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カスタマイズは独自性の表現になるか

日本人は、おそらく世界的に見てもカスタマイズが好きな国民性なのだろうと思う。たとえば、日本人の多くがiPhoneを使っていて、日本のスマートフォンの半分はiPhoneという調査結果もあるが、一方で、そのままでは画一的なiPhoneを、アクセサリーなどで自分だけのものに「カスタマイズ」している人も多い。「デコる」といった言葉があることにも、そういった傾向を感じ取ることが出来る。

こうした傾向は、個人の持ち物にとどまらず、ビジネスの場においても、カスタマイズすることが自社の独自性を示し、それによってアイデンティティを保とうということが、意識的にもまた無意識のうちにも行われていると感じることがある。あるパッケージのソフトウェアの販売などをお手伝いしていても、パッケージをそのまま導入することを考えているケースは少なく、特にほとんどの大企業では、大なり小なりカスタマイズの要望を持っている。

もちろん、カスタマイズが一概にいけないことだということではない。個人に関わる部分では、カスタマイズによって持ち物への愛着が生まれたり、他の人の持ち物との識別が容易になったりすることの価値はある。また、基本の型が共通であることが「カスタマイズ」の前提になるが、特注品としてオーダーメイドすることが現実的ではない場合には、カスタマイズという手法は規格品と特注品の間に存在する現実解でもあると思う。

ただ、問題は、カスタマイズをすることによって発生する金銭的・時間的コストが往々にして意識されていない、というところにある。特に、企業や組織において、カスタマイズがもたらすメリットとデメリットをきちんと考慮したうえでカスタマイズする選択肢がとられることが、どれほどあるだろうか。多くの場合、前例踏襲で「これまでこうやってきたから」という理由で、前例に合わせることがカスタマイズの最大の理由になっていないだろうか。

もちろん、こうしたカスタマイズによって、ユーザーが新しいものを以前のものと同じように使えて利用のハードルが下がる、といったメリットもある。一方で、ソフトウェアであれば追加の開発に金銭的なコストだけでなく時間的なコストも発生し、導入が遅くなる。ハードウェアにしても、新たに金型を起こすとか、規格品とは異なる部材を使うといったことになれば、その制作や調達にお金も時間もかかることは変わらない。

こうしてカスタマイズをしたところで、基本は規格品のマイナーチェンジにすぎないなら大同小異ということにすぎず、それは独自性の表現であるとまでは言えないだろうし、その範囲を超えてカスタマイズするなら、ゼロから作った方が早くて良いものができるケースも少なくないだろう。

人口減とそれにともなう市場の縮小をうけて、少しづつ「カスタマイズ」の呪縛から抜け出す動きも出てきた。

このケースでは、航空機の機種統一であって、狭い意味でのカスタマイズからの脱却ではないかもしれないが、会社の選択を標準化するという意味では、脱・カスタマイズによる収益改善、つまりは時間的金銭的コスト削減の動きと理解してよいと思う。各社の独自性や競争力は、本質的にはトータルなサービスの中身においてこそ発揮されるものであって、採用機種の違いが競争力や独自性の源泉ではないはずだ。仮にそうであるとするなら、他社が同じ機種を採用することで独自性も競争力も失われる、ということになる。

一方で、本来は民間よりもカスタマイズの呪縛に囚われずにすむはずの行政機関が、まちまちな書式や手続きを定めていることによる弊害が起きている。被災者に対するAIを活用したサポートの導入に、行政手続きの不統一で不必要な時間やコストがかかっている、という指摘が下記の記事にある。この違いが、地域住民の独自の要望にもとづくものであれば、地域性として一定の合理性があるといえるかもしれないが、そうではなく、単なる前例踏襲の結果であるとするなら税金の無駄使いであると言わざるを得ないだろう。

個人のケースを見ても、iPhoneの例でいえば、他人と同じものを持ちたくないという、独自性を重んじる意識であればiPhoneを選ぶ人はもっと少ないはずだし、現に他国との比較でも日本のiPhone比率は高い。他人と同じものをまず選んで同調したうえでの、小さな差別化がカスタマイズなのだろう。

もちろん、すべてのカスタマイズを否定するわけではないし、開発・製造元があらかじめ想定している範囲内でのカスタマイズは、一般的には費用も時間もさほどかからない。一方で、想定を超えるカスタマイズは、今後の日本社会にとって、不必要なコストを負担し、せっかくのお金を無駄遣いすることになる、というところに懸念がある。

コマツを再建した坂根社長(当時)について、経営共創基盤の冨山さんが次のように紹介している (なぜ「世界に冠たる企業」は日本から消滅したか
平成30年間の後れを取り戻す方法)

坂根さんは米「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌のCEOランキングで、日本人でトップの17位に選出されたこともあります。最大の特徴は、人並み外れた割り切りのよさです。たとえば会計、調達、製造などを管理するERP(基幹システム)を導入する際、安価なパッケージを選び、まったく改変しないで社内の業務をERPに合わせました。社内システムにコストをかけても、建設機械を買ってくれるお客さんが増えるわけではないからです。

その一方で、競争領域では積極的に投資しました。建設機械にGPSを搭載した「KOMTRAX(コムトラックス)」です。建機の場所、稼働状況、燃料残量などがわかるという他社との差別化では、デジタル革命の波に乗ったのです。

そのカスタマイズが本当に必要なものかどうか。これからの日本の企業人・組織人にとって意識的に自問しなければいけない問いであると思うし、真のコスト削減は、こういう部分で進めなければならないはずだ。

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