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コロナショックでGoogleが狙う教育プラットフォームの覇権

 新型コロナウイルスの影響が長引けば、小中学校は春休みが明けた4月からの通学再開が難しいという話も現実味を帯びてくる。そうした事態に向けて、各地の教育委員会や私立学校では、生徒の自宅と学校とをオンラインで繋いだ遠隔授業の検討も進めるようになっている。その時に問題となるのが、どんな情報端末やアプリを採用するのかということだ。

すべての家庭にPCがあるとは限らないし、マシンの性能やOSによっても使えるアプリは違ってくるため、学校として統一した教育プラットフォームを決めて、機材やソフトウエアの整備をしていく必要がある。この話は、やがて訪れるであろう未来の教育スタイルとしてイメージされていたが、図らずとも新型コロナウイルスが、その普及速度に拍車をかけることになるかもしれない。

こうした教育現場の動きに対して、Googleでは「Google for Education 遠隔学習支援 プログラム」として、全国の小・中・高等学校を対象としてChromebookの無料貸し出しを行っている。貸出期間は2/28~春休み終了まで。教員にChromebookを試用してもらい、Chromebook端末とアプリまでを含めたGoogle for Educationのプラットフォームを正式採用してもらうことが狙いだ。

【iPadからChromebookに乗り換える米国の教育現場】

 これからの教育現場では、教員と生徒がそれぞれ情報端末を持ち、電子教材を共有しながら学習を進めていくスタイルが主流になる。そこでシェア獲得の鍵を握るのは、情報端末の機種選定だが、米国の教育市場では、2014年頃まではアップルの「iPad」がトップのシェアを獲得していたが、2015年以降は、グーグルのChromebookが急速にシェアを伸ばしている。

日本で Chromebookの知名度と普及率は低いが、米国では教育用デバイスとしてのポジションを固めてきている。Chromebookには、グーグルが開発して無料配布するChrome OSが搭載され、DELL、ACER、サムスンなどの PCメーカーが各機種を製造している。ビジネスやパーソナル用としても使えるが、最も需要が高いのは教育用途である。米国内で使われる教育用端末の中で、Chrome OSは、Windows、Mac、iOSなどのライバルを遙かに上回り、約60%のシェア率を取っている。

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K-12 Education Market Continues to Provide Growth Opportunities to PC OEMs and the Major OS Providers

【教育現場でChromebookが使われる理由】

Chromebookの特徴は、まず物理的なキーボードがあるノートPCであること。これが、iPadのようなタブレット端末とは決定的に異なっており、教育現場では、生徒の学年が高くなるほど、キーボードで長文を入力したいというニーズが増えてくることが確認されている。

ノートPCの中では、Windowsとの比較になるが、Chromebook のほうが価格は圧倒的に安く、一般向けの端末が 200~300ドルで売られているが、小中高校が団体購入する際の卸価格は 150ドル未満にまで下げられている。

ただし、Chromebookにはメインメモリやディスクが最低限の容量しか搭載されておらず、アプリの利用やデータの保存は、すべてクラウドサーバー上で行うことを前提に設計されている。そのため、インターネットが繋がっていない環境ではほとんど使えない。

これを“不便”と思う人がいるかもしれないが、教育の現場ではむしろ“好都合”と捉えられている。OSの更新は自動的に行われ、アプリのライセンス管理などもすべてオンラインでできるため、教員が、教室すべての端末を個別にメンテナンスする必要がない。また、生徒が端末を家に持ち帰る場合にも、データの紛失や個人情報が流出するリスクが少ないためだ。

米国の小中高校では、生徒1人ずつが専用の情報端末を利用する場合、端末の所有形態としては、1/3は生徒の家庭が購入し、2/3が学校側が購入した端末を各生徒に貸与する方式になっている。

【無償て提供されるG Suite for Education】

 Chromebookを導入する学校が増えているもう一つの要因は、グーグルが無料で提供している GmailやGoogleドキュメントなどのアプリをクラス単位で導入しながら、グループ学習を進めやすいことがある。

グーグルでは「G Suite for Education 」という教育機関向けのプラットフォームをすべて無料提供することで、教員と生徒が多種類の学習アプリを活用できる環境を整備しようとしている。

GmailやGoogleドキュメントなどは、一般ユーザー向けにも提供されているが、G Suite for Education で発行される学校単位のアカウント(無料)では、メールアドレスは「@yourschool.edu」のように、独自ドメインを設定することができ、画面上に広告も表示されない。また、教師が担当する生徒全員の宿題や成績を管理したり、生徒からの質問にも返答できる「Google Classroom」というグループウエアも無料で利用することができる。

G Suite for Educationに準拠した教育コンテンツの充実については、Google以外のサードパーティ業者が、独自開発した教育アプリや教材コンテンツを登録することができ、教師はその中から授業に役立つものを選択して生徒達と共有することができる。グーグルでは、Google for Educationのプラットフォームを普及させるため、パートナーシップを結ぶ企業を広く募集している。

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教育分野のアプリは、学校で採用されると、クラス全員の子供と、その家庭でも使うことになるため、収益化がしやすいと言われている。教育アプリの収益モデルは、利用者の属性よって複数のライセンス体系を設定したり、学校向けに無料版のアプリを提供することでシェアを高めて、それよりも機能が拡張された有料版アプリを一般家庭向けに販売するなどの方法が考えられる。

「学校と同じ学習環境を、自宅でも整えたい」という家庭側のニーズは高く、学校で採用されたPCやタブレット、ソフトウエアは、家庭向けにも売れることが魅力になっている。

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