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2022年M1、山田かつてない採点、大吉先生と松ちゃんの覚悟、高得点出しがち志らく師匠をデータで確認する

2021年のテレビCMは定番シリーズに新風を吹き込んだ作品が話題を呼んだ。日経MJ同様、50周年を迎えた定番商品・ブランドのCMも目を引いた。日経MJが識者に実施したアンケートでは、日清食品の「カップヌードル」が最も広告効果が高いと思われるとの評価を得た。

「野村監督を彷彿とさせる毒舌ボヤキ漫才」で時代を切り開いたウエストランドの優勝で、2022年のM1は幕を閉じました。

思い返せば3年前、ぺこぱの「人を傷付けない優しい漫才」で、私たちは時代が変わったと気付きました。「令和ってこういうこと」と思ってました。

ところがどっこい。やっぱり「調理された毒」って最高だと改めて実感しました。アルコールは神経毒って言いますものね。社会の大きな変化が、同じM1の場から発信されたことに驚きを禁じ得ません。

もっとも、視聴者が1番驚いたのは、優勝発表直前の日清食品さんのCMのはずです。ここまでボケていいんだ! いいんです! 同じく、社会の大きな変化が、同じM1の場から発信されたことに驚きを禁じ得ません。

2022年のM1はオール巨人師匠、上沼恵美子さんの「勇退」に伴い、博多大吉先生、山田かつてない邦子あらため(親しみを込めて)邦ちゃんが審査員として加入しました。

邦ちゃんには「誰?」「大丈夫?」という心配の声もありつつ「なんだかんだ大御所なんだから」と軽くいなしていた大人たちも、カベポスターに84点を付けた瞬間は「マジか!」と一気にザワつきましたね。

ただ、大会を終わってみれば、毎度のことなのですが「変に注目を集めただけ」だったのではないでしょうか。そこで2022年のM1をデータで振り返ってみましょう。


①山田かつてない採点問題

まず、2022年M1の採点を振り返ります。

上から登場順、左から右へ座席順

カベポスターに誰よりも低い84点を付けた直後、真空ジェシカに誰よりも高い95点を付ける。この時点でTwitter上は荒れに荒れていました。

しかし、過去を振り返ってみると2019年のM1で松本人志さんもニューヨークに誰よりも低い82点を付けた直後に、かまいたちに95点を付けています。どうして邦ちゃんが問題になるのでしょうか?

ちなみに、カベポスターも真空ジェシカも、邦ちゃんの採点が入らずとも最終決戦には残れていません。

カベポスターは面白かった、真空ジェシカはイマイチだったから…なんて、それこそ主観の問題であり、そんなの邦ちゃんの得点が批判される云われはありません。私たちは「採点の民主主義化」を見たいわけでは無い。

ちなみに、7人の採点を比較してみましょう。相関係数を出してみると、山田邦子さんは志らく師匠と傾向が近いようです。

さて、ここから主成分分析を用いて7人の採点を縮約します。

■主成分分析とは…
たくさんある列を、全体が分かりやすく見通せる1~3程度の列(次元)に要約していく手法。この要約は「次元の縮約」という表現で呼ばれる場合もある。要約した合成変数のことを「主成分」と呼びます。
この辺りの実装、何をやっているかよく分からないという方は、7人の審査員の得点を、2列に圧縮したと捉えて下さい。7人でそれぞれ傾向があって分かりづらいのですが「似た者同士の2列」があれば、それを1列にまとめます。7人分のデータ→2つの傾向にまとめて可視化しやすくなったと考えてください。
2022年M1得点の主成分分析

毎年、志らく師匠と上沼恵美子さんが「真逆の傾向」を示しながら、それでも両方が「面白い」と認めたコンビが最終決戦に進出しておりました。それが今年は、邦ちゃんと大吉先生に様変わり。良い意味で採点に変化をもたらしてくれました。

ちなみに去年の主成分分析がこちら。

2021年M1得点の主成分分析

この採点の振れ幅こそが「審査」なのです。人が違えど、似たような観点で審査されたら、ヨネダ2000はどのように評価されたでしょうか?

評価するポイントが違うから一部の審査員にハマった(ハマらなかった)コンビが注目されますが、結局は、全審査員にハマったコンビが最終決戦に進むのです。

ちなみに、最終決戦に進出したロングコートダディ、さや香、ウエストランドを、各審査員の得点順に見て「1位〜3位」にしていたのは1人もいません。オズワルドだったり、男性ブランコだったり、微妙にバラけています。

得点を順位順に変化

もしロングコートダディ、さや香、ウエストランドを見抜けなかった審査員を1人選べというなら、ロングコートダディが5位だった大吉先生になってしまうでしょう。

山田邦子の採点は間違っているとか言ってる方々は、改めてデータを見て欲しいと考えます。


②松本人志さんの覚悟、大吉先生の覚悟

もう少し注目を集めて良いと思うのですが、松本人志さんは今回は同じ得点を付けませんでした。再度、得点を掲載します。

上から登場順、左から右へ座席順

86点〜96点まで、ほぼ1点差でキレイに刻みました。なるべく得点の重複が無いように採点されているようで、21年はハライチとももに92点を付けた以外はばらけていました。毎年そのような傾向にあるようです。

その逆で、90点〜94点の間でほぼ差を付けなかったのが大吉先生です。唯一の例外として、さや香に96点を付けました。大吉先生は何か頑なに90点以上であることを死守されているようでした。

箱髭図で見ると、よく分かります。

「良い」「悪い」の問題ではなく、何かしらの覚悟を持って採点されているし、それがデータから伝わってきます。

そもそもが「お笑い」に点数を付けるなんて言っている方が無茶なのです。無茶を道理にするために、何かしらのマイルールも必要だと思う次第です。

来年も同じような傾向になるのでしょうか。よりM1が盛り上がるよう、もう少し大吉先生には採点幅を広げて欲しいとは思うのですが、それもまた「覚悟」のうちなので、こればかりは仕方がないかもしれません。


③「高得点出しがち」立川志らく師匠

2018年からM1審査員を務める志らく師匠の採点の癖は「面白いだけじゃダメで、それを超えて分からない漫才を高得点とする」ことでした。

過去を振り返ると、志らく師匠が96点以上を付けた漫才師は8組もいます。

ちなみに冨澤さんは1組(19年ミルクボーイ)、塙さんは3組(19年ミルクボーイ、18年霜降り明星、19年和牛)、礼二さんは5組(19年ミルクボーイ、18年霜降り明星、21年オズワルド、21年錦鯉、20年マヂカルラブリー)、松本人志さんは2組(19年ミルクボーイ、21年オズワルド)なので、いかに志らく師匠が「高得点出しがちおじさん」か分かります。

志らく師匠が96点以上を付けた8組の漫才師のうち、最終決戦に進めなかったのは、2018年のトム・ブラウン(結果は6位)、2021年のもも(結果は5位)、ランジャタイ(結果は10位)と3組います。逆に、他の審査員が96点以上付けた漫才師は必ず決勝進出しています。

今回はロングコートダディ(2位通過)、ヨネダ2000(6位)、ウエストランド(3位通過)の3組に96点以上を付けました。ヨネダ2000はランジャタイ枠(元祖トム・ブラウン枠)として知れるようになるかもしれません。

見方を変えれば、志らく師匠は笑いのツボが広い、ということです。


④M-1 2023に向けて

今回もTwitterのわたしのタイムラインはM1一色となりました。検索トレンドもM1づくしとなり、同時タイミングで放映されていた「鎌倉殿」も、もうちょっと承久の乱を描いて12月25日を最終回にすれば良かったのに…と思うところもあります。

もはやM1は国民的行事となりました。漫才師を採点する審査員が審査され、審査員を審査する人たちすら審査される時代となったのです。頓珍漢なことを言ったら「データ的に考えておかしい」とオノ持ったおっさんから指摘が入ります。

恐ろしい話ですが、それぐらいに皆さんが真剣であり、エンタテインメントであるということです。

なぜならM1には夢があるから。以上、お手数ですがよろしくお願いします。

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