価格競争に終始し目新しいサービスといったものはほとんどありません。今後例えば、自宅の屋根に乗せた太陽光発電の余剰を隣近所で売買するようなことも期待されますが、現状では、計量法や電気事業法の制約があります。計量法なんて、皆さんあまり意識されたことは無いと思いますが、消費者保護の観点から、電気料金の請求に利用するデータは計量法の定める検定を受けたメーターで取得したものに限られるのです(タクシーメーターなども同様ですね)。が、そのようなメーターのコストは高いので、個人宅の太陽光という「ちょっとした余剰」を販売するためにそのようなメーターを導入したのでは事業が成り立ちません。その辺の規制も緩めないと、技術があってもビジネスとして成立せずになってしまうのです。とはいえ、取引に使われるデータの信頼性確保は重要ですから、「規制緩和しろ!」で済む話でもありません。また、余剰の電気を他の消費場所まで届けるには送配電線を使わざるを得ませんので、電線を使うからにはきちんと電気事業法の制約に則っていただく必要が出てきます。

そして③の安定供給ですが、安定した電力供給の確保には、投資が適切に促され、必要な設備が維持されることが重要です。大規模かつ長期の投資が必要になる発電設備への投資は、これまでは規制を通じて必要な量が確保されてきました。自由化した場合は、市場の需給調整機能、すなわち市場価格が与えるインセンティブによって、適切な設備量が維持されなければなりません。この問題が重要なのは、電気については「多少足りなくても良いじゃん」が通じない特殊性があることです。

例えば年末年始に通信が集中すると、携帯がつながりにくくなるといったことはどなたでもご経験があると思いますが、いっぺんにさばける通信の量を越えたとしても通信システム全体が崩壊することにはならず、容量以上の利用が制限されるだけです。電気はそれとは全く異なり、需要と供給のバランスが崩れると、システム全体が崩壊する恐れがあるのです。2018年9月、北海道胆振東部地震によってその時点の道内の電力需要の半分を供給していた火力発電所がトラブルによって停止し、さらに風力発電等も周波数の乱れた系統から自身を切り離して自身の身(発電設備)を守ったために、供給が需要と大きく乖離してしまい、全道停電に至ったことはご記憶の方も多いでしょう。

先日、「”自由化”してうまくやっていくのは実はとても難しい」でも述べた通り、「おまとめパックでうまくやっておけ」と電力会社に言って、コスト 査定をすればよかった時代とは違うので、電力システム改革をしたうえでうまくやっていくのは非常に難しいのです。

改革そのものに反対なわけではなく、こうした課題や弊害なども認識したうえで改革を行うべきだったと思っています。ただ、当時は、そうした主張は「抵抗勢力」とされ、「規制緩和」や「システム改革」が善という「雰囲気」が議論を阻んでしまった点は否めないでしょう。改革が道半ば、なのか、改革というものへの理解が道半ば、なのか・・・。

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