見出し画像

AR/MRの未来は、「充電する」という行為から解き放たれる世界

コンタクトレンズ型という超小型ウェアラブルデバイス。その実用化が視野に入ってきたという記事が出ています。

コンピュータが生成した仮想的な物体を視界に表示する技術は、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などを総称してXRテクノロジーとか空間テクノロジーと呼ばれています。このうち製品としての進化が著しいのはVRですが、視界を完全に覆うヘッドマウントディスプレイを使ったVRはエンターテインメントの可能性は非常に大きいものの、日常的に常時装着するものではありません。

VRはエンタメ、日常生活はARとMR

日常生活での可能性として期待されているのは、リアルな物理空間と仮想物体を重ね合わせて表示するAR(拡張現実)やMR(混合現実)です。後者のMRはARをさらに進化させ、たとえば仮想物体が現実のソファの上にきちんと座れるなど、仮想空間と現実空間が融合しているように見せる技術です。

現状ではARもMRも、透過型のヘッドマウントディスプレイを採用するケースが多いようです。マジックリープの法人向け製品などがそのひとつ。

ただこのゴツいデバイスをつねに顔に装着して生活するのは、現実的ではありません。そこで期待されているのがふつうのメガネと同じような形状のARデバイスです。この方向としては2010年代初頭に発表されたグーグルグラスが有名ですが、成功とは言えませんでした(いまも法人向けに開発は続いていますが)。価格の高さやバッテリーの持ちの問題、プライバシーの懸念などが原因でした。

課題は「外見のおかしさ」と「バッテリー」である

とはいえ、AR/MRを日常生活に浸透させていこうとするテクノロジーの進化は、今後も止まらないでしょう。ここで考えなければならないポイントは2つあります。

(1)顔に装着するという鬱陶しさや外見の問題をどうするか。
(2)電池の持続時間をどう担保するか。

先ほど紹介したマジックリープのグラスをかけて街を歩く…というのも攻殻機動隊の世界のようで魅惑的ではありますが、食事のときなどにいちいち脱着するのはやはり面倒でしょう。これが小型化されて通常のメガネぐらいになってくれればよいのですが、それならいっそウェアラブル(身体装着)ではなくインプラント(身体埋め込み)のほうが楽なのではないか、という議論も出てきています。

そこでコンタクトレンズや、さらにその先の外科手術によるレンズ埋め込みという可能性が出てきているわけです。

白内障手術を受けてARの未来を感じた

わたしは長年乱視で、40代になると老眼もやってきて、ずっとメガネをかけていたのですが、10年ほど前にコンタクトレンズに変更しました。水蒸気で曇ることもないし、落としたりなくしたりする心配も少ないし、朝晩の装着さえやってしまえばなんと楽なんだろう!と感動しました。さらに昨年には意を決し、悪くなっていた左目の白内障手術を決行しました。

白内障手術ってものすごく進化しており、いまは手術時間わずか15分ほど。麻酔も点眼でおこない、日帰りでトータル1時間ほどで終了します。術後はガッチリした眼帯を装着させられますが、翌朝にはもう外せてしまう。眼帯を外して目をひらいたときの感動は忘れられません。世界がこんなに鮮やかになるなんて!

白内障手術は、薄く曇ったレンズ(水晶体)を超音波で砕き、かわりに人工レンズを挿入するというものです。いっそこの人工レンズがスマート化された電子デバイスだったらいいのに!と思いました。裸眼でも、目の前にTwitterのタイムラインやGmailが表示され、前方数メートルのところに100インチぐらいのサイズでNetflixの映画が配信される。

冒頭に紹介した記事で、米モジョ・ビジョンと日本のメニコンが考えているのはそういう未来でしょう。スマートコンタクトレンズやスマート水晶体を実用化しようとすると大きな課題になってくるのが、(2)の電池持続時間です。

モジョ・ビジョンとメニコンの提携を紹介した別の記事では、バッテリーの課題について書かれています。「安全性を考慮して全固体電池を用いる計画。モジョ・ビジョンは電池容量の削減のために、半導体チップを自社設計するなどして低消費電力化を目指す。消費電力をどこまで減らし、どこまで電池を小型化できるか。その状態で、どれくらいの駆動時間を確保できるか注目される」

スマートコンタクトレンズの本命はワイヤレス充電

詳細は不明ですが、「安全性を考慮して全固体電池を用いる」とあるのでレンズ内に電池を内蔵するという方向のようです。どのように充電するのかとかあれこれ考え出すと切りがありません。この電池については将来、わたしはワイヤレス充電に切り替わっていくのではないかと捉えています。

ワイヤレス充電はすでに規格化されてスマートフォンなどに採用されていますが、現状ではデバイスと電池をほぼ接触させることが必要です。しかし数メートルの距離でワイヤレス充電させる技術は実用化段階に入っており、たとえばNTTドコモのWi-Chargeという技術は赤外線レーザーを使い、4メートル離れたところからの充電が可能です。ミリ波やマイクロ波をつかう技術も各社が開発しています。

非接触ワイヤレス充電が実用化され、モジュールが超小型化されれば、コンタクトレンズや人工水晶体に給電することも可能になってくるでしょう。それはAR/MRが生活に完全に入ってくる世界の実現です。

「充電する」という習慣はいずれ消え失せる

非接触ワイヤレス充電は室内のみならず、自動車が走りながら道路埋設電池で給電するという未来にもつながっています。これも決して遠い先の話ではなく、スウェーデンでトラック車両を使った実証実験がすでに行われています。

人体への影響などまだハードルはさまざまにありそうですが、この技術が実用化されれば、私たちが長年やってきた「充電する」という習慣から完全に解き放たれるでしょう。家の中からコンセントの差込口も消滅するかもしれません。いずれ子どもや孫に「昔はねえ、長いケーブルで家電と壁をつないでたんよ」と昔話を語り、「ええーなんでそんな面倒なことやってたの!」と驚かれる日がやってくるでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?