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Z世代、そして私がライブに行く理由

人間が音楽を愛するのはなぜだろうか、そして「ライブ」という体験に魔法が存在するのはなぜだろうか、そんなことを最近よく考えています。

1)アメリカでのライブ事情

カリフォルニア、そしてアメリカ全体では、今まで以上に音楽ライブの現場が盛り上がっている。そこには、オンラインライブでは感じることができない観客の熱狂とアーティストの生き様、そして「生きている実感」を体験する機会がある。

このような調査結果が出ている。

「アメリカ人は夏のコンサートを楽しみにしており、特に40歳以下の人々はその準備ができている。アメリカ人の4人に1人が夏のコンサートやフェスに参加すると言われており、ミレニアル世代とZ世代ではそれぞれ36%と32%に跳ね上がる。
・音楽ファンは、パンデミックで被害を受けたアーティストを支援したいと考えている。今後ライブに参加する人の60%が、ミュージシャンとそのスタッフが1年間ツアーに出られなかった状況から回復するために、余分なお金を使うと答えている。
・ライブに行く人は、自分の体験を特別なものにするためにお金を使う準備ができている。フェスやライブへの参加を予定している人のうち、47%が以前よりも良い席を確保するためにお金を使うと回答している。また、27%がグッズを購入し、20%がVIPパスを購入し、9%がアーティストとの交流会にお金を払うと回答している。」

自分はSongkickというウェブサイトで、好きなアーティストのツアー日程やチケットの販売開始日を把握している。Spotifyアカウントと連携すると、フォローしているアーティストと類似するジャンルのアーティストが近くでライブをするとお知らせが来る仕組みになっている。開くたびに、好きなアーティストのほとんど全員がツアーに出ていることに驚く。約1年間半、レコーディングやオンラインでの楽曲プロモーションに徹底的に勤しんだアーティストたちが、その作った音楽やファンとの繋がりを実世界に披露する機会をやっと得た。そんな祝祭感さえ伝わる。

筆者は最近週1~2回のペースでライブに通っているが、必ずと言っていいほどMCでアーティストたちはコロナ中の孤独や苦しみを乗り越えた経験について言及している。YunaやBrasstracksなどに関しては、良く扱ってくれなかったメジャーから、一念発起してインディペンデントに転身した経緯についても語っていた。アーティストが困難にぶつかったときに誰が味方になり、誰がキャリアを推進させてくれるのか、多くのチームが再考するきっかけになったことを強く実感する。

TOKiMONSTA, Michael Brun, Vindata, Eli & Fur, Flight Facilities, Crankdatにツアーの再会についてインタビューした記事はこちら。

2)若者とライブの関係性

「過去5年間で、イベントに参加する人が劇的に増えている。実際に当社の調査によると、ミレニアル世代は服や車といったものにお金をかけるよりも、ライブ体験にお金をかけるようになっている。半数近く(48%)の人が、着る服よりも参加するイベントや体験のほうが、自分のことをよく表していると答えている。一方で、ミレニアル世代の3分の2は、自分の持ち物よりも、自分が楽しんだ経験から人間性を判断してほしいと考えている。(中略)ミレニアル世代とZ世代は、ライブ体験の力を根本的に理解しており、だからこそ日常的に行動を起こしているのだ。そして、この「やりたい」という気持ちは、次の世代にも波及している。」

Z世代やミレニアル世代といった「若者世代」の「ライブ体験」に対する考え方には、非常に興味深い傾向がある。コロナによって人との物理的な繋がりや一体感、そして共有できる高揚感が失われた先に、もっと「本質的」な体験を積みたいと考えるブームが生まれているとも考えられる。

「オムニコムグループのブランディング会社であるSiegel+Gale社のアソシエイトディレクター、ジェナ・イスケンはこう話している。”Z世代は、個性と自己表現を重視しる。最近では、学校やオフィスでのドレスコードが緩和されていることもあり、彼らは、自分の服装に個性を反映させる方法を見つけたいと思っており、今ではその機会が増えている”。また、Z世代の36%が規制が撤廃された場合、コンサートや映画への支出を増やすと回答し、32%がセラピーやジムへの入会など、セルフケアへの投資を増やすと回答しました。」

3)私にとってのライブの意味

「好きなアーティストを生で見たい」という単純な気持ち以上に、どのような体験によって個性やアイデンティティが形成されるのか、それによって自分が「どのような人」として他者から捉えられるのか、そのような自己ブランディングとも受け取れる思考を取っているZ世代は多い。これはSNS世代やデジタルネイティブ世代と呼ばれる経緯から考えれば至極当然のことだが、そこにまた、ティーンから20代で大切な時間と機会を奪われた世代ならではの緊迫感も存在する。

個人的には、音楽業界での仕事を始める前後でライブから受け取るものは大きく変わったように感じる。好きなアーティストを生で見る感動よりも、今ではファンたちが演奏を聴いて感情を揺さぶられる姿を見ることに、心が動かされるようになった。音楽を届ける側の人間として音楽を作り、世に放出する作業には不安、そして「実感のなさ」が伴う。

しかしライブ会場では、ファン一人一人がそれぞれ全く違う音楽人生を歩みつつも、その多様な喜びや幸せ、または哀愁やノスタルジーなど、複雑で多面的な感情と向き合い、同じ場でそれを共有する。「ライブ、そして音楽はコミュニケーション」なんてフレーズを見かけては(陳腐だな)と内心思うこともありつつ、やはりアーティストとリスナーが同じ景色を共有できることは、音楽にとって重要なことだと実感する。

音楽は、作る人や舞台に立つ人だけで構成されているわけではない。それを聴く人、愛する人、そして人生のサウンドトラックにしてくれる人がいてはじめて、「体験」として魂を持つようになる。胸を押し付けてくるように響く低音をライブハウスで浴び、目を閉じて自由に揺れたり踊ったり、笑顔を交わしたり、涙を流しながら大声で一緒に歌っている人を見ると、「社会」で他者と共に生きることについて考えさせられるし、自然と音楽の意味、そしてアーティストの社会的な立ち位置や責任とも向き合うことになる。

ライブに行く理由は、アーティストに会うため以上に、自分と他者との繋がりを音楽という形の「愛」を通して目撃するためなのかもしれない。

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竹田ダニエル
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