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パーソナルモビリティとしてのハイテク車椅子開発

本格的な高齢社会を迎える中、高齢者が気軽に外出ができる移動手段を整備することは、社会的に重要な課題になっている。

日本で車椅子の出荷台数は年間におよそ50万台。約200億円の市場規模があるが、その95%は手動式の車椅子で、足が不自由な人は、近所のコンビニやスーパーへ買い物に行くのにも躊躇しているのが実情である。高齢化により、車椅子の需要が伸びていくことは間違いないが、機能や使いやすさの面で進化が遅れている。そして、「車椅子=障害者の乗り物」というイメージが定着しているのも良くない。

その中、2012年創業のWHILL株式会社では、スタイリッシュで高性能な次世代型の電動車椅子を実用化させている。同社が開発した「WHILL」は、身体の障害の有無に関わらず、誰でも乗りたいと思えるパーソナルモビリティとしてデザインされている。独自に開発された「オムニホイール」という車輪には、24個の小さなタイヤが組み合わされており、最小半径76cmで回転して、5cmの段差を乗り越えることもできる。(一般的な電動車椅子は最小半径およそ145cm)

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2.8kgの軽量なリチウムイオンバッテリーにより、最高時速6km/hで16kmまでの距離を走行できる性能がある。大人が歩く速さは平均速度4km/h前後のため、それより速い移動も可能だ。

実際の走行可能距離は、Bluetoothで無線接続されたスマートフォンのアプリから確認することができ、3種類(のんびり・標準・きびきび)の走行モードが用意されている。急な坂道に差し掛かると音声案内で注意を促してくれる機能もある。

WHILLの車椅子製品には、購入タイプの「Model C(450,000円)」と、介護保険でレンタルできるタイプ「Model CK(月額レンタル料は月3,000円程度)」の2種類がある。製品の販路としては、全国に代理店制度を広げているが、購入型「Model C」については、自動車ディーラーとも契約を締結している。WHILLは車載ができる設計となっているため、自動車ディーラーにとっては、WHILLと自動車の購入を同時に勧められるメリットがある。

さらに、WHILLは車椅子の自動運転システムも開発を進めており、WHILLに組み込まれたステレオカメラにより、地図情報を周囲の状況を照合しながら、安全な自動走行ができる歩行領域のパーソナルモビリティとしての普及を目指している。たとえば、空港、商業施設、オフィスビルなどで目的のポイントまで自動運転で移動できる手段としての活用が期待されている。

ハイテク化したパーソナルモビリティとして「車椅子」の形に着眼する利点は、介護保険適用の福祉用具となるため、要介護認定を受けている高齢者向けには、安価なレンタル料金設定で普及台数を増やしていける。そのため、セグウェイのようなパーソナルモビリティ専用機と比べて、開発コストの回収がしやすく、事業を採算ベースに乗せやすい。そして、ハイテク車椅子を高齢者でなくても、日常の移動手段として利用しやすい乗り物にしていくことが、バリアフリー社会の目指すところなのかもしれない。

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