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客室収入だけでは儲からないホテル業界の収益事情

ホテル業界は、新型コロナの影響を最も受けているカテゴリーの一つで、2020年4月の客室稼働率は16.6%と壊滅的な被害を受けている。ホテル経営は設備投資額が大きな事業であり、損益分岐点となる稼働率は60~70%と言われている。それを下回る期間が長期で続けば、経営破綻するホテルも次々と出てくることが懸念されている。

新型コロナウイルスの感染拡大で、国内におけるホテルや旅館の宿泊客は消えかかっている。観光庁が29日に発表した4月の宿泊旅行統計調査によると、全国の延べ宿泊者数は前年同月比76.8%減の1079万人に急減した。客室稼働率は16.6%とこちらも大幅に低下した。(日経新聞2020/5/29)

コロナ後のホテル経営が厳しいのは、客室収入だけでは成り立たない収益構造も関係している。

ホテルの建物は、宿泊スペース(客室)が多くを占めているため惑わされてしまうのだが、各施設の来場者数でみると「レストラン>宴会>客室」という順になっている。

観光ホテルや旅館の場合には、宿泊と食事をセットにしたプランが一般的だが、収益の内訳は主に「食事代」で稼いでいる。そのため、地場の高級食材を利用したメニューを開発することで、客単価を上げることが成功法則になっていた。

都市圏にあるシティホテルの場合にも、宿泊料収入の割合が高いほど経営は厳しい。客室収入は「宿泊単価×客室数」によって限界売上が決まってしまうが、施設面積に対する売上効率を高めていかないと、次の設備改装に回すだけの利益が生まれてこない。

そのため宿泊サービスだけでなく、外部の顧客に対してレストランや宴会場を利用してもらうことが、経営的には重要だ。ホテルの宴会需要には「法人宴会」と「個人宴会」があるが、個人宴会=結婚式の利用が大半である。

「京都ホテルオークラ」を経営する、(株)京都ホテルの業績をコロナ前の時点(2018~2019年)でみても、客室稼働率は90%前後と好調ながらも、レストランと宴会部門の売上が宿泊部門を上回っている。

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(株)京都ホテルグループ IR情報

近年は外国人旅行者のインバウンド需要に支えられて、シティホテルの客室稼働率は80%以上を超えていたが、それでもホテル全体の経営を宿泊部門だけで賄うことは難しく、レストランと宴会部門の稼働率を高めることが収益向上の鍵を握ってきた。しかし、コロナ禍による飲食・宴会の予約キャンセルで、8割近い売上が消失している。

【ビジネスホテルはどうやって稼いでいるのか】

ちなみに、客室単価が2万5千円のシティホテルが宿泊料だけで黒字化できないのに対して、ビジネスホテルは客室単価が約8千円(東京地区)、地方なら4千円前後から泊まることができるにも関わらず、ほとんど宿泊料金だけで経営を成り立たせてきた。

それがどういうカラクリになっているのかというと、「土地・建物は自社で所有しない」「人件費を省いたローコストオペレーションに徹する」「代理店を介さない宿泊予約の直販比率を高める」という特徴がある。

建設コストでみると、高級志向のシティホテルが一坪あたり 120万円以上をかけているのに対して、宿泊特化型のビジネスホテルは大幅なコストダウンを実行して、坪単価は40~50万円で建てられている。

ビジネスホテルの経営は、客室稼働率が高ければ投下資金に対して8~12%の年間利回りが期待できるという触れ込みでオーナーを募り、全国にビジネスホテル・チェーンが拡大したが、これはあくまで30年以上にわたり宿泊客が減らないことを前提とした話である。コロナ禍で、客室稼働率が1/4にまで下がっている状況の中でも、ホテル経営者は、建物の家賃と人件費を払い続ける必要があり、資金繰りに奔走する日々が続いている。

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