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日本はDXで生産性を上げる気のない国?

DXに対応できるか?

世界的なデジタル・トランスフォーメーション(DX)の波は、年々強まっている。特に、コロナ禍によって対面でのコミュニケーションが分断されたために、急速に進行した。新しいライフスタイルに、DXは欠かすことができないものになってきている。

一般生活者の目線で見れば、「デジタル化で便利になったなあ」「昔のアナログだった頃が懐かしい」というような牧歌的な感想を述べるだけで良いだろう。しかし、グローバル・ビジネスの視点で見ると、DXに対応できるかどうかは死活問題となっている。

発展途上国や新興国にとって、デジタル・トランスフォーメーションは変化に対応し切れない古い体質の先進国と追い越す良い機会だ。例えば、アフリカは農業を中心とした事業のDXで投資が世界中から集まっている。特に、ルワンダは、この10年でITスタートアップの先進国へと成長している。20年前まで内紛と虐殺で政情が不安定だった頃が嘘のような変化だ。ルワンダには、トヨタもドローンを活用した農業ビジネスで投資をしている。

また、先進国はDXで労働生産性の向上を目指す動きが活発だ。日本国内では世界最低レベルの労働生産性が問題視されているが、労働生産性を向上させたいという思いは何も日本だけの問題ではない。それどころか、PwCの第24回世界CEO意識調査の結果は、世界と日本の意識の違いを浮き彫りにしている。

同調査の「Q.貴社の競争力を高めていくために、人材戦略のどのような点を変えていきますか。」という質問に対して、世界全体で見た時のCEOが最も重要視している項目は「オートメーションとテクノロジーによる生産性の注力(36%)」であった。それに対し、日本企業のCEOの回答は、わずか15%(全13項目中6位)である。数値だけをみたとき、世界から日本は「世界最低の労働生産性であり、DXで生産性を上げる気のない国」と見られても仕方のない結果だ。

DXで仕事が無くなる恐怖に及び腰になる

DXによる生産性の向上で、日本社会に大きなインパクトを与えたのが2013年に公開されたオックスフォード大学のフレイとオズボーンの論文『THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?』だ。DXの推進によって、米国労働省で登録されている職の約半数が代替されるという予測だ。そして、DXによる雇用の代替は着実に進んでいる。メガバンクや保険会社を中心とした金融業界は、新卒採用者数を大幅に減らし、支店数を削減する代わりに、Fintechへの投資を加速させている。

DXの推進では、お隣の中国と韓国が進んでいる。無人コンビニや5Gを活用したスマート店舗も増えている。その結果として、店舗スタッフや現場に従業員を配置する必要性がなくなった。

DXによって、仕事が代替されるのは主に現場の従業員だ。そして、工場のライン工や店舗スタッフ、配膳係、配送センターの仕分け人、受付・窓口係などのスタッフは雇用の中で大きな割合を担ってきた。そこの人材が不要になると、どこかで雇用の受け皿を作る必要が出てくる。しかし、現状ではどの国も代替となる雇用の受け皿を準備できているとは言い難い。引用記事にあるように、韓国も若年層の失業率が高まっている。欧州に至っては、若年層の失業が更に深刻な問題となっている。

DXによる生産性の向上を目指すと、それまで多くの雇用を生んでいた現場の従業員の雇用を奪ってしまうことになる。特に、女性の就業機会を非正規雇用や現場の従業員として引き上げてきた日本社会にとっては大打撃を受ける。(そもそも、非正規雇用が女性の仕事になっている時点で間違えているという指摘は置いておく。)そうといって、DXによる生産性の向上に乗り遅れると、グローバル・ビジネスで周回遅れ扱いをされてしまう。

雇用の問題が絡んでくるために、この問題を行政や政府主導で行っていくには困難さがあるだろう。雇用率が下がることがわかっている施策を率先して行うことは考えにくい。そうなると、DXは企業がグローバル・ビジネスで生き抜くための経営課題として戦略的に取り組んでいくべきトピックだ。

このまま周回遅れ扱いをされているだけなら良い。新興国や途上国は失う物がない分だけ、劇的かつスピード感をもってDXを進めてくる。しかも、そのための資本は、グローバル投資に力を入れている先進国の企業が払ってくれる。金融業界のように、グローバル・ビジネスで生きていくために、DXにおける変化の苦しみを受容し、足を踏み出した企業もある。今のままのDXへの取り組みと生産性向上の意識の低さでは、ますます世界との差が広がるばかりだ。真綿で首を締めるように厳しい状態に陥っていくジリ貧の現状を認識し、変化に踏み出す姿勢が求められている。

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